済まない。少し道を教えてほしいのだが……。中
柱の上から悠然と見下ろすオルカは、表情が乏しいものの喜色を顔ににじませている。忘れ去られた神殿に見た目だけは儚そうである彼女がいるとなったら、それはそれは絵になることだろう。
「きれい……。」
ジュートが何か呟いている。確かにそうだ。彼女は明るい灰を基調としたドレスに身を包み、藍の髪がドレスに映えている。その落ち着いた雰囲気は美しさを感じさせるだろう。けれど、彼女はどこまでいっても《外れたもの》であり、悠長に眺めていられるような存在ではないことを忘れてはならない。
「何か用?」
ぶっきらぼうにフィリアが問うものの、わずかに口角を上げるだけでなにも答えない。
「何が目的? 速く答えて!」
「そんなに言わなくても聞こえてるよ。ちょっと感動しちゃってね。こんなに私に噛みついてくるのもほんとに久しぶりなんだよね。」
若干、涙目で感動している。思ったより感情的なやつである。
呆れた目でフィリアが見ている。警戒は解いていないものの毒気を抜かれたようである。
「それで……君たちは"これ"を取りに来たんだっけ?」
雑談のついでみたいな感じで出された棒状のもの、それを手の中で軽く弄んでいる。フィリアたちが怪訝な顔をする中、ジュート一人だけが驚き、叫んだ。
「あーーーー! それですーーーー!」
「そう、これが銀の錫杖。君たちの探していたものだね。」
銀の錫杖をジュートに向け、大正解といわんばかりの拍手を見舞った。
「なんであなたが持ってるんですか! フェイ様は神殿の奥に封印されてるって言ってたのに!」
「うーん、まあ封印したの私だし。」
「は?」
「そんなことはどうでも良くて、やっぱりこれ、欲しいよね。」
たたみかけてきている。先ほどまでの笑顔とは違い、一転面倒くそうな顔をする。ここからが本題のようだ。
力強く頷くフィリアを見て一つため息を吐くと、いくつか唸った。葛藤でもしているのだろうか。それも数瞬のうちに終わり、冷淡に語りかけた。
「帰ってもらえそうな雰囲気でもないし……はぁ、君たちの目標はあきらめてもらうことにするよ。ごめんね、しょうが無いことにこれが私の使命だからね。」
「どういうこと?」
「ふむ、渡してくれる気は……無いようだね。」
「何一人で納得してるんだ? ちゃんと教えてくれよ、エイド。」
「いやなに、そう
言い終わるや否や、オルカを中心にフィールドが展開される。
「《深理結界》」
薄く藍色に染まり、海の底にいるかのような感覚を覚える。淡く光が散乱し、廃教会はまた幻想的な光景に包まれ、その中心で機工の天使はやはり、微笑んだ。
「それじゃ、始めようか。」
――――――
激しい応酬が繰り広げられる。オルカを中心として銃弾が吹き荒れ、隙を見つけてフィリアとカラーが果敢に攻め込む。銀の錫杖はどこかへ仕舞われてしまったが、彼女が持っているのは確かだろう。
オルカの二丁の拳銃……拳銃型のデバイスというべきだろうか、近未来的な形をしているそれは、虚空から銃弾を撃ち出している。まさしく弾幕と言えるそれに剣士二人は苦戦していた。
「嬢ちゃん! 次行けるか!」
「まって、まだ来る。」
「クッ、さっきみたいには行かないな。」
避ける、逸らす、弾く……何とかして凌いでいるものの消耗しているばかりである。オルカはまだまだ余裕そうな顔している。
そんな中、戦地の後方、エイドとジュートが何をしていたかというと……何もしていなかった。いや語弊がある、何も出来ないことを確かめていた。
「やはり魔法が使えない……ジュート君はどうだい?」
「私はちょっとだけですが使えます。ほぼほぼ効果がありませんけど。」
魔法が使えない、そんなトラブルに見舞われていたのだ。完全に魔法に振り切ったエイド、多少自衛程度にメイスが使えるもののほぼ癒しの力を使う事しかできないジュート、そんな二人には致命的過ぎる状況である。更に、魔法を使った援護もできないため戦況は悪くなって行く一方だった。
エイドが色々試しながらボソボソと呟き続ける。しかし、結論に辿り着くには時間が少なすぎた。
「これは……違う、魔法は発動している感触はある。流れも確認したが特に問題はない……。いやこの結界が作用しているとしたら、どうしてこういう結果になる? 相手は理不尽の塊だ。あいつは何を変えているんだ?」
ハラハラと戦闘を見守る事ジュートは、エイドをサポートしつつ祈るしかできなかった。癒しの力が使えないのならば、彼らが傷ついてしまった時、致命傷を負ってしまった時に助けられるものはいないのだ。
オルカの声が聞こえる。
「まだ粘るの? しぶといねー、君たち。」
「断る。」
尚も力強く、フィリアは告げる。
「引くにも引けない理由があるんだよ。そっちこそ大人しく銀の錫杖を渡してくんないかな。」
強がりである。しかし、フィリアを父親に会わせてやりたいという気持ちが、彼を突き動かしているのだ。
「しょうがない、もうちょいギアを上げるかな。」
「ッ、カラー!?」
身構えた瞬間、カラーは遠く、地面に叩きつけられていた。カランと彼の剣が転がる音がした。
「ほらほら、余所見したらだめでしょー?」
「まずッ」
カラーを確認した一瞬の隙に差し込まれた攻撃を辛うじて弾くも、肩に大きな裂傷を負ってしまう。何とかオルカに対し正眼に構えるも、剣先が少々ぶれているようにも思える。
パラパラと透明な欠片が周囲を舞う。チラリと確認する。
「水晶?」
「あ〜あ、やっぱこんな狭いところで使うようなもんじゃ無いよね。制御し辛いったらありゃしない。」
水晶の羽根を備えたオルカはぼやいていた。そこまで把握してようやく何が起こったのかを悟る。
羽根を出した瞬間に加速し攻撃を加えた、それでカラーは地面に叩きつけられ、フィリアは肩に傷を負ったのだ。何とか凌いだのは良いものの、次、もう一回来たら避けられない。そういう予感をフィリアは抱いていた。
遅れてジュートの声が聞こえてくる。
「カラーさん! 大丈夫ですか! うぅ。」
若干涙目になっているもの、魔法以外での処置を進めている。意識は失っているが、命に別状はないようだ。エイドも参戦出来ないのを歯痒いと言った表情で見つめている。
ジュートの声を背中に受け止めながら、フィリアは殊更緊迫した空気が流れるのをひしひしと感じていた。諦めるつもりは毛頭無いが、かと言って勝つのは至難の業だ。
「ほんとに諦めるつもりは無いのね?」
「無い。」
念押しのように再度問うてくるが、フィリアはまたもはっきりと言い切る。
「じゃ、終わりにしましょうか。」
また戦いの火蓋が切って落とされる……
「済まない。少し道を教えてほしいのだが……。」
はずだった。予想外の声が響いた。
世の中はいつだって理不尽である。今まで予想だにしなかったことがゴロゴロと存在する。オルカ、いや定義者ですら予想できない
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