どうやら僕達は嵌められたようだ。

「どうやら僕達は嵌められたようだ。」


 彼らを囲む大勢の黒服を前に呑気な声が響く。月光さえ届かない深い夜の森の中、フィリア、エイド、ジュートの三人は小さな松明の火のみで戦わなければならないようだった。


「ど、どうしましょうか。」

「ん、全部切ればいい。」

「それじゃ時間がかかるだろう。街まで間に合わない。」


 長剣を持った少女がいささか物騒なことを言う。ジリジリと黒服が詰めてきているのにもかかわらず、呑気なことである。少年が時間を確認している間にも包囲の輪は小さく、もう目の前にまで迫っている。


「それじゃあ討ち漏らしだけ頼めるかな。」

「まあいい。」

「えっ、ええっ。何をするんですか。」


 約一名だけ何もわかっていないが、まだ仲間になって日も浅く仕方のないことだろう。不安げにしているもののできることがなく二人の背中の裏で縮こまっている。

 少年が杖を掲げると、その瞬間、周囲に数多の光の矢が現れる。突如、己へと狙いを定めた矢に黒服たちは歩みを止める。事前の情報になかったものであり、警戒度をた高める。


「照準良し、……発射。」


 小さい呟きと共に黒服に向けて光の矢が放たれる。周囲を煌々と照らしながら、闇と同化するような黒服達を的確に撃ち抜いていく。撃ち抜かれたもの達は次々と倒れていくが、数人撃ち漏らしが出たようだ。


「……やっぱりまだ甘いかな。」

「十分。」


 十数人を打ち倒してなお、まだまだだと少年がため息を吐く。直後、一瞬の煌めきが辺りを満たした。


「終わった。」

「え、え?」


 瞬く間に黒服たちが倒れ伏したこの状況に、ジュートは驚きの声を出すことしかできなかった。ぽかんとした顔を横目に倒した黒服を検める二人。雲が流れていったのだろうか、月明かりがそのまぬけ顔を照らす。


「ふむ。」

「何か見つかった?」

「いや、何も。この調子じゃ何も情報はなさそうだね。」

「一人ぐらい残したら良かった?」

「終わったことは仕方ないさ。」


 相変わらずの口調だが少々落ち込んでいるフィリアに、ひょいと肩を竦める。薄暗い中、短い付き合いだけれど、見慣れた掛け合いに再起動するジュート。


「お、お怪我はありませんか!?」


 いや、まだ起動中だったようだ。ジュートはそう口走った直後、赤面し、すみません……と小さく謝った。そんな小さくなっている彼女を振り返って、2人してフッと微笑む。


「怪我はない、大丈夫だ。」

「もうここには用はないし、もう少し行ったら村に着くだろう。行こうか。」


 はは,と笑いながら歩き出す2人をジュートは慌てて追いかける。そんな三人を淡く月光が照らしている。目的地までもう少しである。

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