神なのか?

モモん

第1話 裏切りと逃走

 世界が産まれる方法は二つ存在する。

 一つは超高密度の”種”が限界を超えて爆発する事で産まれる”創造”であり、俺が産まれ過ごしてきた日本が存在していた世界がそれに該当する。


 もう一つは、世界がパンパンに膨れ上がり、限界を超えて二つに割れてしまうケースだ。

 世界はオレンジに例えられる事がある。

 中の房を一つの世界として認識すれば分かりやすいだろう。

 そこに新しくできる房と、一つの房が分裂して2房になる感じだ。


 そして、一つの世界には一人の管理者が存在する。

 彼が管理者として紐付けされたのは、分裂により途中から独立した世界だった。



 その男は大手建設会社の庶務課で働く32才の独身だった。

 髪は、目立たない程度に少しだけ茶色に染めている。


 現場の庶務課というのは、様々な法律問題や委託契約の仕様書作成・設計書作成、建物管理に人事・労務管理など、多岐にわたる知識と実務能力を必要とされる。

 その夜、彼は徹夜後に23時までという、連続39時間勤務の終わりで、やっと一区切りついて帰ろうと立ち上がった瞬間に倒れた。


 彼が倒れたのは会社の事務所で、次に認識できた時、彼が存在していたのは暗い宇宙空間だった。

 

 知識は彼の脳の中にあった。

 そこは、分割により新規発生した直後の世界。

 彼が管理者になったのは、まったくの偶然だった。

 管理者の条件は知的生物というだけであり、新しい世界が発生したタイミングに死んだというだけの事だった。


 管理者といっても、別に役割がある訳じゃない。

 特にこの世界は新規発生ではなく、分割された世界であるために、物理法則等は既に定まっている。

 意図的にそれを変更する事も可能なのだが、彼はとりあえずそこには触れなかった。


 彼のいる場所は、地球が属する太陽系ではないようだ。

 大きく違う点は、第5惑星までが全部左回りしており、第3惑星と第4惑星両方に水が存在しており、地球型の大気が存在していた。

 そして、両方に生物が存在しているのだが、第3惑星には人間型哺乳類が繁殖している。

 第4惑星には爬虫類から進化した人型の生物が存在しており、今は星全体が氷期に入っていた。


 これには複数の原因があり、地殻変動による大気還流の変化や二酸化炭素濃度の低下が原因である。

 まあ、数100年も経てば元に戻るだろう。


 彼は何をしていいか分からず、とりあえず第3惑星に降りていく。

 ちょうどいいところに、死にかけている……いや、死んだ直後の若い肉体があったので、彼はそれと同化してみる事にした。

 幸い脳細胞は問題なく、傷を修復して肉体を制御して心臓を動かしてみる。

 脳から情報を引き出し、現在の状況を把握したのだが、その時には獣の咢が彼の首に噛みつく寸前だった。


 瞬間的にオオカミのような獣を突き飛ばし、キョロキョロと周囲を確認する。


 少し離れた場所にいる彼と同年代とみえる若い男女がギョッとした顔で彼を見ていた。

 彼らを取り囲むオオカミは12匹で、、警戒して距離をとっている。


 若者の脳から得た情報では、女はルキで男はランド。

 ランドもルキもその男の幼馴染で、男のランドは第3王子。

 ルキは彼の婚約者だった。


 ルキが口元を押さえながら「ウソ」と呟いて後ずさる。

 ランドが左手を彼に向けて何かブツブツと呟いている。

 それは魔法呪文の詠唱だった。


 彼の中に男の記憶が蘇ってきた。

 背中に感じる痛みは、ランドに斬られたものだった。

 だが、若者に同化したばかりの彼には、ランドに対する憎しみも怒りもない。

 ただ、これ以上肉体を損傷するのは避けたい。


 彼は男の体に、物理攻撃と魔法を無効にするシールドを展開した。

 管理者というのは、簡単に表現すれば神と同義だ。

 男に魔法の知識がなくとも、あらゆる事ができる。いわゆる万能なのだ。

 もし、その世界に存在しない魔法を使いたければ、魔法を創造すればよいだけの事で、彼もそれを理解していた。、


「やめておけ、魔法も物理も俺には効かない。」


「ふざけるな!今度こそ、息の根を止めてやる!」


 血液を相当の量失っているため、この体には休息が必要だ。

 彼はその肉体が存在する座標を書き替えた。

 まあ、瞬間移動みたいなものだ。

 何かが存在する以上、どこかにその情報は存在する。

 アカシックレコードのようなものだ。

 その情報を直接変えてやれば、世界はいかようにでも姿を変える。

 管理者の存在というのは、その情報を管理する者という事なのだ。


 記憶にあった男の部屋に移動した彼は、そのままベッドに横たわった。


 肉体の情報を変える事もできるのだが、例えば血液の量を増やすという事は、それを内包する血管の情報を変えてやる必要があり、更に外側の内臓の情報を……

 そういう風に、関連する情報全てを変更しなくてはならず、それよりは肉体に休憩をとらせる方が現実的な解決方法だった。


 8時間ほど睡眠をとった彼は、その屋敷の厨房にいって料理長に食事を頼んだ。

 突然現れた彼を見て驚いていたが、料理長に作ってもらった食事を摂って彼は部屋に戻る。


 肉体を休ませている間に、彼は脳からあらゆる情報を読み込んでおいた。


 この体はラーハイド国の王都に住むシュタイン・アルバードという侯爵の4男でロビンという名前だった。

 15才のロビンは、王立学園主催の5日間にわたる校外学習で、ロビンたち5人のグループは二手に別れて食材を捜している最中にマウンテンウルフに遭遇してしまった。

 引率の教師と指導役の冒険者からは、狩りは草原で行い絶対に山へは入らないように指示されていたのに、ランド王子が山中に入っていってしまったので、仕方なく後についていった。


 そして、周囲の確認中に背中に焼けるような痛みを感じ、振り返ったロビンが目にしたのは剣を抜いた王子と、そこに寄り添うルキだった。


「悪いな、ルキは俺がもらう。」


 嘲るように笑うランドの顔と、蔑むルキの表情が目に焼き付いていた。

 そこまでがロビンの記憶だった。

 彼はそんな事にはあまり興味はない。

 なぜなら、彼はロビン本人ではなく、たまたま肉体を得たのがロビンという体だっただけの事だ。

 折角手に入れた体だから、この世界の最強になってやろうとか思っているのだ。

 いってみれば、異世界への転生を実体験するみたいなものだ。


 ロビンの記憶から読み解いたこの世界は、江戸時代に魔法をプラスした感じだ。

 ワクワクしないはずがない。

 世界には蒸気機関が普及し始めており、火薬を使った大砲も発明されている。

 そして、大砲を小型化した小銃も開発されているらしい。

 15才のロビンは実際に見た事はない。


 楽しいじゃねえか。

 そんな世界で、万能の能力を持って遊べるのだ。

 彼はベッドの上で大声をあげて笑った。


 彼は父親であるアルバート侯爵に手紙を書いた。

 ランドとルキに陥れられ、剣で斬られて殺されそうになった。

 意識を失った直後、理由は不明だが部屋に帰ってきていた。

 多分ランドは俺が生きているのを知ったら、国王にウソをついてでも俺を排除しようとするだろう。

 このままでは家に迷惑がかかる可能性が高いので、俺は家を出るという内容だった。


 そして、背中の傷を治りかけの状態に戻してメイドを呼び、傷を確認させたうえで手当をしてもらい肩口まで伸びていた金髪を短く切らせた。

 メイドに手紙と斬られた上着、それと切った髪を束ねて、父親に渡してもらうように託した。


 彼はなるべく動きやすい服に着替え、剣とナイフなどと貯めてあった金を持って家を出た。

 正当な理由付けをして自由を得たのだ、二度と戻る事はないだろう。



【あとがき】

 最強冒険者の物語です

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