第4話

 「これが吸魔石だ」


 そう言われて手に取ってよく見ると石は真っ黒というより、やや透明である事が分かった。


「これに魔力を注ぎ続けるとどんどん透明になっていく。完全な透明や綺麗な赤や青になったらそれは魔石だ」


 魔石。それは魔獣や魔物が身体の中に持っている魔力の篭った結晶。

 魔力を自在に操れる者なら魔石から大量の魔力を取り出すことも可能だという。


「魔石って作れるんですね。知りませんでした」

「うんまあ、成人してから死ぬまで首にぶら下げ続けて魔石と呼べる所までもって行けるかどうかってトコだけどな」

「あ、なるほど」

「でも集中して魔力を注げば少しは色が変わるから魔力が有るかどうかの判断基準にはなるんじゃないか?」


 窓を締め切ってランタンの灯りだけで白い布の上で透明度を見て、ギルドの魔石鑑定表のグラデーションと照らし合わせてどれくらいなのか見る。


「今は10段回の下から1と半分くらい。8.5って所だから一週間ばかり頑張って魔力を注いでみて8までいけたら魔力は充分にあると思って良い」


 俺はうなずいて吸魔石を受け取った。



 塾での勉強や魔術の修行はそんな感じとして、俺は肉体のトレーニングも開始した。

 友達と遊びで走る時は力一杯走る。

 友達と泳ぐ時は力一杯泳ぐ。

 あとは寝る前に腕立て腹筋スクワットである。と言っても全部たった10回ずつだが。

 なるべく早い内にとうさんのような身体になりたい。広い肩幅、引き締まった腹筋、太い腕。

 そこには男の魅力が詰まっている。


 モテボディを手に入れてかあさんのような清純派少女を落とすのだ!

 正直、同年代の村の女子にめぼしいのは居ない。みんなガリガリに痩せてて、炭みたいに真っ黒に日焼けしてて、髪の毛はボサボサなのだ。

 しかしオンナは化ける。

 今は生え変わり時期の歯の抜けた大口を開けてゲラゲラ笑っていても、ちょっと目を離した隙に色白の髪サラサラ女子に生まれ変わったりするのだ。

 

 俺は前世で一回だけ告られた事がある。

 中ニの時だったか、クラスの暗い女子にバレンタインデーに告られた。ニキビ面の瓶底眼鏡の歯列矯正女子だった。

 理由は同じアニメが好きだったからだとかなんとか。

 今思えば全でがフラグだと解る。ニキビが治ってコンタクトレンズにして矯正が終わればそこには絶世の美女が!となる鉄板のコースである。

 しかし当時の俺はそれに薄々勘付きながらも、花が咲くのを待つことができなかった。

 こんなブスと付き合ったらみんなから馬鹿にされると思っていた。

 しかも最低なことに、その子は勇気を振り絞って告って来ているのに、俺は聞こえなかったフリをして立ち去ったのだった。

 お寒いことだが当時の俺はそれをカッコイイと思っていたフシがある。いや、思っていた。今となれば、どこがカッコイイんだ馬鹿じゃないかと怒鳴り付けたくもなるが覆水も盆の踊り子である。


 それが前世の俺の最初で最後のモテ期であり、人生最大の汚点であり、負け犬人生が確定した瞬間でもある。


 だって、花も恥じらう中ニ女子の恋心を踏みにじったのだ。

 きっとそれが呪いとなって俺の人生に降りかかったのだろう、、、


 そう。その夏、俺は通うのが楽だという理由で近所の“男子校”に進学を決めたのだった。


 ああ、なんと惜しいことをしたことか。

 成人式の頃にはその彼女が某有名大学の準ミスになったと噂が流れてきたのだった。。。



 俺は異世界でのこの人生では同じテツは踏まない。

 カラダは鍛えるし、仕事も勉強も頑張るし、女心にも敏感になり、優しく接するのだ。


 心の隅の方に、俺の死因になった「過労」に対する恐怖が微かに明滅したが今は自分の可能性を最大まで引き上げて人生の下地を整えるべきだ。苦労は若いうちにすべし。

 うん、間違ってない。大丈夫だ。


 筋トレ、勉強、女に優しく

 筋トレ、勉強、女に優しく!

 筋トレ、勉強、女に優しく!!


 そう念仏のように唱えながら胸にぶら下げた吸魔石を握りしめ魔力をチカラ一杯注ぎながら眠りにつくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る