貧乏神だ!と武器屋をクビにされた私、スキル検査を受けたら本当に【貧乏神】……どころか【疫病神】だったんですけど!?

天井 萌花 / お祭り自主企画開催中!

第1章 冒険者生活の始まり

第1話 私のスキルは超厄介!?

『――お前、貧乏神だろ』


 断定口調の問いかけは、私の否定を受け入れてはくれず。

 2か月間勤めていた武器屋さんから追い出されたのは、数時間前のことです。


「う……うぅぅ、ぐすっ、ひぇぇぇん……」


 逃げるように家に帰った私は――それからずーっと、こうして泣いている。


「ほら、元気出せよ」


 コトッと音を立てて、少し古いコップが私の前に置かれた。

 優しい声で励ましてくれるのは、私の兄、プレン兄さん。


「うぅぅ、ごめんなさい……。」


「いいって! ほら飲んで、何があったか兄さんに話してみろ」


 プレン兄さんは折角置いたコップを手に取って、そっと私の手に握らせてくる。

 仕事から帰って来たばかりなのに、お世話をおかけしてすみません。


 昔から私が泣いてしまった時は、こうして兄さんが落ち着かせてくれるんです。

 ああ、あったかいなぁ。なんだか心がぽかぽかして、ゆっくり涙が引っ込んでいきます……。


「実は……仕事をクビになったんです」


「クビ? ウェルが? 武器屋だよな」


「はい。今日突然……」


 私がついさっきまで勤めていたのは、町の中心辺りにある老舗の武器屋さん。

 冒険者のために多種多様な武器を作り販売している、とてもすごいところです。


「そうか……。それは泣きたくもなるな」


 我ながら弱虫だなぁって思うのに、兄さんは優しい。

 ろくに仕事もこなせない私を、責めたっていいはずなのに。


クビになるなんて、ウェルの何がダメだというんだろうな。こんなにいい子なのに」


「きっと、何もかもダメなんです……。だって――何度もすぐに働けなくなるなんて、おかしいじゃないですか!」


 そう、私がこんなに泣いてしまったのは――こうなったのが、初めてではないからなんです。


「ダメなわけないだろう! 10歳になる前から働くことを考えて、誕生日を迎えた突端に就職し頑張っているウェルが!」


「プレン兄さん、私が今までどれくらい仕事を変えてきたか知ってますよね? 最初は仕立て屋さん。その次はレストラン。その次がカフェ。

 その次は宿屋さん……って、もう何件勤めたことか……」


 どれもこの小さな町に根付いた、小さいけれど素敵なお店でした。

 もちろん私はちゃんとやりがいを感じて、一生懸命働いた。


 なのに――全部半年ももたなかったんです!


 経営状況が厳しくなり、臨時休業になったり。

 客足が遠のいてしまって、営業時間や従業員を減らすことになったり。

 酷い時には、潰れてしまうお店も。


 長く続いていたお店も、ちょうど私が入ったくらいで経営が困難になっていく……。

 なんて、まるで私が本当に貧乏神みたいですよね。


「もうあてもありません。どうすればいいんでしょう……」


 一生懸命育ててくれた家族に、恩返しをしなくてはいけないのに。


 子供を育てるのは、簡単なことじゃないそうです。

 2人目の私を育てる経済力はあまりなかったらしく、我が家は少しずつ余裕を失っていきました。


 だから私は、その恩を何倍にもして返さないといけないのに。


「……ウェル、普通の仕事がダメなら――スキル検査、受けてみないか?」


「……え?」


 唐突な提案が受け止めきれなくて、間抜けな声が出る。


 スキル検査っていうのは、名前の通り自分のスキルを図る検査。

 そこでスキルを判定された人は特別な職業、“冒険者”になれるんです。


「そう、スキル検査。ウェルもスキル持ちだったら冒険者になれるぞー?」


「む、無理無理無理っ! 私がスキルなんて、持ってるわけないじゃないですか!」


「気づいてないだけであるかもしれないぞ?」


 確かに兄さんの言う通り、私がスキルを持ってる可能性だってゼロではありません。

 でもきっとないし、スキルがあったとしても、冒険者なんて私にやれるかどうか……。


「そんな心配そうな顔するなって! なかったらなかったで今まで通り過ごせばいい。あったら俺と一緒に仕事しよう!」


「えぇぇ、でも……」


 はははーと楽しそうに笑う兄さんは、いつの間にか取り出し田ナイフを指先で器用に回す。

 くるくると回転するナイフは――よく見ると、大きくなったり小さくなったり、ぐにゃぐにゃと曲がったりしてる。


「できるって、ウェルは俺の自慢の妹だからな! ほら、スキルが使えたら、こんなこともできるかもしれないぞ?」


 そう、実はプレン兄さんはスキル持ちの冒険者。

 それも冒険者のあまり多くないこの小さな町では、トップクラスの。


 スキル名は【武器変形】。武器っぽい物なら何でも自在に形を変えられるんです。


「俺と一緒なら、冒険者だって絶対大丈夫だろ? 1回受けてみろよ、スキル検査」


 優しく笑った兄さんが、私の両手を握ってくれる。

 なんだか兄さんと一緒なら、何でもできる気がしてきます。


「ウェルには冒険者の素質がある。俺は、本気でそう思ってるんだ」


 私と同じ色。だけど私よりずっと深い、真っ直ぐな緑色の目。

 その優しさが熱を持って、ゆっくりと私の緊張を溶かしてくれました。


「……スキル検査、受けてみます」


 **


 そうして私は翌日、さっそく冒険者ギルドの支部へやってきました。

 今はその奥の個室で、1人ぽつんと椅子に腰かけてます。


『さっそく検査受けてこい。俺が予約入れとくから!』


 なんて張り切った兄さんが、わざわざギルドに行って予約をしてくれたんです。

 お陰で待ち時間もなくスムーズに受けられ――。


「……ウェル様、大変長らくお待たせして申し訳ありません」


 あっという間に結果発表。

 書類を持った職員のお姉さんが部屋に入ってきました。


「い、いえ、大丈夫です! 結果が出たんですか?」


 落ち着いて返そうとしたけど……なんとなく緊張して、声が裏返ってしまいました。

 お姉さんは少しも馬鹿にしたりはせずに、「はい」と返事をくれる。

 だけどその顔は――ちょっと困っているような?


「や、やっぱりスキルなんてなかったですよねー、お手数をおかけしてすみません、あはは……」


 きっとこれは、何もなかった時の顔に違いありません。

 大丈夫ですよお姉さん。私、なかったからって絶望したりはしませんから!


「……いえ、が……」


「…………え?」


 気まずいのか、どこか歯切れの悪いお姉さん。


 今、何と言いました!?

 私の聞き間違いでなければ、スキルがあると聞こえたのですが……。


「ウェル様はスキルをお持ちでした」


 お姉さんはまるで子供に言い聞かせるように(実際子供に言い聞かせてるんでしょうけど)、ゆっくりと言う。


 えーと?


 スキルをお餅……?


 じゃなくて、お持ち……?


「…………え、ええぇぇぇ!?!?」


 何拍も遅れて、私の口から絶叫が出る。

 私、スキルがあるんですか!?


「はい。ただ、ウェル様がこの結果をどう思うか……」


「どう思うかって、一体どんなスキルだったんですか?」


 お姉さんが言い辛そうにしているのは、どうしてしょうか。

 一体どんなスキルなのか、ますます緊張してきました……。


 スキルは生まれながらに持っているものなので、検査を受ける前からどんな能力か大体わかっていることが多いのですが。

 私の場合は、全く心当たりがありません。


「ウェル様、あなたのスキルは――」


 意を決したように、お姉さんがまっすぐ視線を合わせてくる。


 私のスキルは、どんななの?


 どく、どく。と私の心臓の音が大きくなる。


 お姉さんの口の動きが、スローモーションに見える。



 スキルは、私のスキルは――



「――【貧乏神】です」

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