第3話
side アルス
ただひたすら無の領域を漂っていた。成長防止措置を施されて封印されて以来、俺はずっとこの水槽の中で揺蕩っているのだろう。相手は間違いなく非合法の闇組織。そしてこの分だと帝国兵に捕まるのも当分先になるだろう。もしかしたらこの先ずっと捕まらずに闇組織として君臨し続けるのかもしれない。
最初はそんな思考をしながら封印に耐えていた。だがそれがいつまでも終わらない無の領域を漂っていると、次第に意識が薄くなっていき、最後には何も考えられなくなっていた。
それから幾星霜、意識はなく、ただ生きている、というより無理矢理生かされている状態になり果てた俺は、意識の奥底で体が空気に晒されていることに気付く。そして呼吸をしようとしたが、誰かが俺の胸辺りを圧迫しているらしい。呼吸はできないし何故か口から液体が出る感覚がある。
それから数分して、ようやく口から液体がでなくなった。だが呼吸ができない。頭が回らない。苦しい。そう思っていると急に口を何かで塞がれた。そして求めていた空気が体内に入ってきた。それが少し続いてからまた胸を圧迫され、そして口を塞がれ空気を入れられる。その瞬間、
「ゲホッ、ゲホッ!」
ようやく呼吸ができるようになった。咳と呼吸を繰り返しながらゆっくりと息を整えていく。そしていつぶりか分からないくらい久々に目を開けると、そこには美人という言葉では足りないくらいに綺麗な女の子が2人いた。
1人は至近距離で、多分俺の背中をさすってくれてるんだろう。もう1人は俺の近くで俺の様子を見ている感じか?
とりあえず何者か聞かないと。
「君たちは、誰だ?」
そう質問してみたが、答えは返って来ず、それどころか美少女2人は困惑しているみたいだ。どういうことだ? もしかして俺の言葉がおかしくなっているのか?
長年封印されていたせいで言葉をまともに話せなくなっているとかそういうかんじか?
「私、はツィエラって、言います」
「私は、ベロニカ、言います」
「そうか、俺はアルスだ、よろしく」
なんか帝国語がぎこちないな……。別の国の人間なのか? 帝国兵にしてはこんな美少女がいるなんてありえないだろうし、服装を見てもとても帝国で手に入る服とは思えない。服の作りが精巧すぎる。まるで時代を先取りしているかのようだ。
おそらく別の国の人間、それもかなり文明が進んでいる国となると……まさか海の向こうから来たのか?
「どうしてそんなにぎこちない帝国語なんだ?」
「帝国語? 貴方が、使っている言語は、古代語よ?」
古代語? どういうことだ? 帝国語が古代語になるだなんておかしいだろ。確かに帝国でも帝国建国初期と俺の生きる時代では言語が多少違っていた。帝国古語に分類されるものはあった。もしかしたらそういう類なのかもしれないな。だとしたら俺が封印されていたのは数百年間に及ぶ可能性がある。
「今帝国歴何年か分かるか?」
「帝国歴? 今は、人類同盟歴、334年、だけど」
人類同盟歴? なんだそれは。帝国は滅んだのか? だがあの帝国だぞ? そう簡単に滅ぶとは思えない。しかし西暦が変わっているということはおそらく帝国が滅んだか、帝国が新しい国として生まれ変わったかのどちらかだろう。帝国が滅ぶことはまあないだろうから新しい国に生まれ変わった時に西暦も変えたのだろう。人類同盟歴ということは帝国は大陸統一でも果たしたのだろうか。
「それより、ここは危険、だから今すぐ、脱出を」
背中をさすってくれていたベロニカという金髪ツインテールで碧眼の美少女がそう言ってくる。危険? 脱出? 研究所の人間がまだいるってことか?
そう思った時だった。俺は立ち上がろうとしたが体がいうことを聞かずに立ち上がれずにこけそうになったところをベロニカが正面に回り込んで抱き留めてくれた。長年封印されていたからか体の動かし方も忘れているみたいだな。
それとなんか美少女が言い争っているが、ほとんど聞き取れない。完全に別の言語だな。じゃっかん帝国語の名残りはあるみたいだが、かなり帝国語から離れてしまっているようだ。
とりあえずベロニカに俺の体を床に座らせてもらい、そのまま体に力を入れてみるが、誘拐される前の半分も力がでない。おそらく食事をとっていないからだろう、そう思ったら急に腹が鳴って空腹を訴え出した。だがここは研究所。少し探し回れば食糧くらいあるだろう。
と思っていたら、ツィエラと名乗った銀髪ロングストレートに蒼眼の美少女が銀色の包みから何かを取り出して手渡してくれる。なんだこれは? だがいい匂いがする。ツィエラを見てみると、その銀色の包みに包まれていた茶色の固形物を食べているのでおそらく食べ物なのだろう。
だから俺も口にすると、これが意外と美味しい。干したレーズンやクランベリーを練り込んでいるのか、酸味もあって食欲をそそる。気付けば俺は食料を食べ終えていた。すると次にツィエラが白い紙で作られたカップを渡してくれる。湯気がたっているからそれなりに熱いのだろう。なんだこの黄金色のスープは。香りもいい。ひと口飲んでみるとこれも美味しい。文明が進んでいる国はこんなに美味しい食べ物を食べているのか。俺たちみたいに森で狩りをして生きている人間とは大違いだな。
そしてスープも飲み終わると、ツィエラとベロニカが何かを話し合っている。何を話しているのかはよく分からないが、悪い雰囲気ではないからまあいいだろう。問題は俺だ。まず言語が通じない。これのせいで俺は今の時代で生活ができるかどうか怪しい。次に体が不自由だ。これも生活どころかここから移動することさえ厳しい。そして最後に、エルマリア。エルマリアはどうなったんだろうか。それが気がかりだ。帝国兵になったら一緒に暮らそう。そう言ってからどれだけの時間が経った? さっき人類同盟歴334年と言っていたから少なくとも俺が封印されてから334年は経っているはず。流石にもうエルマリアは生きていないだろう。
そう思うと後悔しかない。あの日、俺が近道なんてしようと思わなければ。あの日、ちゃんと杖を持ち歩いていれば結果は違ったかもしれない。そう思うと自分に腹が立ってくる。
だが現実はこちらの都合などは考えてくれないらしい。研究室の大扉の向こうから足音が聞こえてくる。人間? ……にしては随分と足音が大きいな。そう思っていると、ツィエラとベロニカが武器のようなものを取り出して俺の前に立つ。
ツィエラは剣を、ベロニカはなんだ? 小型の大砲か? 随分と前時代的な武器を使ってるな。
そう思っていると、闇色の化け物が部屋に入ってきた。それも2体。1体は小柄だが、もう1体は大柄だ。
2人は何かを言い合ってから、こちらを向き、
「少しの間、我慢、しててね。すぐ、終わるから」
そう言ってツィエラが化け物へと向かって走りだした。そして小型の化け物の首を刎ねて、化け物は瘴気を吹き出して消滅していく。そして大柄な化け物にはベロニカが対応するらしく、小型砲からビームを出して大柄の化け物に当てていく。
あれはエーテル弾か⁉ エーテル弾を撃ち出す魔道具がまだ存在していたなんて驚きだが、なるほど、砲になるほど大きなエーテル弾を放てるならあの小型の大砲も頷ける。
それからベロニカが小型砲でエーテル弾を撃ち、ツィエラが大柄な化け物の腕を斬り落とし、ベロニカの砲撃でこちらに近づかせず、時間をかけて確実に大柄の化け物を討伐していた。
「今の化け物はなんだ?」
「あれは、モンストルムよ」
「モンストルム?」
どうしてそこは帝国語なんだ? モンストルムということは化け物で間違いないが、何故そこは帝国語なんだろうか。もしかして帝国が命名したのか?
「それより、ここから脱出、しましょう。捕まって」
そう言われて俺は両肩をツィエラとベロニカに支えられてゆっくりと立ち上がり、そのまま歩き出す。だが俺の体が動きにくいせいで牛歩の歩みになっている。これじゃあいつこの研究所から脱出できるか分からないな。
もしかしたら研究員に見つかるかもしれないし、またあの化け物が出てくるかもしれない。
それから1時間ほど歩いただろうか。その時にベロニカが、
「あと半分、くらい、ですよ」
と声を掛けてくれた。あと半分の道のりで俺はこの研究所から脱出できるのか。ようやく自由になれる。そう思った時だった。
正面の通路にまたモンストルムが発生する。しかも今度はワイバーンのような形をしている。
「タイプ・ワイバーン⁉」
あ、やっぱりワイバーンなんだ。そこも帝国語なんだな、なんて呑気なことを思っていると、2人に一度体を離され、2人は戦闘体勢に入る。俺にも杖があれば戦えるのに、なんて思うがどうにもならない。今は2人の戦闘の勝利を祈るしかない。
だがタイプ・ワイバーンと呼ばれたモンストルムは中々強いらしく、火を吐き、爪で攻撃してきて噛みついてくる。ツィエラが全く近づけない。そしてベロニカが砲撃で牽制しているが、あまり大きなダメージにはなっていないようだ。だが砲撃がタイプ・ワイバーンとやらの顔面に直撃した時、タイプ・ワイバーンが大きく姿勢を崩した。その隙を狙ってツィエラが一気に距離を詰めて胴体へ攻撃を仕掛けるが、胴体に剣を突き刺してしまいそこから剣が抜けなくなっている。
その剣を抜こうとしている間にタイプ・ワイバーンが体勢を立て直し、ツィエラをその鋭い爪で攻撃してこちらに斬り飛ばしてきた。
「ツィエラ!」
ベロニカの叫び声が聞こえる。そしてツィエラがお腹を抑え血を大量に流しながら俺に、
「に、げて……」
と言ってきている。どうやらタイプ・ワイバーンとの戦いは2人では厳しいらしい。だが、俺のスキルは源泉と回復魔法。こういう時に役に立たなくてどうする。しかもこんな美少女を死なせるのはもったいないだろ。
そういうわけで回復魔法を行使してツィエラの傷を癒す。数百年ぶりに使った回復魔法だが、上手く使えたみたいだ。ツィエラの腹の傷がみるみる治癒されていく。
「嘘、回復魔法……」
今ツィエラが何かを言っていたが言語が分からなくて聞き取れなかった。だが話せるくらいには回復しているみたいだ。まあ俺の回復魔法なら致命傷でも治癒できる自信がある。あれくらいならすぐに治るだろう。
そして治癒し終えたので回復魔法を止める。するとツィエラが立ち上がり、腹の傷を確認してから、
「ありがとう」
そう言って戦線に復帰していった。
それからも厳しい戦いが続き、タイプ・ワイバーンとの戦闘は長引いたが、砲撃で再び顔を直撃させて、その時にツィエラが爪を斬り落とし、タイプ・ワイバーンの攻撃手段を少しずつ削っていき、最終的になんとかタイプ・ワイバーンを倒すことができた。それからもう一度回復魔法で2人を治療してからまた出口へと進み、ようやく俺たちは外にでることができた。
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