机に座るギャルについて
世界では日夜様々なギャルが日夜目撃されているわけだが、最も報告例が多いのは机を椅子にするギャルである。
このギャルは人種、地域を問わず至る所で目撃されている。
更にシチュエーションも限定されている。
一例を紹介しよう。
学校の休み時間。一人の学生がトイレに行く為に席を立った。そして用を足し、戻ってきた。時間にして五分も掛かっていないだろう。そもそも休み時間は短いのだし、次の授業の準備などもある。学生は教室に戻って様々なことをしなければならない。だというのに、それは不可能となる。
何故なら自身の机の上にギャルが腰を下ろしているからだ。
ギャルは隣の席の友人たちと楽しそうに話をしている。
その様子を見ると、学生は自分の席だというのにそこに戻ることが出来なくなる。大きなためらいの気持ちが生まれるのだ。
学生は仕方ないので再びトイレへと向かう。そしてまた五分ほど時間を潰し、教室へと戻る。もういないだろう……と思っていたが、しかしギャルはまだいる。しかも話は更に盛り上がっているようであり、周囲に人が更に増えている。こうなるとますます席に戻りづらくなる。なので学生は三度トイレへと行く。もはや用もないが、さりとて他にすることはなし。永遠に匹敵する五分を気力を振り絞ってなんとか潰し、教室へと戻る。しかしギャルはまだいる! 一体どうすればいいのか……学生の心に絶望が過ぎったその時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。ギャルは「あ、時間だ。もう行かなきゃー!」と言ってみなに手を振り教室を去っていく。
学生は胸を撫で下ろし、自らの席へと戻ろうとして——背後から声をかけられる。
「あれ君の席だったんでしょ? ありがとね!」と。
驚いて振り向いた時には、そこにはもうギャルはいない。
さっきまであれほど盛り上がっていた場の空気も冷めつつある。
事実、その時に何を話していたのかを周囲に尋ねても、みな一様に「わからない」「忘れた」「でも楽しかった」と曖昧な答えしか返さないのだ。
まさか今のは幻だったのではないか……いや、しかしギャルはいた……だが、もしかするとギャルっぽく見えただけで普通の人間だったのかもしれない……普通の人間との普通の会話だったからこそ、誰の記憶にも残っていないのかもしれない……それが日常の一ページだから……そう思った方が自然だ……。
そんなことを色々と思いながら席に座り、机に手を触れると、そこには確かに温もりが残っている……。
この僅かなぬくもりを学生は一生忘れることはない。
それはギャルのぬくもりなのだ。
科学的データもなく、物証もない。けれど、人とは違いギャルであったということを本能が直感する。
人間のDNAがギャルに激しく反応し、心拍が上がり、呼吸が乱れ、汗が吹き出る。
先ほどまでのシーンがフラッシュバックする。
ギャルが座っていた場所……。
ここにギャルが座っていた……。
時間経過と共に加速度的に失われていく熱だが、心には一生残る思い出……。
こうして思い出が残ってしまうが故に「もしかしてあの時席に戻れば自分もギャルと話せたのではないか?」と考えてしまうようになり「もう一度ギャルに会いたい」と思い、その熱意が学生をギャル研究の深淵へと誘ってしまうのである。
ギャル研究家が一人増えることは人類にとっては喜ばしいことなのだが、机に座ったというただそれだけの行為で一人の人間の人生を変えてしまうとは、ある意味罪作りなギャルでもある。
何にしても、これはどのような場所でも起きる。
条件としては机があり、複数人がいる環境で、その中の誰か一人が席を立ち、戻ってくる直前でギャルは出現するようである。
とはいえこのような状況を意図的に作り出してもギャルは姿を現さない。人々のギャルに会いたいという意志と適切な条件を満たしても現れないというのはこれまでのギャル研究と照らし合わせると異端のギャルのように思えるが、あからさまに整えられたところに出てこないというのは非常にギャルらしいともいえる。
言うなれば、逆もまた真。ということである。
そもそもが我々の研究からして我々の常識の中に――科学技術や物理法則の中にーーにギャルを当てはめようとしているわけであるが、それが正しいとは誰にも断言出来ないのである。
明日にでも新たにギャルが観測され、それが従来の法則とはまるで異なる未知の領域としか言い表せないようなものである可能性だってあるのだ。
昨今の新興宗教に於いてはこの机を椅子にするギャルによって椅子にされた机に座っていた者は大いなる使命をその身に帯びているとも言われているが、今のところ当事者が大きなことを為したという記録はない。
まだ結果が出ていないだけとも考えられないこともないが、何にでも意味を見出そうとする人間の悪い癖ではないかと思える。
ギャルは気まぐれだ。
ギャルのすることに意味はない。
深い意味を見つけようとせず、そう考える方が逆に合理的な場合もまたありえるのである。
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