転生と出会い

「んー。……お、無事転生できたな」


 目が覚めるとそこは暗い森の中だった。あたりに人の気配はなく血の匂いがして、見ただけで危ないところだというのが一目でわかるようなところだった。


転生して早々、俺は軽く体を動かしてその具合と感覚を確かめる。ジャンプしたり、走ったりそこら辺の棒で素振りしてみたりと言った感じで


「お、この体思ってるより動きやすいぞ。感覚的に年齢も14歳ぐらいかな?運がいいぜ」

 

 予想以上に軽く動けることを確認できた俺はいい転生先を引けたことに嬉しく思う。


 転生する上での大きな誓約が転生場所、転生する体を選べないということ。

 転生先は影響をなるべくなくすためにに基本的に生前親や関係者が少ない10〜20代の死体を蘇生するか、もしくは死ぬはずだった赤ちゃんに転生するようになっている。

 さらに言えば顔は元の自分のものを年齢に合わせて変化させたものになっており、万が一知っている人がいてもわからなくしている。


 そのうえで転生した後の場所も一目のつかない場所を完全ランダムで転生するため、人、いや神によってはくっそ深い谷のそこで道具なしの赤ちゃんスタートとかもあったそうだ。


「あいつは可哀想だったな…。かえってきた時しばらくキレ散らかしてたもんなぁ」


まぁ、あれに比べたら9割の転生が当たりなのは置いといて、今回の転生は森スタートだ。

 比較的にいろいろ動きやすいためあたりを引いたといえるだろう。


 ……しかしまぁ、なんでこいつはこんなところにいたのだろうか?

 この年齢で明らかに危険そうな森に一人で入るなんて普通に考えたら自殺行為というか実際死んでしまっている。

 しかも鎧のようなものの着ておらず、少し汚れた緑色の服と紺色のズボンを着ているだけだ。そして、持ち物も何一つ身に着けていない。

 

死んだときに魔物とかに盗まれたのか、はたまた最初から持っていなかったのか。

真偽はわからないが、少なくとも冒険するような装備ではないのは確かだ。

 ……この体の持ち主は何を求めていたのだろうか?


「…まぁ、そんなこと考えても仕方ないか、」


 結局死んでしまった以上、どんな理由があっても考えるだけ無駄なことだ。

 薄情と言われるかもしれないが、それが生きるということなのだ。


「さーて。いろいろ確認も終わったし、まずは適当に街にでも行ってこの世界の情報聞いてから、ゆっくりやっていきましょうかね。」


 転生した後の確認作業が終わり、街を目指してすたすたと森をかき分けながら歩き初める。

 街の方向はわからないが、生前にここまできていたということは近くに何かしら道があるはずで、まずはそこを目指している。


 さっきも言ったが、俺は今完全な無一文だ。

 当然、身分証やお金がないとなると十中八九街に入ることはできない。

 なのでまずはそこらへんの適当な魔物か盗賊でも倒してそれをお金の代わりしようかなと思いその存在を探している。


「…でも、ここら辺盗賊どころか、魔物の気配すら感じないんだよな。一番直近でも2キロぐらい離れてやがる」


 別に2キロぐらい先なら行ってもいいのだが…土地勘のない場所で下手に動くと迷子になるリスクがあるため、あまり気が進まない。

 そのうえ、思ったよりも森奥だったようで、おおよそ10km以内に街らしき気配がないのだ。


 …ん?そんなことできるなら最初から足跡とか探さず気配で街探せばってよかったじゃんって?…別に見つかんなかったからどっちでもいいじゃん。


「…どうしようかなあ、このままだとほんとに森をさまよう羽目になるぞ」


 とはいえ、森を平原にするわけにもいかないわけなので…

 …じゃあ、もう選択肢は一つしかないか。


「…はぁ、転生そうそうで体に慣れてないのに行きたくはなかったんだけどなぁ」


 さっき、周りの気配を見た時感じたのは遠くの魔物の気配だけではない。

 実はすぐそばに二つの大きな気配を感じていた。

 一つは巨大な黒い気配、もう一つは黒い方には及ばないがそこそこ大きめの白い気配が何個かある。

 その光はさっきからぶつかっており、おそらく魔物と誰かが戦っているのだろうとわかる。しかもサイズ的にも結構強めの魔物と、だ。


 そして、今回の目的としてはここに援護に入り、助けたお礼として街までの案内とお金を借りること。


 とはいったものの、ここに乱入するということは必然的に強い敵と戦うとなる。

 しかしこの体での初戦闘で動きやすい体とは言えどれくらいまで行けるのかがわからない。下手すると無理に動いて体を壊してしまう可能性がある。

 だからこそそこらへんの適当な魔物で力試しをしたかったのだが…


「…ほかに選択肢がないならしゃーないな。あの戦いにお邪魔しに行くか」


***


 気配の先、森でも数少ない道では青色に白色をかぶせた修道服を着たセミロングの金髪の少女がいた。


私は今、死と隣り合わせの状況にいる。

王国からの依頼で謎が多いこの「黒の森」の探検をしていた。

 この森は他のところに比べ恐ろしいほど魔素が濃く、出てくる魔物はどれもAクラスの冒険者が複数で相手するような敵ばかりで、毎年多くの死者も出ている。


 聖女である私はそんな森をA級の冒険者様と私合わせて合わせて10人で向かった。

 魔法使い三人、戦士二人、槍使い一人、剣士二人、僧侶一人、といったうちわけで全員相当な実績を持った人たちだ。

 そのため、たとえこの森の魔物であっても基本は負けることがないと思っていた。

 しかし、しばらく調査をしていたとき、その悪魔は突然現れた。


「おやおや、こんなところで何をしているのですかな?」


「…!?」


 それは私たちが森の道を歩いている時だった。

 突如、目の前に霧がかかり一人の人型の魔物があらわれたのだ。

 その魔物は目元にかかるように黒髪が生えており、高身長で背中にはコウモリのような羽が生えている。

 服はスーツのようなものを着ていて、感じたこともない威圧感を放っていた。


「…な、何者だ!?」


「ほいっと」


「…っ!?」


 その魔物が手を振り上げた瞬間謎の斬撃が高速で飛ばされ、周りにいた冒険者様たちの首が一瞬で、飛んだ。

 それに反応し、交わすことができたのはなんと10人中私含めたったの3人。

 …それ以外は即死していた。


「…おっと、失礼。まさかこの程度で死んでしまうとは思っておりませんでした。ほんのご挨拶のつもりだったのですが…」


「…っ!!貴様、よくも!」


 攻撃を交わした中の一人、赤色の鎧を着た身長が190cmにも及ぶ彼は自分の斧を持ち上げ、一瞬で間合いを詰めながらその魔物に振り下ろす。

 巨大なガタイから高速で繰り出されるその一撃はとても洗練されており、見ただけでも絶大な威力を誇ることがわかる。…しかし、


「…ふふ、威力だけあっても意味がないんですよ」


「あがっ…!!」


 その魔物は動くこともなくその場で攻撃をかわし、彼の腹に蹴りを一撃入れた。

 すると蹴られた彼は一瞬で吹っ飛び、木にぶつかり、死んだ。


「…くっ!!これなら!これならどうだ!」


「…あ、まって!!!」


 「『極雷突ごくらいとつ』!!」


 私の静止を聞くこともなく、もう一人の冒険者、この中だと一番強い槍使いの彼はよく自慢していたオレンジ色の髪と黄色の鎧が雷のような軌跡を残しながら目に見えない速度であの魔物に襲いかかる。

 その槍は空気を割き極雷をまとい、魔物を狙って一直線に進む。その迅雷はあの魔物でもかわせないような速度である。


 しかし、やはりその攻撃が届くことはなかった。


「…なかなかお見事な攻撃でした。ええ、誇ってもいいですよ、私がかわせない速度を出せるものはなかなかいないんですから」


 彼の槍は魔物に届く直前、どこからともかく現れた紫色に光るの壁によって弾かれてしまった。

 そのうえ、あの絶大な威力ですら当たったところを見てもヒビすら入っていないのだ。


「…化け物が…!!」


 そうして彼は頭を指で弾かれ、頭ごと体が吹き飛んだ。

 

「さて、お次はあなたですよ。あなたはどんなものを見せてくれるのですか?」


「…っ、あなたは、あなたは一体なんなのですか?急に現れて!」


「あぁ、そういえば名乗っておりませんでしたね。…これはこれは、失礼いたしました。…わたくし、悪魔16王、第16の悪魔ベリルと申します。以後、お見知り置きを…」


「…は?」


 彼は自分を悪魔と呼んだ。私も一応悪魔については知っている、けれどその存在は太古の昔に滅んだ、御伽話の話でしかないはずだった。

 だが、さっきまでのあの理不尽なほどの圧倒的な力を見てこれを嘘といえるわけがない。おとぎ話の存在は間違えなく目の前にいる。

 でも…これが一番弱い悪魔なのか…?これより上が15人も…?


「…っ!!!!『聖なる矢ホーリーアロー』!!」


 彼女の手から光が具現化し、聖なる矢が放たれる。聖女に認められし彼女の弓は魔物に大きなダメージを与えることができる神に認められたもののみが使える最強の弓だ。


「…悪くはないですが、残念です。それでは私には届きません」


 だか、それも当たればの話。やはり、その悪魔の前の壁が傷一つつかず、私の矢を弾いた。


「…は、はは」


 私は腰が抜け、その場に座り込んでしまう。

 もう、終わりだ…私の全力ですら彼のバリアにすら傷をつけることができなかった。…もう、打つ手はない。


「…あら、もう終わりですか。まあ戦意が折れるのも仕方のないことですね。すぐに楽にしてあげましょう」


 ゆっくり、ゆっくり彼が近づいてくる。その足跡が命のカウントダウンのように感じられて、絶望が押し寄せてくる。


 …お父様、お母様、みなさん。ごめんなさい、わたしはここまでのようです。


 そうして、彼から手が振るわれようとしたその時、


「あれ?思ってたより危ない状況だったのか」


 その少年は森から現れた。

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