君に贈る華言葉

第1話 “オリーブ“に出会って。


「寒い。」


私が目覚めたその場所は、薄気味悪くて息が詰まるような場所だった。

今日で3年目。全ては、あの日、3年前の日に遡ることになる。


私は いつもの森を一人で歩いていた。

いつもなら、いつもの木に生えているキノコを収穫して、すぐに家に帰るところだった。

異常に気づいたのは、木の所に向かって歩いている時だった。

それまでの植物が、沢山の花が、全て枯れていた。

初めての光景だった。

急ぎ足になって、あの木に向かった。

時すでに遅し。

木の生気など全くと言っていいほどなく、その木からは、暗く染る悪そのものの霧がこれほどまでに漂っていた。

そして、そこからはもう記憶が無い。

目覚めた時には、この場所、恐らく地下にある牢獄に閉じ込められていた。

窓が一つあるだけの、退屈な場所。

誘拐犯が来る時は、決まってご飯を届けに来る時だけ。

この真冬の最中には、これほどまでに冷気が襲ってきて、その日の気温などが感じないほどに寒かった。


私が感じ取った気配の数は、およそ100人。

大きな城なのか、そんなことを考えるのもやっとの状態で、いつもの回復動作など取れなかった。



この日、初めての足音がした。

だけど、おかしいことにはすぐに気がついた。

いつもの来る時間では無いことや、その足音は二つ鳴っていたということ。

まだ、歩ける。

まだ、言葉を出せる。

手を伸ばしてみた。


「貴方は、、、」


そこに居たのは、見覚えのある誘拐犯と、もう一人。

私と同じくらいの女の子。

だけど、髪は長いのにサラサラで。

目の輝きは失われてなんていなくって。

君は私に近寄ってきて、勝手に話し始めてしまった。


『君、、、名前は、?』


初めて聞いたその声は、驚く程に透き通っていて、私の声を、かき消そうで、怖かったけど、、、。


「桜です。夜巻 桜。(ヨルマキ サクラ)」


私の言葉は、震えていた。

久しぶりに見る、誘拐犯以外の人物。

見た目は私と変わらないのに、気配が全く違っていた。

私なんかと比べられない人。とても嬉しかった。

すると、君は見たこともないくらいの美しい笑顔で、。


『よろしく!桜!』



やっぱり、私では駄目だ。

君のその笑顔を、私に向けるべきでは無い。

そんな答えは明白だった。






その夜、またこの場所は冷えきっていた。

とても狭いこの牢獄の壁に、私はずっと寄りかかって、君は、私をどう見ていたのだろう。

君は、座っていなかった。

立って、壁に寄りかかって、ずっと、目を瞑っていた。

君は、この牢獄に縛られるべきでは無いのだけれど、誘拐犯も監視の目を光らせている。

唯一居なくなるのは、午前零時の鐘が鳴った時。

あと、、五分程度。

長い長い夜は、もうすぐ、鐘がなるたった数分程度だけ、、監視も居なくて休まる時間だった。

でも、そんな時だった。

君は、目を瞑って微笑みながら話しかけてきた。


『桜は、この場所に居たい?』


単純なる、初めての質問だった。

だけど、その言葉が私の胸を高鳴らせていて、。

でも、私は何故か震えている。

自信はない。


「居ないと、、いけない。

私は、この場所に居ないといけない。

それを、母も望んでる。」


『何故、望んでいるの?』


「.........」


『この場所は、まだ色付いていない、、。』


「.........」


5


『でも、この広い世界には、まだ沢山のことがある』



4


『桜は、一緒に来てくれる?』


「、、、、え?」


3



『この世界に 一緒に生きて、一緒に死んでくれる?』



2



『今日は満月。。。。』




1




『一緒に逃げよう!』






その瞬間、午前零時の鐘が鳴った。

牢獄の前にいた誘拐犯の監視役は、何処かに歩いていった。

君は、私に手を伸ばしてくれていた。

座り込んでいる私に、わざわざ君もしゃがみこんで、

でも、その差し伸べてくれた手が暖かくて嬉しくて。

思わず、、手を伸ばしていた。


一緒に手を取り合って、その牢獄から逃げ出した。

その逃げ道に、初めて気がついたことがあった。

この場所は、大きな城だった。

窓から見た景色は、都会が一望できるほどの高さで、月が一面に広がっていた。

そして、君だった。

君の髪色は、青色だった。

薄暗いあの場所では気が付かなくて、月明かりに照らされてやっと見えた。

ああ、、美しい。












『ダメだよ、、まだね。』



その先には、誘拐犯の数名が見張っている場所だった。

現実を突きつけてくるようだった。

この城から、出てもいいのだろうか。

母は許してくれるだろうか。

聞く術など無いけれど、私の罪を許してもらおうとは思わないけれど。

でも。



『さぁ、行くよ。』




君は、どうして来たのだろう。

何故、私の牢に入ってきてくれて、零時までずっと待っててくれたのだろう。

ほんの一瞬のきっかけを、この手で逃したくなかったから。

ごめんなさい。

そして、さようなら。

私は 君について行く。

ただ、、それだけだ。





「後ろから、五六人の気配、、、」


『、、、w』


「そこを、、右、、、。」


『やれるところまで、、やってみようか。』




『死なせるものか。』




君は、ポケットから何かを取りだした。

それを、後ろに投げると、煙に覆われたから、恐らく睡眠ガスだろう。


「、、、」


『少し休もう。』


敵が来なくなったと思って、私達は足を緩めた。

薄暗いけれど、君の姿はよく見える。

そして、そんな中、一つの大きな足音が鳴り響いた。







〔やぁやぁ。揃ってるね。〕


「貴方は、、、、」


目の前にいたのは、ここに来て初めての時に見た事がある、この城の主的な存在だった。

全ての誘拐犯は、この人によって操られている。

見た目は、私達よりも少し年上の男性と言ったところだろうか。

海賊みたいな帽子を深く被って、月明かりを遮っている。


〔君らに逃げられちゃ困るなぁ、、

特に君だ。

名前も知らない不思議な子、、。〕



僕は、君に指を指す。

そうだ。

君を誘拐してしまったのは、僕よりも上からの命令。

僕は、それに従った。

従って、従って、

君を逃してしまったら、僕は殺されるだろう。

僕の魔法でも、この組織には勝てないのだから。

ただ、僕が言えることは、君は僕のことを何も知らないということ。


『、、、w』



〔さぁ。戻れ。

まだ、僕にしか見つかっていないのだから。

まだ、、生き残れるよ。〕





早く戻って欲しい。

出来る限り、長く生きてて欲しい。

僕は、沢山の人を殺している。

今更、こんなことを言う資格は無いけれど、君たちはまだ、汚れていないのだ。

こんな所で、僕の手を汚させないでくれ。




『、、、』


「、、どうしよう、、。」




君は、片膝をついた。




〔何を、、ッ!〕





君の手には、一輪の花が握られていた。

それを、君は丁寧に僕の前へと差し伸べた。



『何も知らないよ。』


『この世界、この命。』








『悲しんでいる貴方を愛する。』







〔、、え〕




君は、目を瞑って微笑んだ。

左手を胸に当てて、悲しげで、愛らしい、そんな君の姿は、月明かりに照らされて。



『大丈夫。』


『時が経てば、貴方の華は開花する。』


『絶望するな。息をしろ。』


『救ってあげる。』



君は立ち上がった。

なんだろう。

この、胸に全てが受け取ってしまうように暖かい。

君の言葉は、何故か僕を引き締める。




『もう、、頑張ったよ。』


『死ぬよりも 生きるよりも 辛かったんだよね。』


『一人一人違うから。』





『拝啓_この華を、、』


『クローバーの花言葉は "私を思って" 』


『貴方の未来が 明るい未来でありますように。』







僕の頬を、涙が伝った。

そうだよ、、、、。

そうだよ、、!

目の前で人が死んでゆく虚しさも!

この手で殺してしまう哀しさも!

もう、、、生きたくないよ。

出来ることなら、、もういっその事、、、死んでしまいたい。

願うよ。

心から。





〔待ってる。〕


〔君らがこの世界を壊す時を。〕


〔ずっと、、待ってるから、、ッ〕


〔だから、、、〕




僕は、君の眼を見るべき人間では無い。



この世界は、魔法が存在する。

実力だけのこの世界、僕があの時、、あの時に家族を殺していなかったら、桜くんとの同じ未来が待っていたのだろうか。

でも、、殺すこの手より、、殺されてしまったその目の方が憎いから。





〔ごめんね。この3年間。〕


〔桜くんの全てを奪ってしまった。〕


〔だから、、せめてもの償いをしよう。〕



〔桜くんの家族を殺した犯人は、大魔法使いだそうだ。〕




〔頑張ってね。〕



あぁ。眩しい

眩しすぎるよ。

後は頼んだ。

僕の償いを、聞いてくれると嬉しいなぁ。

貰っておくよ。このクローバーを。

ありがとう。

最初で最後のさようなら。

もう、、住む世界が違うから。

会うことは、、叶わない。















『じゃあ、、行こう。』


『桜。』






君のその姿は、月明かりに照らされて輝きを取り戻していた。

その姿、本当かどうかも分からない。








「私は、夜巻 桜です。」


「私は、家族を殺した犯人をこの目で見ました。」


「ですが、、思い出せない、、、。」


「思い出そうとすると、、霧がかかって、頭が痛くなる。」


「でも、、、」


「私も前に進みたい」


「家族の仇を、、、打ちたいんです。」



『、、、』




『、、、w』




「手伝って、、、頂けないでしょうか。」

私は、君の名前をこう呼んだ。


「“オリーブ“」

君はとても儚く美しい。







『、、、ww』



『これから、私が知っている魔法の世界にはいるよ。』


『この世界と同じようでまた違う、そんな感覚だ。』






私達は、城を出てその草原の道を歩いた。

月が、もう沈みかけていた。

止まっていた私の時間が、また、ゆっくりとでも着実に動き出した。




『共に行こう。』


『そして、』








『共に散ろう。』




“オリーブ“、、、良い、、名前だよ。


、、、w






























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