第8話 ムカつくのに、距離が近すぎる!
放課後の教室 — 文化祭の準備が本格始動!
「オッケー、ここにこのパネルをつければいいんだな?」
高嶺颯真が、木製のパネルを両手で支えながら、美咲の方を見た。 2人が作っているのは、“迷路カフェ”の壁の一部だ。
「そう! そこをまっすぐ揃えて、こっちの板とくっつけるの!」
美咲は下から支えながら指示を出す。 2人の距離は近い。めちゃくちゃ近い。
(ちょ、近すぎじゃない!? もうちょっと離れてよ!)
目の前には、彼の腕の筋が見える。 意外としっかりした筋肉が浮き出ているのが、なぜか目についてしまう。
「おい、美咲。ネジは?」
「あ、えっと、これ!」
慌ててポケットからネジを取り出し、彼に渡す。 でも、手が滑ってポロッとネジが床に落ちた。
「わっ!」
2人が同時にしゃがみ込む。
——ゴツンッ!
「いった!」
美咲と颯真の額が、思いきりぶつかった。
「い、痛っ……なにしてんの、あんた!」
「そっちこそ、急にしゃがむなよ!」
2人とも額を押さえながら、顔をしかめる。
(近い! 近い!!)
顔を上げた瞬間、視線がぶつかる。 10センチもない距離。
彼の目が、やけに近い。 普段はふわっとした表情のはずなのに、至近距離で見ると目が思ったよりも鋭く感じた。
「……お前、意外と間抜けだよな。」
「はあ!? 間抜けはそっちでしょ!」
誤魔化すように強めの言葉を投げたけど、心臓の鼓動はごまかせなかった。
バクン、バクン……
(……な、なんでこんなにうるさいの!?)
颯真はおでこを軽くさすりながら、笑い出した。
「お前、顔赤いぞ?」
「は!?」
美咲は、急いで自分の頬に手を当てた。
(え、うそ、赤い? いや、そんなわけない。そんなわけ——!)
「なに動揺してんだよ。やっぱ顔赤いわ。」
「はぁ!? 暑いからに決まってんでしょ!」
「うんうん、暑いよなー。」
彼の余裕たっぷりの笑顔が、さらにイライラを加速させる。
「黙れ!」
バンッと床を叩き、再び立ち上がる美咲。 そのまま何事もなかったかのように作業を再開したけど、
(絶対、赤かった……!)
しばらくして
「よし、次はこの板をつけるぞ!」
颯真が木の板を持ち上げ、壁の空いている部分に押し当てる。 美咲は、下から支えるために板の真下にしゃがんだ。
「そのまま持っててよ!」
「へいへい。」
彼の声は軽い。
(ほんとにちゃんと持ってるの?)
美咲は不安になりながら、ビス止めの準備をする。 電動ドライバーを構えて、ビスを木に押し当てた。
「いくよ……!」
ウィィィィィィィィン……!
ドライバーの音が教室に響く。 ビスが木に埋まっていく感触が心地いい。
ガタッ
——その瞬間、バランスが崩れた。
「わっ!」
「おい、危ない!」
颯真が腕を伸ばし、美咲の肩をガシッと掴んだ。
「きゃっ……!」
一瞬、重心を失った美咲だったが、彼の腕のおかげで体は安定を取り戻す。 けれども、気づいた時には、彼の胸にすっぽりと収まる形になっていた。
(……え? ええええ!? なんでこのポジション!?)
彼の手は、しっかりと美咲の肩を支えている。 後ろから彼の声が、やけに近く聞こえた。
「お前、危なっかしいな。」
(いやいやいや、こっちが危ないのは、今この状況だってば!!)
「な、な、な、なにしてんの!?」
「いや、お前が危ないから支えたんだろ?」
「だ、だからって、手、どかしてよ!!」
「はいはい。」
彼は、ゆっくりと手を離した。
(なんか、肩がまだ熱い……)
彼が触れていた部分が、じんわりと熱を持っているような気がする。
バクン、バクン……
(心臓、うるさすぎ……!)
作業が一段落し、2人は窓際で一息ついていた。
「はあ……疲れた……」
美咲は体育座りをして、窓の外を見上げる。 すでに日が傾き、夕焼け色の空が見えていた。
「夕方の空って、なんか寂しいよな。」
隣で颯真がつぶやく。 彼は窓にもたれかかり、ぼんやりと空を見ていた。
「寂しいって……なんで?」
「だって、**“今日が終わる”**って感じ、するだろ?」
彼の言葉に、思わず黙り込んだ。
(“今日が終わる”か……)
美咲も、ふと目を窓の外に向けた。 街並みがオレンジ色に染まり、鳥の群れが空を横切っていく。
(……あー、分かるかも。)
静かな夕暮れ。 カーテンがゆっくり揺れて、ほんの少しだけ、教室が静かになった。
「——美咲。」
不意に呼ばれた名前に、心臓が跳ねる。
「な、なに?」
「……いや、別に。」
「は? 何それ、意味わかんない。」
「呼んでみただけだ。」
(呼んでみただけ、って何!?)
ドキッとした自分が悔しい。
「お前、ほんと単純だな。」
「うっさい!」
ふわりと笑う颯真を、美咲は横目で睨んだ。
でも、彼の横顔は夕日の光でぼんやりと浮かび上がっていた。
(なんか、昔よりも“かっこよく”なった……?)
心の中でそんな言葉がよぎったけど、すぐに頭を振って打ち消した。
(何考えてんの、私!? ただの幼馴染じゃん!!)
「ムカつくのに、距離が近すぎる!」
そんな言葉が、胸の中で渦巻いていた。
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