第2話 アプリの恋

(ついに、デートに誘ってしまった......)


 彼は帰宅してからも、スマホを置いては手に取ってを繰り返した。

 他のことをやりながらも事あるごとにスマホをチェックした。


 そうこうしているうちに時刻はもう夜の十一時......。


 シャワーを浴び終え、歯を磨き終え、すっかり寝じたくを整えてベッドに横になる山田なごむ

 ひとり暮らしの部屋には、タブレットから流れる自動再生の音楽だけがただ鳴りひびく。


 まったく眠気のこない彼は仰向けのまま、カッと目を見ひらいて激しくつぶやいた。


「......返信が、こない!!」


 ......仕事で忙しいのかな?

 それとも遊びに行ってるのかな?

 明日も平日だけど......いや、それでも行くときは行くよな。

 

 あるいは、他の男性からも誘われていて、その中でどうするか考えているとか?

 ある。全然ありうる。

 てゆーかそれだろ!


 そもそも、複数の相手から選ぶのがマッチングアプリだし。

 いや、マッチングアプリの相手だけなのかな?

 オフラインでもぜんぜん誘われているだろ?

 しおりさん、めちゃくちゃモテそうだもんな......。

 

 ヤバい。

 気になって、眠れる気配がナーイ!

 いまの俺なら、絶妙なサジ加減で片想いソングを歌い上げられる自信がある。


 ......て、まだ相手と会ったこともないのに何を言っているんだ、俺。

 イタイぞ、俺。

 

 ......うん。

 会いたいなぁ、しおりさん。

 実物は、もっともっとカワイイ気がする。


 いや、見た目だけじゃない。

 性格もめっちゃ良さそうなんよ!

 メッセージのやりとりもスゴイ楽しかったんよ!

 あっちからも積極的に話題を広げてくれるし!


 ダメだ。

 返信が来ないかぎり、今夜はもう眠れない気がする。

 オトメか俺は!

 て、なに自分で思って自分でツッコんでるんだ......。


「ああ......くそ、明日も仕事なのに......なんなら外出て走ってくるか?

 いや、戻ってからシャワー浴びなおしたりがメンドくさい...」


 山田和は、恋するオトメのようにやりきれない想いで胸を焦がし、ベッドの上を落ちつきなくゴロゴロして悶えた。

 

 そうして時刻は十一時五十分......。


 山田和のメンタルは、切迫する。


(あと、残り十分......)


 彼の中で、十二時までがタイムリミットだった。

 彼の考えでは、社会人同士、ある程度の親しい関係性を築く前までは、深夜0時すぎの連絡のやりとりは考えにくい。

 山田和は、恋の真綿でジリジリと胸をしめつけられていた。


 恋といっても、まだその相手と一度も会ったことはないのだが...。


 ......そんなこんなで、時刻は日をまわり深夜0時。


 山田和はよろよろと力無くリモコンに手をのばし、部屋の明かりを消すと、あわただしく布団をかぶって目を閉じた。


(明日も仕事だ!もう考えない!寝る!)


 彼はいさぎよく切り替えたのか、ふてくされてしまったのか、そそくさと無理矢理に寝に入った。

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