後編-②

戦場はこれまでとうって変わり混沌を極めていた。友軍は物量の渦の中で敵と味方の区別ができず手あたり次第銃口を向けた相手に反撃している。外れた弾がさらなる誤解を生み、次の誤解が巻き起こる。パラノイアの霧が戦地を覆っていた。


「これ……ちょっとヤバいかも」

「急いでよかったですね。私はこの見た目なので友軍から誤射される可能性は低いですが、警戒は怠らないで下さい」

「りょーかい、第9コロニーの様子は?」

「今ハ大丈夫なようですが、このまま戦火が広がれバいつ巻き込まれてもおかしくありません。早めに終わらせましょう」

「じゃあしょっぱなから飛ばしてくよ。コード:キルモード、起動!」


私の右目が赤色に光り、ブースターがうなりを上げる。


「戦闘に入るまでハ大丈夫ですが、戦闘が始まったら荷重制御ハ最小限になります。突然の衝撃に備えてください」

「いわれる前からそのつもり!」


射程内に見慣れない機体を捕捉する。兵器らしからぬ流線型のロボット、しかしその手にはしっかりと無骨な武器を携えている。新型機だ。ビームライフルを構え、発射準備。


「メル、戦闘開始です」

「あの子でしょ、もう捉えてる」

「いい調子です。でハ、行きますよ!」


発射した直後、新型機がこちらを向き、するりと旋回する。それはまるで三日月がその場でくるりと回転したようだった。


「メル、あの動きハ」

「うん。<月光ママ>の動きだ」


ライフルをしまい、高周波ブレードのグリップを握る。


「まさかあいつらがママの戦闘データにまで手を出してるなんて!なんかムカつく!!」

「今更かと思いますが、<月光>相手に射撃ハ意味を成しません。近接戦闘に持ち込みましょう」

「オッケー、行くよ!」


操縦桿を握る彼女の手が震えている。シミュレータを用いた訓練ではメルメと<月光>との勝率はほぼ50%だったのだ、無理はない。この戦場で彼女はずっと、コインの表側を出し続けなければいけないのだ。


「大丈夫ですよ、メル。子ハいつか親を超えていくものです。そして今がその時だというだけのこと」

「大丈夫だって、緊張してない」

「強がりハ勝率をわずかに低下させます。操縦桿を通して手の震えが私に伝わってきていますよ」

「えっこれ触覚ついてんの?」

「勿論」

「気持ちわるーっ!!」

「急に手を離さないで!」


カメラアイのすぐ横を相手のブレードがかすめる。すんでのところで回避が間に合った。


「ごめん、つい……」

「集中してください。敵を侮る余裕はありませんよ」

「でもおかげで緊張はとけた!」


<月光>と<月光>が重なり合う。高周波ブレードがぶつかって火花を散らす。今までで一番難しい戦闘だ、だが不思議と悪い気はしない。


「いいマナーだ。社交ダンスの相手ができた気分ですよ、メル」

「口の割には余裕なさそうだけどっ」

「リズムに乗っているだけですよ」


バブルガンのマガジンを投げ、一瞬視界を奪う。ハルハは意外なことが起こるととりあえず右側にレバーを倒す癖があった。そこを突く。


「とらえた!」

「まずハ1機ですね」

「……ちなみにあと何回繰り返すのコレ」

「ざっと120回もすれば、戦場ハ落ち着くでしょう」

「きっっっつ」


次の1機が前に出て、私に手を差し伸べる。


「誘われてるよ、フレックス」

「戦闘中はエクスとお呼びください」


さぁ、次のコインを投げよう。

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