第5章:初期の戦争の端緒

月と太陽の交渉の後の不安定な均衡

「平和の兆しと理想の共存」が交渉の結果として生まれたものの、それはあくまで表面上の希望に過ぎなかった。両宗派は共存の道を見出そうとして努力していたが、根本的な信仰と理念の違いや過去からの緊張が払拭されることはなかった。表向きは協力関係を築こうとしていたが、その実、不満や恐れ、不信感が絶えず両者の間に渦巻いていた。

月宗派と太陽宗派が互いの領地や支配地において少しずつ協力を進める動きがあった一方、独自の思惑や部下の暴走によって両派の間には緊張が再び高まり始めた。こうした状態は、わずかな火種が突然大きな炎となって爆発する予感を孕んでいた。

不満と反発の波

月宗派側では、べいそら おまいえが平和のための取り組みを模索していたが、その一方で、過激派の動きが活発化していた。これらの過激派は、べいそら おまいえの「調和」を掲げる方針や月の穏やかな光が、太陽の力に屈服する道ではないかという疑念を抱き、反発を強めていた。

「太陽が力を振るうことで、我らの心と自然が歪んでしまう!」

そのような怒りと憎しみに突き動かされる者たちが、月宗派内部から湧き上がってきた。彼らはべいそら おまいえの理論や平和志向を軽視し、戦いの力を強化し、太陽の勢力を排除することで月の光を再び強く輝かせるべきだと考えていた。

この不満が、月宗派の内部で次第に派閥や敵対勢力を生んでいくことになった。


一方、太陽宗派でも同じような不安が渦巻いていた。海空 蛸蜜柑(うみぞら たこみかん)は統率力に優れていたものの、その若さゆえに信者や部下からの不満が表面化しやすかった。太陽宗派は技術開発や戦力強化を進めることで勢力を広げており、その一方で「平和」のための協力や儀式が後回しになることがあった。

「なぜ月の力はその穏やかな光だけで、我らが太陽の力を恐れるのか?」

この疑問が、海空 蛸蜜柑の心の中で渦巻き、次第に彼の信念にも影響を及ぼし始めた。太陽の光を正しい形で広げ、安定した統治を築くことで平和をもたらすという海空 蛸蜜柑のビジョンはある種の理想を追求していたが、反対にその理想が過激な信仰や過剰な戦力化を引き起こしていた。

技術力を過信し、軍事力を高めることで、人々は強さと力だけを追い求めるようになってしまった。その結果、穏やかさと平和を望むべきではないという過激な声が太陽側からも聞こえるようになった。


戦いの火種が芽生える

月宗派と太陽宗派、それぞれの内部での不満や疑念、反発が膨れ上がる中で、外部の勢力がその火種を利用して、より大きな戦争の端緒を作り出し始めた。初期の戦争は、双方の内部の過激派や不満分子、そしてそれを利用する外部勢力によって火をつけられたものだった。

ある地域で、月宗派の過激派グループが太陽宗派の農村を襲撃したことで、直接的な衝突が発生した。この一件により、両派の間で報復行動が始まり、戦争の端緒となっていく。

「月の光が平穏をもたらすはずだった……。どうしてこうなったのか?」

べいそら おまいえはこの報告を受けて深く憂慮し、太陽宗派に対話を呼びかけようとした。しかし、過激派の主張や両派の軍事的対応が優先されることで、交渉の道は遠のき、戦争への一歩を踏み出してしまった。

太陽宗派側でも、海空 蛸蜜柑が報復の軍を編成し、行動を開始したことで、対立がさらに深まることとなる。


戦争の初陣

最初の戦場となった地域は、互いに信者や領地を争うための場所だった。この戦場では、月宗派と太陽宗派の信者たちが初めて武器を交え、血を流すこととなった。

月宗派の軍は静かで陰影をまとった月の光のように忍び寄り、自然を巧みに利用しながら戦っていた。一方、太陽宗派の軍はその力強さと技術力を背景に、明るい太陽の光のように進軍を続ける。

双方の軍がぶつかり合う中、戦争の波紋は領地や信仰だけでなく、人々の心に恐怖や疑念をもたらし始めた。

「本当にこれが平和のための戦いなのだろうか……?」

戦いの初陣は、互いの理想と現実、技術力と信念のぶつかり合いによって、月と太陽が互いに戦う道を選ぶこととなる最初の一歩だった。

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