第四十二話 出撃前

 秋も深まり、すっかり肌寒くなった早朝。

 まだ夜明け前なので王都の街並みも薄暗い。


 王城に隣接するアテナ専用格納庫。

 巨大な扉が騎士達によってゆっくりと開けられる。 


 全長十メートルを越す巨体、アテナが姿を現す。

 腰にはテルミット爆弾を仕込んだ樽と木箱、背中には薙刀が装備され、胸部コックピットには携行食、水、その他諸々が所狭しと詰め込まれている。


 国境目指してゆっくり歩き始めるアテナ。

 今回は王都を出るまでは徒歩だ。

 通行ルート付近の住民には知らされている為、アテナ見たさに外へ出てる者も少なくなく、手を振ったり声援を送ったりしている。


『レイテアちゃん、女の子にオムツはきついだろ?』

(母から敵支配地域への遠征で使った話を聞かされましたから、大丈夫です。それにわたくしはアテナの外へ出た途端に狙われるので、そこは理解してます)


戦闘が長期化した場合でもアテナのコックピット内で完結するように、と話し合った結果である。


『それと……本当に今更だけどさ、年頃の女の子であるレイテアちゃんは、男の俺が、その、ここにいるのって、嫌悪感はないの?』

(まぁ。本当に今更ですわね)

『だってさぁうちの長女なんて十歳ぐらいで俺と風呂に入るの嫌がりだしたんだよ?』

(そうでしたの。わたくしはおじ様のこと、双子の兄みたいに思っています)

『まさかの兄?!』

(ドラゴンさんが夢の中で会わせてくれたおじさまはそれぐらいの年齢でしたから)


無意識が繋がる世界。

以前ドラゴンは男の記憶を抽出し、彼が通ってた高校の教室を再現した。その中でレイテアが会った彼の姿も高校生のそれである。


(おじさまからは……そうですね、学院の男子生徒がわたくしに向けるような感情が全く感じられませんし)

『レイテアちゃんは美少女だもんなぁ。って言うか、そういうのわかるの?』

(幼い頃より、周りの人が持っている感情をぼんやりとですが感じてはいました。精神感応の魔導を授かってからはよりはっきりと)

『元々そういう素養があったんだね』

  

男はレイテアが妙に察しが良かったことを少し不思議に思っていた。


(ですからおじさまに嫌悪なんてとんでもありませんわ。この先もずっとよろしくお願いします)

『こちらこそ。俺にとっちゃレイテアちゃんは娘みたいに思ってる。歳も変わらないし。それと聖人を気取るわけじゃないけど、肉体がないからかな、レイテアちゃんの裸を見ても全く何も感じなくなってるんだ。その辺は信じてくれていいよ』

(ふふっ。カシアにもそう伝えておきます)


 今もレイテアの意識が眠りについている時に、湯浴みをする場合、カシアによって目隠しをされている。


『あれはまぁ仕方ないよ。さて日の出だ。王都を出たら全力疾走といこう』

(“考えるスライム”さんにも滋養のある食事をたくさんしてもらいましたから、一気に帝都へ向かいます)

『そうしよう。帝国のことだ。何らかの対抗策を用意していても不思議じゃない』


 アテナの歩幅は徐々に大きくなり、すぐに走り始める。


 国境に位置するマヤオ砦が見えてきた。

 未だ修復工事の最中だが、詰めている兵士全員がアテナを見送る。


 手前で加速し、アテナは大きく跳びマヤオ砦を越え、ダラド帝国の領土へ着地した。


 そして再び全力疾走で帝都を目指す。

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