第三十二話 武装と覚悟

「ダロシウ殿下がお気の毒ですわね……」

「婚約者が大きなお人形遊びに夢中とか」

「まぁ。淑女の嗜みとは程遠いこと。くすくす」


 かーっ! まーたセキセイインコみたいに囀ってやがる。

 すれ違いざま、レイテアちゃんに聞こえるように。貴族の令嬢達め。


 オリドア嬢が『無視ですよ』と耳打ちしてくる。くすぐったい。

 ──今レイテアちゃんは眠ってる。


 俺たちの意識が落ちるこの現象を睡眠と定義した。

 タイミングも時間もまちまちだけど、幸いなことに二人同時ってことはない、今のところだが。


 聞こえよがしの陰口はレイテアちゃんには聞かせたくないので良いタイミングだが、俺は彼女の振る舞いを上手くこなせてるかどうか、そこが不安だ。


「オリドアさん、わたくしは気にしてません」

「さすがレイテアさんね」


 さっきのお嬢さん方みたいなのは『ダロシウ王子の婚約者狙い』の派閥だ。

 変わり者のレイテアちゃんが疎ましいからだろうけど、オリドア嬢がいなかったら、結構なイジメのターゲットにされてたと思う。


 レイテアちゃんはオタク気質だ。重度のゴーレムオタク。

 社交、それに付随する教養、服飾だの茶の嗜みにも全く興味なし。日本に生まれてたら間違いなくメガネかけてボサボサ頭にジャージ姿で機械いじりするような子だ。


 加えて同年代の子とは全く触れ合うことなく学院に入った。 

 侍女のカシアちゃんは歳が近いけど、あくまでも彼女は使用人。立場が違う。

 だから他の生徒とうまく話せない。


 分かるだろう?

 変わり者は弾かれのは世の常だし、その見下す対象が王太子の婚約者とくれば嫉妬も加わって憎しみの的になってしまう。

 婚約者候補はレイテアちゃん以外に十三人もいたらしくて(オリドア嬢調べ)、彼女らからすれば『将来の王妃が引き篭もって社交もこなさず、ゴーレム作って、それに乗り込み何やってる?!』となるのは、まあ仕方ない。


 ただ彼女らはいい。

 わかりやすいし。

 用心すべきは腹の中が読めない視線を向けてくるやつらだ。 


 意識の主導権もらってる今ならわかる。

 不気味だな。


 さて学院での講義が全て終わって、今日は馬車を森の方へ向ける。ポーシェさんに相談だ。


「……とまぁ、こんな感じの兵器を魔導で再現可能かどうか知りたいんだよ」

「あなたが生きてた世界の兵器はすごいのねぇ」


 ポーシェさんにいろな現代兵器の概念を伝えたところだ。


「二度目の世界大戦で大きく変わって、その後も紛争や内戦は常にあってね、その度に技術が進歩する」 

「それはこっちも同じってわけね」  

「レイテアちゃんは今後も帝国に狙われ続けるのは間違いないから、さっさと帝国を潰したい」

「おやまあ」


 これは本音だ。アテナの機動力なら短時間で帝都へ走って行ける。

 まさに電撃戦だ。

 敵のトップを制圧すりゃ余計な犠牲者も減らせる。


「剣や槍をオーダーしてるけど近接武器じゃなくて、攻城兵器みたいな破壊力がほしいんだよ」


 流石にこんなことを学院の講義では聞けない。下手すりゃ帝国と内通してる奴が聞いてる可能性もあるし。


「大きな鍛冶屋や鉱山で使う魔導がそれに近いかねぇ」


 お! あるのか!


「白銀って金属の粉と黒くなった鉄の粉を混ぜたものに点火すると高温の炎が発生するね。それを鉄の溶接に使う」


 そう言ってポーシェさんは物置部屋から持ってきたもの。ん? これ……白銀ってのはアルミじゃないか!?


「ちょっとやってみるかね。庭へ出てもらうよ」


 庭の真ん中に深さ三十センチほどの穴を掘り、そこへ二つの粉を入れ混ぜ合わせる。


 それに向かってポーシェさんが魔導で火を放つと、火柱が上がった。


 間違いない! テルミット反応だ。

 アルミの粉と酸化鉄を混ぜ合わせ、火を点けると発火して二千〜三千度の炎をあげて燃焼した後に、鉄が残る。テルミット爆弾てのもあったよな。


「これだ! ポーシェさん、その点火する魔導って魔道士がそばにいなくても、例えば何かの道具で代用出来るかな?」

「鉱山で使う場合は時限式の発火魔導を仕込んだ石を使うよ」

「白銀の粉と鉄粉を大量に仕入れるにはどうすればいい?」

「金属を扱う商人に交渉だね」


 ルスタフ公爵に相談だな。

 彼とは先日の相談以来になる。


 先日の相談とは『レイテアちゃんに敵とはいえ、人を殺せるのか』という話をした夜のことだ。  


 公爵夫妻と夕食をとってる時に、話を振ってみた。


『レイテアちゃんさ、今のところ帝国兵と直接戦ってないけどさ』

(はい)

『実際戦うことになったら、やれるかい?』


 俺に関しては、正直抵抗はある。

 しかし肉体を持たない存在になった今、生前ほどそれが強くないのを感じているから不思議なものだ。


 それに気がついたからこそ、レイテアちゃんに問うてみた。


(公爵家の娘として教育は受けています。戦になった場合、公爵軍の指揮は父が、戦死した場合は母が。母も戦死した場合はわたくしが軍の指揮を執ることになっています)

『そうなんだ』

わたくし達貴族は領民、王国民の盾であり矛でもあるんです。わたくし達が敗れることは、領民が敵の手に落ちることになり、国は滅びます。そうならない為の施政者ですわ。敵を退けるのに躊躇はありません)


 日本で言えば戦国時代。

 命の取り合いに対する覚悟は出来てるわけか。こりゃあ俺の方が覚悟足りないな。


「レイテア、考えごとか?」

御使みつかいさまとお話ししていました。戦においての覚悟のことを」

「そのことか。御使(みつかい)様、レイテアは敵を討つことにおいて一切の躊躇がないように育てております。貴族の義務です」


 おっかないな。

 日本だとレイテアちゃんは女子中学生。

 こんな幼い彼女が軍人並みの腹の座り方している。

 公爵家は戦国大名みたいな立ち位置だから、ゴキブリが出ただけでキャーキャー取り乱す、虫も殺せない若者の如く平和ボケしていたら立ち所に滅ぼされるわけだ。


 俺もアテナの開発に関わった以上、そこは覚悟しなきゃならない。

 特にあの事件。

 第八耕作地での拉致未遂事件じゃ命の危機を実感した。やらなきゃやられるんだ。


『レイテアちゃん、公爵に伝えてくれ。俺も君と一連托生。戦争のない国で過ごしてきた俺だが、甘いこと言ってる場合じゃないからな。俺も腹を括るとするよ」

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