第二話 おっさんin公爵令嬢

 


 ちょっといいかな?

 誰か聞いてくれよ。


 俺はさ、とある会社のさ、地方の営業所長として燻ってたおっさん。

 それでさ、いつものように嫁さんに『ほんとそういうの好きね』って呆れられながら、パソコンで深夜アニメ観てたんだが。


 気がついたら女の子になってたの。

 何言ってるんだって思うだろ?

 それがマジなんだよ。


 なんか豪華ホテルのスイートみたいな部屋。

 大きな鏡の前に立ってる外人の女の子。中学生ぐらいかな?


 白雪姫かっ!ってぐらい綺麗で白いお顔。

 薄くブラウンの髪に少し紫が混ざってる。瞳の色は紫。

 アニメキャラかってぐらい可愛いのな。

 目鼻の配置と可愛らしい唇、美少女ってのはこうなんだって思ったよ。

 ゴスロリみたいな服着てるし。これがまた似合ってるのなんの。


 で、いきなりこの女の子の記憶がなだれ込んできた。


 公爵令嬢なんだと。

 レイテア・ミーオ・ルスタフって名前。

 ルスタフ公爵夫妻の一人娘だ。

 十二歳。

 住んでるここはラーヤミド王国って名前。


 年取ってからやっと生まれた娘ってことで、そりゃもう溺愛されて。

 侍女やら使用人にも愛されまくってすくすく育ったお嬢さまだ。


 この時点で俺は死んだのだと悟った。

 何より妻や娘達の名前や顔が思い出せないし、記憶はあるものの未練が徐々に薄くなってきてる。

 なに、女性は強い。俺の生命保険も入るだろうし、うまくやっていけるさ。


 それにしてもこれって輪廻転生?

 でも意識が二人分あるけど、そういうものなのか?

 わからん。 


 何せ初めて死んだわけだ。

 それとも俺は守護霊的存在になったのか。

 ……こっちの方がしっくりくるな。

 ということはこの子を守っていくのが俺の役目なわけだ。


 本当のところはわからないけど、

 ここでただ見てるだけなんて退屈もいいとこだし。

 こうやってレイテアちゃんと巡り会えたのも何かの縁。

 彼女を守護していくぜ。娘と同じ年頃だしな。


 で、このレイテアちゃん。

 俺も貴族とか詳しくないけどさ、普通の公爵令嬢とちょっと違う個性を持ってる。


 彼女が幼い頃に夢中になった御伽話。

 平和な王国。王太子が結婚式を挙げるその日、突如悪魔の軍勢が攻めてくる。

 蹂躙される王国。家は焼け畑は強制労働の場になり、王族や貴族は北の地へ送られ幽閉。

 王太子妃が天に祈った時、空から白い巨人が舞い降りる。

 それは戦女神だった。


 戦女神は王太子妃に告げる。『王国を救いたくば我と一つになって戦え」と。

 王太子妃は頷く。


 王太子妃と一つになった女神は悪魔の軍勢を破竹の勢いで打ち破り、ついには王国から追い出した。

 王太子夫をはじめ王国の人々は女神と王太子妃に感謝し、信仰を捧げていくことになる。


 御伽噺なんだが、一応史実を元にした物語だそうだ。

 登場する王太子妃の日記が発見され、歴史学者が当時の記録から裏をとった。


 悪魔の軍勢=拡大路線を続けていた帝国、戦女神=ゴーレムだと解釈されてるが、俺からすると戦女神ってロボにしか思えない。


 この物語がレイテアちゃんをゴーレム好きにしてしまったんだ。

 母親や侍女にせがんでは毎日毎日読み聞かせしてもらい、四歳になって字を覚えてからは毎日読みふける。

 この子、地球に生まれてたらロボオタクになってたかもしれないね。


 で、ゴーレムってのは、魔道士が作り上げる兵器だ。

 地球で言うと戦車みたいな役割かな。後ろに兵士を従えて敵陣に攻め込む、また城攻めに運用される。


 そんな戦女神好き好きレイテアちゃんが初めてゴーレムを目にしたのは七歳の時。

 建国記念祭ってことで軍のパレードをレイテアちゃんも見学。

 そして絶望した。


 そりゃそうだ。幼い頃から何度も読み返してる御伽噺の本。

 それに描かれてる戦女神は、美しい女性がその胸と肩に白い甲冑を纏っている姿。

 長い髪が特徴的で、女騎士とも違うイメージ。

 子ども向けのデフォルメされた絵じゃなく、かなり精緻に描かれている。


 実際のゴーレムは金属製。スクラップ工場のあらゆる金属片を無理やり接着したような見た目。

 全長十メートルぐらい。

 ドラム缶に頭と短い手足がくっついたような歪な人形(ひとがた)。

 腕の先に指が二本、足はまるで棒。

 そのゴーレムを操る為には、魔導士が最低三人は必要となり、動きはゆっくりとしたもの。


 それがレイテアちゃんの前を通り過ぎる。その不格好な姿は戦女神にはほど遠い。


 その時この子は決心した。ここがレイテアちゃんの普通じゃないところ。

 なんと自分がゴーレムを作るんだ、と。


 それからは父親のルスタフ公爵にそれこそ毎日毎日ゴーレム作らせてくれって拝み倒して。


 根負けした公爵が公爵邸の広い敷地の一角に、レイテアちゃん専用の工房を作っちまった。 

 そしてこの国有数の大魔導師を三人目の家庭教師に迎え(あとは学問と礼儀作法)、同年代の子達に比べてずっと早くから魔導を学ぶ。


 そこで彼女は寝る間も惜しんでゴーレムのことを学び始めたが、色々とわかってくると自分が思うゴーレムを作るのは不可能って思い始めたわけ。


 レイテアちゃんは十二歳。子どもでもない大人でもない時期にさしかかり、色々と不安定なお年頃。


 で、寝不足のレイテアちゃんが足元に転がる何かに躓いて机の角に頭をぶつけて失神、そのタイミングで俺の意識が覚醒したんだ。


 目覚めてからしばらくはレイテアちゃんの目や耳を通して情報を集めたり、彼女の記憶を追体験したり。

 貴族って同年代の子どもに接することがほぼないんだ……と思ってたら、社交の場へ行くのをこの子が拒んでたよ!


 ……仕方ないね、レイテアちゃんって関心の全てがゴーレム製作。本の虫。

 地球に生まれてたら間違いなくビン底メガネっ娘になってたはず。

 ちなみにこの世界じゃ魔導によって治癒するから目の悪い人はいない。

 そんなオタク娘が他の令息や令嬢と話が噛み合うわけない。


 落ち込んでるレイテアちゃんに俺は思い切って話しかけてみた。


『……もしもし……聞こえますか……』

(だっ、誰ですかっ?!)

『私はあなたの頭に直接話しかけてます……』

(え……)


 まさかこの言い回しを実際に使うことになるとは思ってもみなかった。



『怖がらないで聞いてほしいな。俺は悪霊でも悪魔でもない。信じてくれるかわからないけどさ、俺、レイテアちゃんの中に居候してるみたいなんだ』

(もしや、精霊さま?)

『あー違う違う。俺は人間だよ。とは言ってもこの星の人間じゃないけどな』

(星?)

『夜空に光る星があるだろう? この宇宙にはたくさんの星があって、そこにもここと同じように人間がいるんだよ』

(じゃあ天の御使(みつかい)さまですね?)


 とまぁこんな調子でなかなか理解してもらえなかったが、どうにか俺がこことは違う遠いところから来たおっさんだとわかってくれたのよ。


『レイテアちゃんが思うゴーレムってさ、人と変わらない姿で、人と同じように動けるタイプだよね?』

(……はい。おじさまはご存知なのですか?)

『んーまあね。それならさ、人の骨格や筋肉を模倣して作ろうよ』

(人の模倣……!)


 ここからレイテアちゃんの生体ゴーレム作りがスタートしたんだよ。

 俺もロボアニメたくさん観たし、人間のように体育座りができるタイプのロボが理想だと思ってたから。

 だって人間が操縦するなら人間と同じ動きが出来た方がやりやすいだろう?

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公爵令嬢は戦女神(人型ロボ)に夢中で婚約者の王太子はヤキモキしっぱなし はるゆめ @tujishoukai

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