アニメ化作家は隠蔽したい!

優麗

規約を守るべきか作家を守るべきか、それが問題だ

 2024年12月2日、それは1件のツイートから始まった。


「いま#カクヨムさんで確認したら、アニメ化もしている書籍化作家さんに★評価を頂いていました!」


 『アニメ化作家から』と言う点にこそ特別性が込められているが、言うなれば『★評価を貰った』と言うカクヨムユーザーにとっては良くあるツイートの1つである。

 これに対して大半のユーザーがそうしたように『それは良かったね』と聞き流せば良かったのだけれど、この時の僕は暇だった。暇だったから……『良かったね』の感想後に『なんてアニメ化作家だろう?』なんて、野次馬根性が付け足されてしまったのだ。

 現代において対岸の火事は滅多にお目にかかれない。なればこそ、それをネット上で求めてしまったのも無理からぬ事だろう。



 ともあれ、そのような経緯から早速少女の作品レビュー欄へと飛び、それらしい作家名を見つけた僕は確認の為にもネット検索。Twitter上にて作家さんのカクヨムページリンクが貼ってあった事から成りすましでもない、本物のアニメ化作家『K氏』だと確認が取れた。なるほど、これ程大物から評価を受けたのならば少女の喜び様にも頷ける。


 K氏は大物過ぎるが故に活動の中心がネット連載では無かったようで、カクヨムでの投稿作品は少ない。ただし、カクヨムコン開催に合わせて新作連載を開始したようだ。まだ数話程度の投稿であるが流石と言うべきか、とても面白そうである。そんな感じでついでにK氏のカクヨムページを見ていた僕はK氏のおすすめレビュー欄で目を見張る事となった。なんと、20分で100件近い★3レビューが残されていたのだ。


 おや?おやおやおや?急に雲行きが怪しくなってきたぞ。20分で100件と言うことは1分に5件だ。不可能と言う訳では無いが、普通にレビューして回るには無理のある量と速さである。



 これってもしかして……小説を読まずに★レビュー投稿しているのでは?仮にそうであるならばそれは通称を『星爆』と言う、カクヨム上での明確な規約違反だ。僕が知る限りでも、星爆を行ったユーザーは軒並みBANされている。

(作品を適切に閲覧せずに★付与する行為も禁止とし、カクヨムではこれらの行為が確認された場合には修正警告、公開停止、アカウント利用停止などの対応を取る。)


 読まずにレビューが増やされてしまうと★の数での評価が宛にできなくなってしまうのだから、それも当然だろう。

 まさかアニメ化まで果たした大物作家がそんな事をする訳ないと思うが、先に述べたようにK氏はこれまでカクヨム上であまり作品を投稿していない。要するにネームバリューと比べて認知度が圧倒的に低そうなのだ。

 星爆はすることでレビュー先に自分の名が売れる。それは不足している認知度を補って余りあるのでは無いだろうか。そう思えばこそ、『する訳が無い』が『する可能性はある』に変わった瞬間である。


 ただ、そうは言っても相手はアニメ化作家。常人では考えが及ばない正道の可能性だってまだある。例えば事前にレビューするリストを作っていたのであれば、これ程のレビュー連打も不可能ではないだろう。

 星爆と勘違いされる危険性こそあるが、直近に星を送ることでK氏へと関心を示して貰い、あわよくば新作を読んで貰えたのなら狙い通りである。要するにK氏のレビューは黒寄りではあるものの、この時点では黒とは断定できないグレーなラインと言っていいだろう。

 2年前のカクヨムコン開催中に同様の星爆被害を受けた僕としては仮にこれが星爆であったなら例えそれが有名作家であったとしても見逃せることではなかったし……なにより。そう、。そんな邪な気持ちを抱えて僕はK氏の動向を観察することにした。



 まず、12月2日時点でのK氏の★レビュー数は154件。そのほぼ全てが★3評価であるが、現時点ではその他に目立つ情報は無い。このレビュー増加が今日限りの数値であるならば祭りになることもなく終息しただろう。しかし、翌日12月3日の18時にはK氏の★レビュー数は245件へと増加していた。どうやらこれは一夜限りのお祭りでは無いらしい。

 一体、どこまでレビュー数は増えるのだろうか。この時の僕は間違いなく、期待に胸を高鳴らせていた。僕のこの気持ちは恋では無いけれど、K氏の星爆は故意かもしれない。


 当然のように12月4日もK氏によるレビュー投稿は続き合計で360件になっていたが、僕がK氏の星爆を確信したのは12月5日18時の事である。

 前日までと同様に100件近いレビューを行ったことでK氏のレビュー数は450件へと増加していた。ただ、それだけであればこれまでと何も変わらなかっただろう。いつもと違ったのはレビュー先の選定方法。なんと、このレビューでは12月5日18時に次話投稿された作品が次々に★3評価されていったのである。

 18時に次話投稿された作品を同日18時(投稿後0分)から★評価する。それも1,2件では無い。100件だ。更新日時順ともなると流石に事前レビューリスト作成は不可能なので真っ黒と断定して良いだろう。また、12月6日も同様に更新日時順で星爆を実行し、K氏のおすすめレビュー数は550件へと成長を遂げていた。



 流石、アニメ化作家。常人では考えられないことを連日やってのけていたようだ。なにせ完全なる規約違反である。

 ここから幾つになるまで登り詰めるのだろうと更なる期待に胸を踊らせていた僕であるが、雲行きが変化したのは12月6日の18時過ぎである。


 元々、合計で500件を超えるレビューはそのほぼ全てが★3評価になっていた。その事には何らおかしなところははない。レビューしたいと思えるほどの作品であれば★3を送る事が多くなるのは当たり前だと思う。しかし、K氏は突如として★3評価していた作品の1~3話目までを順に♥応援し始めたかと思ったら★レビューを1や2ばかりに下げていったのだ。



 これだけを聞いたならば『途中まで読んでいた作品を最後まで読んで星の数を減らしただけ』と思うかもしれない。しかし、K116003のだ。そうなってくると最初の★3レビューではなにを読んで評価したんだろう、となってしまう。ここまで来ると自分から真っ黒さをカミングアウトしている様なものである。


 それでも、K氏がこのような行動に走った理由はなんとなく推察出来る。実の所、僕は早い段階からカクヨムに規約違反としてK氏の事を報告していたし、そうでなくとも連日のように星爆していれば流石にカクヨム運営から目を付けられるだろう。

 つまり、作品を適切に閲覧せずに★付与していた為にK氏はカクヨムから修正警告を受けたのではないだろうか?或いは修正警告を見越した回避対策としてK氏はこれまで星爆した500件近い作品全ての1~3話までを♥応援するのと同時に★を減らしたのではないか。

 じゃあ、なぜそんな修正方法を選んだのか?それはこの対応であればKのだ。



 なるほど、★3レビュー時期とは前後してしまっているが♥応援しているぐらいなのだから間違いなく小説本文は開いているだろう。でも、それって『読んでいる』と偽装しているだけの星爆となにが違うのだろうか?

 いや、流石にここまでやらかした事への後始末なのだから読んでいてくれとは僕も願っているが、仮に読んでいたとしても500作品と言う膨大な作品数を1~3話しか読まずに付けたレビューである、適切に閲覧した結果と呼ぶには怪しく感じてしまうのは僕だけだろうか?ちなみにK氏が500作品を読むのに要した期間は12月6日18時~12月7日20時の24時間だけである。実際に読んでいるのかもしれないが……これならむしろ500件のレビュー全てを削除する方が適切だと思うのは僕だけだろうか??


 カクヨム運営がこのようなレビュー修正隠蔽工作を適切に閲覧した結果だと言うのであれば、残念だが仕方ないと思う。勘違いして貰いたく無いのだが、僕はカクヨム運営を批判したい訳では無いのだ。

 相手が大物作家故に寛大な対応をするのだとしても、最終的にそれで莫大な利益を得られるならば会社的にはやる価値があるだろう。規約は利益で換金できるのかもしれない。ただ、大物作家であるK氏には隠蔽よりも紳士的な対応をとってほしかったなとは思う。謎解きを主な作風にしているからって現実でも陰謀張り巡らせるのは場外乱闘が過ぎる。

 なにせ、このままでは有名になった作者であれば本文を開いた上での星爆はするだけお得って事になってしまう。大物にもなると大抵のズルは許されてしまうのだろうか?



 K氏が星爆を認めてレビュー削除していればこの件は話のネタにもならずに終わってしまっていたが、隠蔽するのであればネタとしては十分。

 僕はTwitter上にてK氏へ新作投稿の祝辞とともに『ところで先生が付けているレビューについての質問なのですが、先生が3時間前に一斉★3レビューした作品に対して今更になって★を下げつつ作品の1~5話までに応援して回っているのは最初の★3レビュー時点では作品を見ずに付けていたと言う事でしょうか?』と投稿してみる事にした。当然ながらK氏から返信は無い。僕以外へのリプには返信しているので、やはり触れたくない話題なのだろう。スルーされた僕は若干センチメンタルな気持ちになった。




 とまぁ、これが今日に至るまでに僕が体験した紛れもないノンフィクションであるが、実際に起こった出来事以外には当然ながら僕の推察が含まれていることを忘れないで貰いたい。少なくとも悪意を持って脚色したつもりはないけどね。だからこそ、その気になれば読者諸君は容易にK氏の正体にだって辿り着けるだろう。


 そしてこのままいけば、K氏は一切のリスク・デメリットを背負うことなくカクヨムコンを駆け抜けるだろう。その後にはもしかしたら再び書籍化さえも果たすかもしれない。そうなった時に、この小説を読んだ貴方だけは内心でこう思うのだ。『でもこの人、規約違反を隠蔽した事があるんだよね』、と。

 さあ、この小説の続きは貴方自身の目でお確かめ下さい。

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