第11話 信じたい

(あの2人……デート、でいいんだろうか)


 岩永修次と敷島里奈が2人きりでお出かけしている。


 そんな光景を見かけた斗眞は、摩耶と一緒に尾行を開始中である。


 気付かれないように気を付けているのはもちろんのこと。


 岩永と里奈の2人は、見かけた地点から少し歩いて商業施設(ショッピングモール)に入り込んでおり、里奈の要望でだろうか、現状は雑貨屋を物色している。


「せんぱい、こういうコップ可愛いと思いませんか?」

「知らない。いちいち人に訊かずに自分の好みを選べばいいだろ?」

「……ですよね。はは」


(あいつ……)


 デートかそれに近しい外出だろうに、仏頂面で気の利かない返事。

 なんでその立ち位置に収まっているんだ? と不思議に思う。

 乗り気じゃないなら最初から断ればいいのに。


「……修次のアレは平常運転よ。他人に興味が薄いから、他人のファッションや好みをどうでもいいと思っているの。冷たいとかじゃなくて、そういう性格なのよ」

「救いようがないな……でも他人に興味がないくせに、敷島が誘ったくさいこういうデートには乗り気なのかよ」

「何か恩恵があるんじゃない? デートをすることで修次に恩恵があるなら、修次は多少のめんどくささは我慢するヤツだもの」


 摩耶がそう言った一方で、里奈が雑貨屋脇の服屋に移動し、子供用の服を眺め始めている。


(自分用のじゃないな……弟か妹のか)


 あるいは両方かもしれない。

 男児用、女児用、構わずチェックしている。

 デートでそんなモノをチェックする里奈も里奈だが、家計のためにバイトを始めたという経緯があればこそ、里奈が家族思いなのは明白。

 バイト代は弟や妹たちのために費やしたいのかもしれない。

 しかし、里奈は結局何も買わず、やがて向かったのは食料品売り場であった。


「――じゃあせんぱい、今日のデートのお礼として食料、好きなだけ奢りますね」

「ああ。幼なじみが使い物にならなくなって夕飯がないから助かるよ」


 そんなやり取りを聞いて、斗眞は耳を疑った。


(……桐峰さんが夕飯を作ってくれなくなったから、その分の食費を敷島に担わせようって魂胆かよ……)


 どうやらそれが里奈のデートに応じることで発生する岩永のメリットのようだ。

 つくづく自分本位。

 欲しいモノのために、本命でもなんでもない異性に休日を貸す。

 さながらパパ活女子である。

 貢がせるために、デートに応じてわずかでも里奈に希望を見せ、本心ではきっとあざ笑いながら、見返りだけ搾取しているわけだ。


「修次……あなたって本当にイヤなヤツだったのね……」


 摩耶が嫌悪感丸出しで呟いている。

 一度目を覚ましてしまえば、こうして修次がまともではないと認知出来る。

 しかし里奈はどうなのだろう。

 その貢ぐ行為を正しいと思っているのか。

 あるいは間違っていると分かりつつ、あえて貢いでいるのか。


(岩永の態度は思ったより露骨だし、敷島はもしかしたら分かってて……)


 しかし遠目に見ているだけでは判断出来ない。


 岩永は里奈が押すカートにカップ麺や菓子類、レトルト食品を詰め込んでゆく。

 遠慮せずに、本当にただそれだけが目的だと言わんばかりに、やがて里奈がレジを済ませると岩永は袋を受け取り、


「じゃあ、もういいだろ。僕は忙しいんだ。また頼むよ」


 そう言って岩永は立ち去っていくのだった。

 まさに搾取。

 それ以外に用件などないのだとばかりに。


 取り残された里奈は、小さくなっていく岩永の背を見つめながら、その瞳にうっすらと涙を浮かべていた。


「……何やってんだろあたし」


 そんな呟きがかすかに聞こえたからには、斗眞は黙って見ていられなくなった。


「おかしいって分かってるなら、やめた方がいい」

「――っ、宇佐美せんぱい……それに桐峰せんぱいも……」


 表に出てきた斗眞と摩耶を見て、里奈は狼狽えていた。


「……悪趣味ですね、あたしとせんぱいのデートを覗いていたんですか?」

「あんなのはデートじゃないわ」

「それは……」


 摩耶の指摘に里奈はうつむいてしまう。


「里奈ちゃん、あなたは修次からなんとも思われてないわよ? かつての私と同じように、都合の良い駒として見られているだけ。私はそれに気付いたから、修次に夢を見るのはやめたわ」

「せんぱいは……でも弟を火事から助けてくれたんです。悪い人なんかじゃ……」

「過去の栄光ばかり見てしまうのは、今の修次に魅力がないからでしょ? 過去は過去、今は今。今の修次はあなたの想いを逆手に取って自分の利益に還元しているだけだわ」


 摩耶が容赦なく現実を突き付ける。


「敷島……君の時間とお金は弟や妹たちに費やしてやるべきだ。その方が有意義だろ?」

「かもしれません……でも、弟を助けてくれたせんぱいがウソだったとも思えないんです。まだ、信じたいんです……」


 里奈はそう言った。


「だから、せんぱいを少し試してみます……」

「試す?」

「じきに弟の誕生日が来るんです……そのためのプレゼント資金を貯めているんですけど、その資金をきちんとプレゼントの購入に充てるべきか、せんぱいのために使うべきか悩んでいる、ってせんぱい本人に打ち明けてみるんです」


 なんとなく、里奈の意図が分かった。


「……まともな感覚なら、弟のために使うように諭すだろうな」

「はい……だから、せんぱいがあたしや弟をどう見てるのか、それで試してみます……あたしは信じてます。せんぱいの中にはまだ優しさが残ってる、って……」


 そう言って里奈が立ち去っていく。

 岩永とは別方向に向かったので、今すぐ試すわけではないのだろう。


「ギリギリまで信じたい気持ちは分かるわ……でも」


 摩耶は岩永を信じていない。

 斗眞としても、結果は目に見えているとしか思えない。


 それでも、里奈の気が済むまでやってみればいいと思う。

 そうすることでようやく見えるモノもあるだろうから。

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