俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太

第1話 裁判官! 親権をください! 王都が滅びます! ①

 小鳥が囀り、木の葉が舞い、子供達が笑う。

 平和なレンガの都……王都アトス。


「じゃあな、達者でやれよ少年」


 そんな平和な国の唯一、不釣り合いな存在である刑務所の門から看守であろう男に背を押され、見送られる男がいた。


 何を隠そう、俺だ。


 エルマー。ファミリーネームはない。


 とほほと俺は空を見上げた。


「はは……」


 笑うしかない。

 もう終わりだ……。


 だが、そんな俺の絶望にエンジン音が水を差す。すると鉄の棺桶のような真っ黒の四輪車が俺の目の前に止まる。


「エル? 何やってんの? 向かえにきたわよ」


「ミラナ……」


 黒髪の長髪、黒のシャツに黒のスカートの女、ミラナは自動馬車くるまの座席に座り、窓を開けて俺を訝しげに見ている。


 はぁ……もうこうなった以上はしょうがない。

 覚悟を決めよう。


「ミラナ、手紙で書かれたもんは用意してくれたんだろうな」


「もちろん、アンタが法廷で無駄に騒ぐお陰で時間はたっぷりあったし」


 なんてことを言うのだ、この剣士は。しかしさすがは俺の相棒。

 伊達に修羅場は潜っていない。


「じゃあ、早く乗って」


「ああ……」


 ミラナの指示に従い俺は、自動馬車の助手席に乗る。


「はい、プランAの拡声器作戦、やるんでしょ?」


 ミラナは馬車を発進させながら、俺に円錐の魔法製拡声器を渡してくる。


 そうだ、うなだれている場合ではない、俺にはやることがある。

 俺は思い切り息を吸い、そして車の外に向かって拡声器越しに叫んだ。


「スミマセェェン!! 王都アトスのみなさぁぁんん!! 今日! この都! 滅びまぁぁぁす!!!!」


 そう、今日、王都アトスは滅び去る。

 何を言っているかわからないだろう。

 俺の訴えを聞いた人々は口をポカンと開けている。


 中にはクスクスと笑う人もいた。まぁそれはそうか、だが俺はふざけているわけではない。


「笑ってる場合かぁぁ!! ほんと死ぬよぉぉ!!」


 俺の語彙力ゼロの言葉に皆は動かない、そこら辺のオッサンなどは鼻で笑いながらパイプをふかして、新聞を読む作業に戻っている。


「皆さあぁん! まじでやばいよ! まじで!! ……ミラナ、ダメだ」


「当たり前でしょ、信じてもらえるわけないじゃない」


「じゃあプランBだ」


「本当にやるの?」


「当たり前だ!」


 はぁ、とため息をつくミラナ。

 めんどくさがるなよ……気持ちはわかるけど……。


 そんなあからさまにイヤイヤな雰囲気を漂わせながらミラナは馬車のハンドルの右隣にある小さなレバーを思い切り引く。


「異次元収納装置、準備完了」


「よっしゃ!」


 俺はガッツポーズと共に拡声器の音量を再び大にする。


「皆さああん!! ちょっと狭いけど我慢してくださいねぇぇ!!」


 俺の言葉に訝しむ人々。

 俺はミラナに指示した。


「吸い込め! 相棒!!」


「アイアイサー」


 かちりと、音がした。ミラナがスイッチを押したのだ。

 なんの? そりゃもちろん異次元収納装置だ。


 すると四輪の棺桶の後方の荷物置き場、トランクがバカリと開いた。


 それとほぼ同時だった、闇に覆われたトランクの収納空間から無数の青白い手が這い出してくる。


 その青白い手は次々に、人を無差別に捕まえていく。


「ぎゃあああ!!」


「母さん!!!! 助けてぇぇ!!」


「いやああ!! うちの子があああ!!」


 阿鼻叫喚とはこのことだろう。


 不気味な無数の手が老若男女、関係なく捕まえてトランクの中に引きずり込むのだから、混乱が起きない方がおかしいというものだ。


「スミマセぇん!!!! でも死ぬよりはマシなのでほんとスミマセン! それに安心してください、異空間に皆様を収納し出るだけなのでぇ!」


 俺は拡声器越しに叫びながら言うが、当然、賛同など得られるはずもなく怒号が響く。


「ミラナ! スピード上げろ! ぶっ殺される!!」


 俺の叫びにミラナはため息と共に思い切り馬車のスピードを上げる。

 同時に人々の怒号の声量も上がった。


 まぁ、他者から見れば誘拐犯が逃げようとしてるようにしか見えないだろう。


 中には怒りのあまり狩猟銃を取り出している人もいる。


 当然、彼らには俺たちを見逃す理由はない。

 銃口が火を吹いた。


 ガキンと、馬車のフレームに弾丸がめり込む。

 あれ、待てこの車、丈夫なやつなんだろうな?


 いや多分大丈夫だろう……大丈夫だよな?

 俺は恐る恐る、涼しい顔で運転している女に問う。



「ミラナさん? 銃とか耐えられるようにできてんだよなこの車!?」


「あ? 無理に決まってんでしょ」


「はあ!? じゃあどうすんだよ!?」


「全力で蛇行運転するしかないわね」


 何を言ってる、と突っ込もうとした瞬間、馬車は思い切り左右に蛇行しまくる。


「おおおおお!! やめろ! 酔う!!」


「私は御者じゃないのよ、細かなサービスはできない」


「オロロロロろ! オエっ! でもいいぞ弾丸も避けられてるし! 住民も引きつけられてる!!」


「そう、とりあえずゲロは窓の外でお願いね」


 吐きながら、外の様子を報告した俺に、相棒はクールに返していく。

 いつもと変わらなすぎたろコイツ。


 するとついに街の住民を次々と連れ去ったトンチキ馬車のゴール地点も見えてくる。


「門番さんどけぇええ!!!」


 俺の叫びと走り迫る民衆の群れに恐れ慄いた門番は思わず門を開ける。


「よっしゃ街の外だ!」


 そうして俺と民衆は王都の外に出た。

 やった、目的は達成だ。


 そしてその時だった、王都の中心から火の柱が立ち昇ったのは。

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