あなたもこのバスに乗ってましたか?

絵名チル

►23時~0時37分

──12月、深夜23時。

ツーマン運行の高速バス。

東京発、東北方面へと走行中。


運行管理人(以後、運管うんかん): こちら運管の御厨みくりやです。210便へ。順調に走行していますか?どうぞ。


深夜高速バス運転士(以後、運転士): こちら210便、現在の運転は渡会わたらいです。高速道路は若干混んでますねぇ。まぁ、年末ですからね。どうぞ。


運管: 了解。お客様の様子はどうですか?


運転士: 本日は満席で36名ですね。消灯してからは、客席は静かなものですよ。


運管: 了解。では安全運転でお願いいたします。どうぞ。


運転士: 了解。そういえば御厨さん、自分が事務所でアルコールチェックしてる時、刑事が2人来てましたよね。踏み切りがどうとか……何かあったんですか?どうぞ。


運管: あぁ、ウチのバスの駐車場裏に踏み切りがありますよね。あそこで早朝、女子校生が電車に跳ねられて亡くなったそうですよ。何でも、右手が見つからないから、ウチの敷地も探させて欲しいって。結局見つからなかったそうですよ。


運転士: そうだったんすね……自分にも同じ年頃の娘がいますよ。何ともツラい事故ですね。御厨さん、時間取らせました。どうぞ。


運管: いえ、気になりますよね。


──深夜23時50分。


運転士: えーこちら210便。◼️◼️サービスエリアに到着。20分の休憩をとり、諸星もろぼし運転士と交代します。どうぞ。


運管: 了解。


──深夜0時15分。


運転士: こ、こちら210便!運管、応答願います!!……御厨さん!!


運管: はい、こちら御厨。どうしました?!


運転士: 発進の際、お客様1名、怪我をさせてしまいました!どうぞ。


運管: えっ!お客様の状態を具体的に説明してください!どうぞ。


運転士: 20代女性。お名前は近藤様。急ブレーキが原因で、紙コップの熱い飲み物がこぼれて、手に火傷を。今、保冷剤で患部を冷やしてもらっています。ご本人は、大したことないと言っておられて、目的地の▲▲駅までこのまま乗って行きたいと……どうぞ。


運管: 了解。乗客名簿で近藤様、連絡先も確認できました。では、予定通りに▲▲駅までご乗車になるということで。近藤様には『病院で診てもらって診断書をもらってください。後日、ご連絡致します』とお伝えしてください。どうぞ。


運転士: 了解。それと……あ、いや……原因は後程報告します。



──深夜0時37分。


運転士: こちら210便、運転は渡会です。◼️◼️サービスエリアを出発しました。どうぞ。


運管: 了解。あれ?運転は諸星くんじゃないんですか?どうぞ。


運転士: まあそれが……諸星くんは先程の件で動揺してて……規則では2時間交代ってなってますけど、落ち着くまで自分が運転をする判断をしました。どうぞ。


運管: ふむ……やむを得ないですね。いったい急ブレーキの原因は何だったんですか?


運転士: えっと、お客様が休憩から全員戻られて、バスを発進させる時はもちろん諸星くんがハンドルを握ってましたよ。その時自分は、左側の安全確認をするために、扉前ステップに立ってたんですよ。まだ◼️◼️サービスエリア内ですよ。で、右にカーブしたなと思ったら、諸星くんが「危ない!」って叫んでブレーキをかけたんです。まあ徐行でだし、自分はよろける程度でしたけど。


運管: 動物でも飛び出して来たんでしょうか?あ、話の腰を折ってすみません。どうぞ。


運転士: いえ、それが……長い髪の少女が、急にバスの前に現れたって。でも自分が見た時は誰も。「当たったのか?!」って焦って訊いたら、「たぶん、間に合わなかったと思います」って。諸星くん声が震えてましたよ。


運管: そんな……でも、今、無事に走行してるんですよね……


運転士: ええまあ、この仕事って事故と隣り合わせなんでね、慌てて懐中電灯を引ったくるようにして外に飛び出して確認しましたよ。ぐるっと周囲も見て、車体の下も見ました。事故の形跡はありませんでしたよ。


運管: はぁー良かった!では諸星くんは何を見たんですかね?どうぞ。


運転士: 諸星くんは運転士経験は浅いけど、真面目でウソを言うような人じゃないですからね。きっと何かは、居たのでしょう……

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