第22話:知らない登場人物①
リルゼムは諦観の眼差しを浮かべたまま、雲一つない青空を見つめていた。
「ほら、聞こえるかい? 子どもたちの楽しそうな声が。パトリも皆とすぐに仲良くなれたようで本当によかった」
庭中に響く子どもたちのはしゃぐ声に、隣の男が満足そうに微笑む。
確かに子どもたちの楽しそうな声に異論はない。見たこともない遊具で思いきり遊べる喜びが十二分に伝わってきて、こちらも自然と頬が緩む。パトリはまだアスレチックで遊ぶことはできないが、友だちがたくさんできたからか医者からも「これなら回復も早いだろう」と太鼓判を押された。
しかし、それと今この状況は別である。
「君もそう思うだろう?」
「ええ、裁判長がゼロ距離で密着してこなければ、オレも手放しで喜んでいたと思います」
リルゼムは一切目を合わせないまま、答える。
ちなみにだが、今現在の心の中の言葉はこうだ。
はて、この男はドMか何かなのだろうか。普通、あれだけ嫌味を言われれば、もう関わりを持ちたくないと思うはずなのに、どうしてこうなる。
オレを巻き込むなと、あの日はっきりと突き放したはずなのに、エイドルースはなぜか前以上にくっついてくるようになった。
「つれないな。私と君の仲なのに」
「裁判長が考えるような仲になった覚えは、一切ありませんが」
「君に覚えがなくても、私にはあるから安心してくれていいよ」
なんだコイツ、人の言葉を聞かないタイプのポ●モンか?
「まぁ犬も食わない痴話喧嘩はさておき、私は本気で君に感謝してるんだよ」
一度、痴話喧嘩の意味を辞書で調べてから出直してこいと言ってやりたかったが、これ以上続けるとまた会話が長くなりそうだとリルゼムはグッと堪えて飲み込み、言い分を聞いてやる。
「君に厳しいところを突かれて、目が覚めた気分になった」
「目が覚めた?」
「私は君の指摘どおり、兄の死の真相を突き止めることしか考えていなかった。だが君にき込むなと言われて、大切なことに気づかされたんだ。他人を傷つけてまで目的を果たしても意味がないと」
「……じゃあ、諦めるんですか?」
ごくりと息を呑んで、問いかける。
「いや、諦めるつもりはない。だがちゃんと考えて行動するよ。パトリや君、大切な人たちに迷惑をかけないよう最大限の努力をする」
強い決意を眼差しに浮かべながら、エイドルースはそう言い切る。その姿からは本気の熱のようなものが伝わってきた。けれど──。
リルゼムは真っ直ぐ前を見つめたまま、称賛も納得もしなかった。
エイドルースの掲げる理想が、到底無理なことであると分かっていたからだ。
ヨシュアの死の真相に迫るのは、宰相の悪事を暴くのと同義。今も虎視眈々と王座を狙う宰相は、決してエイドルースに尻尾を掴ませるような失態は犯さない。そんな男に正攻法で挑んでも太刀打ちできなかったからこそ、漫画では粛清者になったのだ。それほどまで強敵相手に、誰にも迷惑をかけないなんて綺麗事を並べながら勝つことなどできるはずがない。
「だから君にも見届けて欲しい。私が誰も傷つけずに本懐を遂げるかどうかを」
「は? なんでオレが見届けることになってるんです?」
「君が間違いに気づかせてくれたから……なんて言ったら意地が悪いな。ただ純粋に私が君に見ていて欲しいだけだよ」
「言いましたよね? オレを巻き込まないでくださいって」
「その点は安心してくれていいよ」
「なんで断言できるんです?」
「君が好きだからだよ」
「なっ……」
あまりにも直球な言葉に、絶句してしまった。
「君と出会ってから私の人生は大きく変わった。私にとって君は掛け替えのない人だと言っても過言ではないよ」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟なんかじゃない。十三年前だって……っ」
言葉の途中で何かに気づいたエイドルースが、咄嗟に固まる。まるで口にしてはいけない何かを漏らしてしまったかのような素振りに、リルゼムは「え?」と首を傾げた。
「いや、今のはなんでもない。 忘れてくれ」
「なんです、気になるじゃないですか。教えてくださいよ」
「本当になんでも────」
下手クソな動作でエイドルースが目を逸らす。その姿に、これは何か絶対に裏があると直感したリルゼムが、身を乗り出して追及しようとしたその時。
「これはこれは……昼間からお熱いことだねぇ」
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