第14話 旅立ちの日
モンスターにより村の人達が仮死状態にされた事件を解決して5日後。
徐々に治療の為に隣の村に居る聖女さまの元から帰ってくる者が増えた中、オレは再び旅に出る事になった。拾った少女ことエミリアと共に。
いや、だって明らかにオレに懐いているし……。
村の人達も良い人達ばかりだから馴染めるかな? と思ったけど、どうもオレ以外に対しては人間不信な所がある。何があったんや。
村の人達に見送られながら(特に村長の娘さんはメチャクチャ泣いてた。ヤバいなあの人)、次の目的地に向かう。
「ファースト。どこ行くの?」
「クルドラ村だ」
あそこは人工魔剣がある村だ。時系列的にそろそろ事件が起きる筈。
正直原作に対してそこまで強い影響力がある訳ではない。ただ刻み込まれている魔法が便利で、RTA勢は真っ先に習得していた。
『詳しいわね。本筋に関係無いと言いながら』
学園の生徒のサブクエを進めると判明するタイプって結構多くて、主人公の近くの村って分かってビックリするんだよね。
魔法が強いのも相まって、下手したら主人公死んでこのゲームバッドエンドの可能性もあると散々ネットで語られていたよ。
『つまり……』
あまりやりたく無いけど、先に倒しておこうかなって。あとついでにラティス村に寄って聖地巡礼……じゃ無くて、主人公の確認をしておきたい。
『私たちは良いけど……』
ん? なにその引っ掛かる言い方──って、なんぞ?
ぐいっと引っ張られる感覚があって振り返ってみると、俯いたエミリアがマントを掴んで立ち止まっていた。
なんぞやなんぞや。どないしたんねん。ぽんぽん痛いんか?
『変な口調』
だまらっしゃい。
「……そっち、行きたく無い」
え〜〜〜〜〜!?
まさかの拒否!? 何で!?
「何故だ」
「……」
「答えたく無い、か」
【幼き少女の痛みをオレは理解できない。
しかしその嘆きは痛い程に伝わった。
故にオレは──新たな道へと進むべきなのかもしれない】
へい! テレシアさん! 解読して!
『進路変更。マスターはロリコンって事ね』
風評被害にも程があるだろ。前から思っていたけどこのモノローグ絶対オレ関係無いだろ。オレ巨乳派だし。
『ちっ』
やっべテレシアさんの前で乳の話はあかんかった。
しっかし、クルドラ村はダメかぁ。そうなると反対方向にするべきか?
そうなるの水の都セケレンティアにするか。あそこ観光名所だし、温泉気持ち良いって言われてるし、運が良ければ未来の水の聖剣使いに会えるかもしれないし。
……よし。
「セケレンティアに向かう。それなら良いか」
「……ごめん」
「勘違いするな。貴様の為では無い。オレの気が変わっただけだ」
またツンデレに変換されてる……。
ロリコンのモノローグ。ツンデレの肉体。巨乳アンチの聖剣。尻派の魔剣って変な旅のご一行様だなぁ。
『狂人の異世界人を忘れてるわよ』
はいはいくるんちゅくるんちゅ。
しかし行動の制限が相変わらず痛いな。運命の辻褄合わせが発生しているって事は、原作主人公と何かしら関係あるんだろうけど。
『その子が関係者じゃ無いの?』
うーん。その可能性は──。
◆
それは絶対に無いな。根拠は無いけどこの子は
『そうなのね。マスターが言うのなら間違い無いわね』
オレゲームやり込んで居たからね。この時期の主人公周りのイベントは粗方把握している。
主人公が女の子じゃ無い限り、ラティス村周辺で女の子が出て来る事はないよ。
この世界の主人公は男だし、エミリアは原作と無関係だ。
『マスターがそう言うのなら、そうなのでしょうね』
うむ。だから主人公の名前が【リオン】か【ジルク】か調べたかったけど、仕方ない。
モノローグ無視してラティス村に言ったら契約の反動が起きそうだ。
ぶっちゃけ一目見てみたかったけど……仕方ないよね。
【この時のオレは知らなかった。捻じ曲がった運命の人形となっていた事に。故に嘆かわしい。故に怒りを覚える。故に──報いは必ず受けさせる】
最近モノローグさんの自己主張が激しいな。
エミリアを置いていこうとした時も凄かったし。
『マスター。あなた本当にロリコンじゃ無いのよね?』
ちょっと自信無くして来たかも……。
とりあえず行く先が決まったので、オレ達はセケレンティアに向かって歩き出す。
それにしても温泉か〜。長い事入って居なかったから楽しみだ。
アラン! せっかくだから磨いてやろうか?
『……』
まだ拗ねてる……もうちょっと時間を置くか。
「ねぇ、ファースト。村を出る時に白と黒の剣で何か描いていたけど、アレは何?」
しばらく歩いていると、ふとエミリアが訪ねて来た。
ふむ。そういえばアレはこの時代にはまだ無いんだっけ? 村の人達も不思議そうにしていて、効果見せてようやく納得したほどだ。
「アレは反転術式だ」
「反転、術式……?」
「ああ。あそこの村人たちは呪いの魔法を掛けられていた。一度オレの力で解呪したが、原因の魔法がまだ生きているからあの様に対応させて貰った」
なーんか変な感じだったんだよね。土地全体に掛けているというか、そこの繋がりを使って呪っているというか。
ゲームのダンジョンで時々デバフのトラップがあったけど、多分同じ類だろう。
反転術式はそのトラップを無効化する剣技で、戦闘では防御技として存在している。
この世界だと相手の魔法の発動を阻害するって効果らしいが。
「……呪い、かぁ」
エミリアは今の話を聞いて何故か落胆する様子を見せた。ど、どうしたんだ?
空気が重くなる。え? オレのせい?
二つの剣から無言の抗議の念波が送られてきた。コイツらこういう時だけは知らんぷりしやがって。
何とかこの気まずい空気を脱するべく、オレは口を開いた。
「エミリアと言う名は気に入ったか?」
「……うん」
よし、楽しく会話できたな!
「……あのね。私ね、もうお父さんとお母さんにもう会えないの」
おぉう。空気がまた重くなる。
「それでね。お父さんとお母さんに昔言ったの。弟か姉が欲しいって」
「……」
「その時私言ったの。弟ならジルク。妹ならエミリアが良いって。名前考えてたんだ」
そこで彼女は涙を浮かべて。
「嬉しかった。私、本当の名前を無くしちゃったけど、ファーストがくれたエミリアって名前……大好き!」
……そうか。それは良かった。
涙を浮かべながらも嬉しそうに笑う彼女を見て、オレの好きな人の名前が早速笑顔にしてくれた事が嬉しく思えた。
それにしても凄い偶然だな。弟ならジルク。妹ならエミリアとは。
「エミリア。お前の父と母は素晴らしい人なのだな」
個人的に会ってみたいな。そのネーミングセンス好きだし。それにエミリアの反応的に良いご両親なんだろう。
【何故オレは気付けない。運命の亀裂に。歪みに。拗れに】
「……うん!」
【故にオレは──】
◆
「おいリオン! おい!」
「あー、失敗したか」
「待ってろ、今助けてやるからな!」
「んー。セーブポイントはあそこにしておくか」
「黙っていろ! くそ、こんなに血が……!」
「でもちょっと無理ゲーかも? 神様は一度しか使えないって言ってたけど、あっちのセーブポイントにも飛ぶ事を考えるべきだな」
「リオン? お前さっきから何言ってんだ!」
「まぁ、それを使う前にできる範囲で進めて、小まめにセーブするか」
「……おい。お前、そのナイフで何を──」
◆
【流転する世界の中、彼女を地獄から救えるのは──お前だけだ。最上秀一】
【いや──ヒュース・カルタルト】
◆
「セケレンティアに向かう。それなら良いか」
「? うん! 楽しみだね!」
あ、あれ? 急にテンション高くなった。
子どもってのはよく分からないな……。
『今はマスターは子どもでしょう?』
それは、そうなんですが……。
『ふん。貴様はクソガキで十分だ』
アランまだ拗ねてるのかよ!? いい加減機嫌直してくれないかなー。
「ファースト。私にも反転術式教えて?」
おろ? この子反転術式知っているのか。凄いな。
『ええ。将来有望ね』
どうせなら剣術も教えるか? 双剣は良いぞ。何せ原作主人公のラストバトルで使われるからな!
「ああ。分かった」
「ありがとう!」
その為には剣を買わないとな。
さっきの村に戻って買うか?
「えへへへ。楽しみ」
それにしてもこの喜び様……もしかして向こう側に彼女の故郷があるのか?
そしてそっちに行こうとすると凄く拒否して、行かないと分かるとここまで明るくなる。
どうやらエミリアの両親は碌でも無い様だ。
【哀れな操り人形よ】
相変わらず辛辣なモノローグだ。今回は同意だけど。
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