side of Drag

マイケル吉田

第1話 prologue

ここはアメリカの西南に位置するテリヤキ州のレインサス。

この都市周辺部は最先端技術の工業が盛んであり、経済的に発展している都市である。

また近郊エリアには世界的に有名なIT会社が多く本社を構え、注目度が高い地域となっている。

そんな発展都市には悪い虫が多く寄り付く・・・

「・・・もう直この街は私のモノになる。日付が変われば、裏市場を牛耳ることができる。そうなればこの都市周辺部に構える企業のプレジデント達も私には逆らえなくなる」

日付の変わる数十分前。

外は闇に包まれ眠りに入っている時間。

だがそんな中、一人の若い男はこの静かな夜に一人で熱くなっていた。

世界を手に入れられるという夢物語を目の前にしていたからである。

そんな男は中心都市より少し離れた人気のないオフィスビルにいた。

このビルから街のカメラを利用(ハッキング)して監視している。

邪魔者を見つけ出す為に・・・。

「しかしこの街に、いやアメリカには正義のヒットマンがいると聞く。噂程度だろうが、邪魔されたら一溜まりもないからな」

そう警戒して、この男はビルに多くの兵隊を用意し配置する。

ライフルや防弾チョッキを武装した雇兵、凡そ百人近くも。

いつでも自分の身を守ってもらう為に。

正義のヒットマンから・・・

「・・・ん?なんだ?・・・!?」

男の見ていたモニターが突然黒くなった。

操作を行っても反応はない。

それだけではない。

部屋の明かりもなくなり、一部の階を除いてビル全体が薄暗くなった。

それもそのはず、ビルの電力が一部落ちていたからである。

「おい、どういうことだ!」

「ハッ、今すぐ調べさせます!」

「当たり前だ・・・それと兵隊達は念の為警戒モードに切り替えさせろ。万が一あの男が来たら厄介だ。・・・まあこの包囲陣を抜けられる理由はないだろうがな」

と男は口元を緩ませ余裕を見せる。

何故ならこの防壁に絶対的自信があるからだ。

もちろん普通のヒットマンなら抜けられない。

だがあの男なら朝飯前である。

なぜなら普通ではないから・・・。

既にヒットマンは息を潜めビルの側に待機しており、機会を伺っていた。

「ふ~ん、ここにターゲットがいるのか。ま、今回もパパッと済ませますか」

と手慣れた動きで外に置いてあったセンサー付きのブレーカーを落とす。

もちろんセンサーを無力化しゴミにしてから作業する。

そうして裏口を軽くノックして相手を誘う。

ここまで無駄無く一瞬の出来事である。

「ん?なんだ・・・」

扉の音が鳴り、中にいた兵隊は銃口を扉に向け、アイコンタクトと手や首の動きで合図を送る。

それぞれが配置に付き周囲を警戒する。

「さっきボスから報告があって、外のブレーカーが落ちたみたいだ。それとクライアントから警戒モードに切り替えろと連絡も・・・例の男かも知れないだそうだ」

「了解・・・」

その一言で一気に緊張が走る。

予想通り、あのヒットマンが来るということに彼らは震え慄いていた。

だがそれと同時に、その男を倒すことができるかも知れないと昂ってもいた。

この布陣に敵うやつなどいないと誰もが思ってしまったからだ。

失敗は許されない為、小さな声と無線で近くの仲間も集める。

一階裏口に注意喚起をする。

そうして一人がドアノブに手を触れる。

その後ろに仲間が数名待機し、ゆっくりと開ける。

それと同時に後ろに待機していた仲間が外をクリアリングする。

「左サイドクリア」

「右サイドもクリア」

「上もクリア・・・」

狭い路地に三人の兵隊がゆっくりと外へ出ていく。

足音を立てず、背中合わせに移動する。

そのまま側にあったブレーカーの下へ。

「・・・センサーがやられてる」

破損されたセンサーを確認し、急いで無線で連絡する。

「こちらチームJリーダー、ブレーカーのセンサーが意図的にやられてます。また電子系統のブレーカーが壊されており復旧は困難です。どうぞ」

「・・・そうか。状況報告感謝する。それで近くに人影は?どうぞ」

「今のところ見当たりません。警戒はしていますが、恐らく正面玄関へ移動したか、別のビルへ移動したかと。捜索隊を派遣しますか?どうぞ」

「ああ、近くにいるチームリーダーは?どうぞ」

「こちらチームIリーダー、チームKリーダーと一緒に一階で待機しています。どうぞ」

「よし、ではその二班は正面玄関と隣のビルへ。他の近くにいるチームも随時合流し配置につくように。それと隣のビルには警備が数名いるだろうが、最悪無力化しても構わん。その他のチームリーダーは、それぞれの配置に付き警戒しろ。以上」

「「ラジャー」」

それぞれのチームリーダーが行動する。

ヒットマンを探し殺す為に。

一気にオフィスビル全体に緊張が走った。

ターゲットの男も貧乏ゆすりをして焦りを顕にしていた。

その男の側に待機するこの兵隊のボスは冷静に状況を見極めようとしていた。

だが一方ヒットマンはというと、既にオフィスビルの屋上に向かっていた。

壁をパパッとロッククライミングのように登り・・・

「いや~ご苦労なこった。俺は屋上にいるのに下を警戒しちゃって・・・まあ動きは悪くないかな。んで、システムには入り込めたか?どうぞ」

ヒットマンは無線でサポーターに確認を取っていた。

ここまで丁寧にブレーカーを落としたり、敢えて怪しさを醸し出していたのは相手にハッキングの邪魔をさせないためであった。

「もちろん終わっています。カメラもこちらで確認できます。どうぞ」

「了解。それじゃあ中の配置は?どうぞ」

「上から十階に五人、九階から七階にそれぞれ十人ずつ、ターゲットの六回には二十人、五階から二階にはそれぞれ七人ずつで一階には十二人、その内三人は隣のビルへ、三人は周辺の警戒へ。どうぞ」

「九十五人か・・・キリ良く百にしろよ。まあいいか。武装の方は?どうぞ」

「全員アサルトライフルと防弾チョッキを常備。どうぞ」

「ま、定番だな。よしなら念の為防犯映像をフェイクのに切り替えて、中の施錠も全部解除しておいてくれ。後はこっちで済ませる」

「わかりました。お気をつけて・・・」

「おう、それじゃあ無線を切れ。後は俺が無線をダブルタップするまで繋げるな。傍受される危険がある」

「わかってます。ではいつでも外に待機しておりますので。以上」

プッと無線が切れヒットマンは意識を切り替える。

掃除屋として・・・

手に持っている拳銃のサプレッサーが付いていることと弾数を確認、それと予備のマガジンの数とナイフを確認する。

そうして口元をマスクで覆い隠す。

「・・・行くか」

屋上の扉にそっと手を触れる。

側でしゃがみ込み目を閉じて声と足音を確認する。

それぞれの位置を確認している。

脳内で中の状況を構築したら勢いよく扉を開けて、近くに待機していた兵隊を気づかれる前に無力化する。

「・・・ウッ・・・」

「ん?・・・貴ッ!」

「・・・なんだっ!?」

異変に気がついた残りの二人の兵隊だが、突然頭に頭痛のようなショックが来たように動きが止まった。

それを利用して反応される前に拳銃でヘッドを抜きダウンさせる。

そのままバタンと倒れる音がしないように素早く静かに近づき掴む。

そうして倒れていく身体をゆっくりと地面に付かせる。

「・・・?」

他の二人も少し警戒しつつ、近くにいなかった為に現状を把握できずただ待機していた。

それを狙い薄暗い部屋の影を利用して残りの二人も背後から無力化する。

(十階はクリア・・・残りは九十か・・・)

階を降りて一人一人を正確に無力化する。

気づかれて増援でも送られたら面倒だからである。

的確に、静寂に掃除していく。

その頃、一階組からの報告を受けるボス。

「こちらチームIリーダー、一階周辺人影はありません。どうぞ」

「こちらチームKリーダー、隣のビルにも人影はありません。どうぞ」

「・・・何処へ消えた?それとも、そもそも来ていない・・・?」

「そんな理由がないだろ!必ず奴は来る。なぜならこの街を牛耳っているコミュニティに雇われているからな。ソイツラのせいで害虫(われわれ)はこの街に入れないでいる」

「・・・そうですね」

「警察も黙認している自警団という名の犯罪組織だ。だが今では西アメリカの中心的存在まで上り詰めている。そんな巨大組織を我々が乗っ取ろうというのだ。システムに入り込もうとしてな・・・」

「だがそれは許さないと・・・」

「当然だ。・・・上の階はどうなっている。隣のビルから飛び移る可能性だってあるだろう」

「今のところ報告はありませんが、確認してみます。・・・私だ。チームA.B.Cのリーダー、状況はどうなっている」

「・・・・・・」

「ん?応答せよ、チームA.B.Cリーダー・・・!」

「クソッ、やはり殺られたか!?おい、今すぐ上に向かわせろ」

「ハッ!こちらボス、チームA.B.Cが殺られた。全チームは今すぐ上階へ向かえ。裏口やエレベーター、ダクトなど隅々までチェックしろ!油断はするな。見つけ次第必ず殺せ!」

「「ラジャー!」」

下階にいた敵部隊は一斉に上階へと向かった。

階段、エレベーター、ダクトなど相手が降りられる可能性のある場所を経由して。

そんなゾロゾロとした足音に気が付き、笑みを浮かべる掃除屋の男。

彼は既に七階まで制圧していた。

「・・・足音が丸聞こえだな。必死さが丸見え。ま、これで半分くらいはやったか。なら後は暴れてもいいかな。ウォーミングアップも済んだし、こっからはちょいと派手に行くか」

と拳銃をポケットに仕舞い込んでナイフを手に構える。

この状態が彼にとって戦いやすいスタイルであった。

「・・・三、二、一」

と同時に階段から出てきた敵兵の首を斬りつけ瞬殺、その勢いで後ろにいた敵兵の頭を裏拳で殴る。

その衝撃によってコンクリートでできた壁を凹ませ砕く。

もちろん食らった相手はダウンし、それに反応した更に後ろの敵兵達は銃口を向けるが、先程起きたような頭痛が一斉に起こり身動きが取れなかった。

その隙に何人も斬りつけダウンさせる。

「流石に階段は戦いにくいな・・・」

と急いで廊下に戻り、廊下の角に隠れる。

再び静かに敵を見定める。

常に冷静に状況を判断し最適解を見つけ出す。

次にエレベーターから現れた敵兵だが、足元の死体が目に入り最大級の警戒をする。

「七階だ!既にここまで潜んでいるぞ!!」

狭い廊下に全員出てきて背中合わせにお互いを護りながら周囲を警戒する。

兵隊達は薄暗い廊下を暗視ゴーグルを頼りに進んでいく・・・。

「よし全員出たな・・・」

タイミングを見計らい勢いよく角から姿を現して敵群に向かって走っていった。

「!? いたぞ!こっちに向かってくる!」

「バカめ、撃てぇ!!」

数人が銃口を向けてトリガーを引く。

連射性の高いライフルで一瞬で何十発と弾丸が弾けた。

それに対して廊下に倒れ伏していた何人もの死体をヒットマンは掴み盾のように構え防ぐ。

「野郎ぉ!!」

「撃ちまくれぇ!!」

だがこの盾はここからが真骨頂である。

ヒットマンは速度を落として一瞬踏み込み死体ごと敵の目の前で殴り飛ばす。

「おらよっと!」

その勢いは普通のパンチとは威力が段違いで何十メートルと兵隊の数名は一緒に吹き飛ばされる。

「ぐわぁ!?」

「なんだとっ!?」

それで相手は体勢を崩し転げる。

驚きと衝撃のあまり直ぐに立ち直れなかったが、意識を取り戻し立ち上がり体勢を整え直す。

だがそんな隙も与えず、再び加速して塊にドロップキックをお見舞いする。

「最後に貰いな!」

その勢いで壁をぶち破り数名の敵兵は七階から突き落とされる。

「あ、ちょっと派手にやりすぎたか・・・ま、いっか」

と更に溢れるように出て来る敵兵を今みたいなノリで薙ぎ払っていく。

まるでゲーム感覚で。

そうして敵兵は全滅する・・・

「・・・応答せよ!応答せよ・・・!まさか、全滅したと・・・?」

「バ、バカな・・・そんなことが・・・さっきの騒音は一体何が。奴は本当に人間か?」

クライアントの男は震え上がった。

それも当然である。

この数を相手に全滅させる者など普通では考えられないからだ。

悪夢を見ているように怯え冷や汗をかいていた。

「・・・なら私が直々に行くしかないようだな」

「ん?・・・おぉそうだったな。お前は兵隊(アイツラ)と違って実績のあるプロの殺し屋だったな。確か過去には腕を見込まれセレブの用心棒も務めたとか」

「えぇ、ですから自信はあります。私も奴らと同業のプロ、負けるつもりはない」

「流石だな。・・・もし本当に奴の首を持ってくることが出来れば、貴様の部下に払った報酬を全て貴様にくれてやろう。そして今後も雇うことを約束してやる」

「それは有り難い。腕が鳴るといっ・・・」

すると自称プロの殺し屋の男はその場に倒れ伏せた。

扉から貫通した弾丸に頭を撃ち抜かれて。

ドロっと頭から血が出てくるのを見てターゲットの男は恐怖に溺れる。

「あ、あぁ・・・そんな・・・」

只々声を震わせ恐れ慄くしか無かった。。

もう誰も守ってくれる存在がいない絶望的なこの状況に。

「話が長いし外に丸聞こえ。プロ名乗るなら静かにササッと済ませろ。俺が言えたことじゃないけど」

扉が開かれ黒い影が現れた。

高身長の程よい筋肉質の男。

片手に拳銃を構えふらっと中へ入るが、一瞬見ただけではヒットマンとは感じない雰囲気をまとっていた。

ただの何処にでもいる青年と同じようであった。

だが鋭い眼光はまるでハンターのようで恐怖心が煽られるようである。

そして今の状況は逃げ場の無い弱者が追い詰められた状況・・・

「あ、お前がターゲットのえっと・・・ジョンだろ」

「いやジャックだが・・・」

「あ、そっか。って冗談だよ、ジャック・クラー」

「うっ・・・」

「ちゃんとリストに載ってる名前は覚えてるよ。この街を我のモノにしたいみたいだけど残念。ここで終わりだな」

ヒットマンは会話をしながら然りげ無く無線に手を当てダブルタップする。

それで外の仲間に連絡を送った。

それと呼吸をしやすいように口元を覆っていたマスクを下ろして顔を顕にする。

「クッ・・・」

「それかお前の背中の裏にあるデスクに乗ってる拳銃で最期の抵抗でもするか?」

「!? き、気づいていたか・・・」

「当然・・・ほら手に取れよ」

「そ、その間に撃つんじゃあ・・・」

「撃たねぇよ。もとより俺はお前を殺せねぇ。うちのボスが捕まえろって言うんでな」

「そ、そうか・・・」

と恐る恐る銃を触れる。

手が震えながら銃口をヒットマンに向ける。

「撃てよ」

「バカが!!」

というが拳銃は弾を発射しなかった。

トリガーが引けずハンマーが動かなかったのだ。

「バカはそっちだろ。セーフティがかかってるままだぞ」

「なっ!?」

「銃はこう撃つんだ」

と拳銃の銃口をジャックにめがけてヒットマンは撃った。

手に持っていた拳銃は衝撃で弾かれ破損しバラバラに飛び散る。

また衝撃が手に伝わりジャック・クラーは手首を押さえる。

「ヒィ!?」

「あと撃つなら肩幅くらいに足を開いて立って撃ったほうがいい。初心者ならバランスが取れて狙いやすくなる」

「・・・・・・」

「ったく事前に確認しとけよな、セーフティくらい」

ヒットマンは呆れて首を降る。

それとサプレッサーも拳銃から取り外し胸ポケットへ仕舞う。

「ま、待て・・・さ、流石の腕前だ。悪魔(デーモン)と噂されるだけのことはある」

「おい、その渾名は俺を貶してるだろ。つか俺はあんまりその渾名を好いちゃいないし、殆ど聞いたことがねぇぞ」

「そ、そうか。それは失礼、だが悪魔というのもただの掃除屋、ヒットマンとしての名前ではないのだろう?」

「・・・・・・」

「この軍を壊滅できたのは普通じゃない。そこには別の何か力が必要だ」

「つまり、何が言いたい?」

この男に冷たい怒りが垣間見えた。

本気の殺意であった。

当然ジャック・クラーの対する。

だが臆すること無く話を続ける。

「お、お前は異端者ということなのだろう?噂通りの・・・」

「!?」

ここで言う異端者とは、主に異能の力を持っているものを指す。

但しこれは時代や国、地域、人によって解釈や認識が異なる為正確な定義はない。

ただ一つ言えることは、〈普通の人ではない〉ということである。

不可思議な力を持ち合わせているのであれば当然の扱いではある。

そしてこの男はその中でも更に二つ異能を持っている。

一つは身体的強化であり、先程の強力なパワー何かがその類である。

そしてもう一つは相手の脳に不快な脳波を送る異能である。

これら二つを持ち合わせているからこそ、掃除屋として異常な最強と恐れられている。

そして普通の人間じゃないと怖れられてもいる

「・・・その噂、何処でそれを知った?」

「さてな。適当に耳に入っただけだ」

「答えろ・・・」

銃口を向けて脅しをかける。

だがジャックは余裕そうに笑う。

「私を殺せないのだろう?」

「なるほどな・・・」

殺されないと知って、相手を煽るように話した。

それにこれはジャック・クラーにとって賭けであり確認でもあった。

噂は本当なのか。

この男が異端者という異常者かどうかを確認する為の。

そして本当にこの状況でも自分を殺さないのか。

それらを改めて確認でき落ち着く。

もちろん相手の演技かも知れない為、未だに駆け引きはジャック・クラーの中で続く理由だが・・・

「仲間は簡単に売らない。こういう生き方をしてるのならわかるだろ?一瞬の関係であっても信頼を勝ち取る為には慎重に行動するのが我々だ」

「・・・そうだな。お前の言う事も一理ある」

「わかって貰えて助かるよ。それでいくら欲しい?」

「あ・・・?」

「私は異端者であろうと何も関係ない。強い兵隊を求める。もちろん金ならいくらでもやるさ。私の私兵として働かないか?」

「なんだその決まり文句は。そういうの今まで何万回と聞いたことか。ていうか俺はお前を殺さねぇんだぞ?今更誰から身を守る」

「そんなの完全には信用ならん。それにもし仮に本当だとしてもこういう生き方をしている内は何れ殺されるはずだ。だがまだ死ねない、世界を手に入れるまでは・・・だから私の用心棒になってほしいのだ。貴様なら一人で十分だ。報酬は全て独り占めだぞ?」

「それも聞いたな・・・支配者になるとか用心棒になれとか。報酬の話も」

男は再び呆れて顔を振る。

溜息も溢しながら。

その反応にジャックは怒りを顕にする。

「こっちは真面目な話をしているのだ。どうなんだ?金は欲しくないか?」

「ん〜十分持ってるからな。ま、表では使えないような金だけど」

「・・・なら表の金を・・・」

「もういいって。あ~そんなにベラベラ話されるとムカついて手元が狂いそうになるんだよな」

「えっ・・・?」

「ボスの命令は捕まえろだが、最悪殺しても構わんだったっけ・・・そんな感じで今まで何人やったっけなぁ?」

とボケるように視線を上に上げて考える。

男の目線にはジャック・クラーは居らず天井を見ていた。

しかし銃口はターゲットに向いている。

またトリガーを指で叩いて恐怖を煽る。

そうしてゆっくりと視線を落としジャックと目が合う。

その瞬間ジャックは背後にある死を感じ取り寒気と鳥肌が立った。

「ま、待っ・・・!?」

「バン!」

とトリガーを引く。

そうして勢いよく弾丸は放たれ後ろのモニターを破壊した。

液晶は粉々に砕かれ電線が姿を現していた。

だがそれに勘違いしてターゲットは気絶する。

尿を漏らして・・・

この緊張感と銃声で簡単に気を失ってしまった。

「ようやく黙ったか。この手の脅しも何万人って引っかかったな。つか俺がターゲットを殺すわけねえだろ」

とヒットマンは呆れながら気絶したジャック・クラーに言い放った。

「しかし、興味深いことを言ってたな。異端者のこと、仲間を売らないこと・・・何処かで俺達のことを横流しにしてる奴らがいるのか・・・」

壁に背を凭れ(もたれ)させて静かに考える。

誰が怪しいのか、脳内でリストアップする。

深く関わっていることや、異端者のことを知っていること等から凡何人かの人物が挙がった。

そうしている間にサポーターがこの部屋へと訪れた。

現れたのはスラッとスタイルの良いスマートな女性の姿であった。

彼女こそ無線で対応していた雇先の組織の構成員の一人である。

「お疲れ様です」

「おぉジェシー、お疲れさん。それじゃあ後の引き継ぎは任せたぜ。彼処で気絶してる奴がターゲットのジャック・クラーだから」

「はい、わかりました。それにしても今回も派手にやりましたね。外にまで散らばっていましたよ」

「あ~まあな。ちと数が多かったんで、もういいかなって」

「ふふ、貴方らしいです。では後は我々に、貴方はボスの下へ」

「わかってるよ。いつもの報告だろ?別に会いに行かなくたってメールとかでいいだろうに」

「そうですね。ですがそれがルールですので」

「へいへいわかりましたよ。随分とアナログな組織なこと」

と男は文句を言いながら部屋から出る。

既に廊下には構成員が多くいて、彼らは遺体を処理するために派遣された存在である。

事前に外の路地裏や車の中に待機していて終わったと同時にジェシーと一緒にこのビルへ入ってきたということである。

「おいーっす。お疲れさん」

「どうも、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「おいーっす、よろしく」

と一人一人に声をかけてビルを降り外へ出る。

彼の仕事は終わったのだから後は任せてその場を去る。

薄暗い夜道を少し歩いて、近くに止められていた最新型マッスルカーに乗り込み彼らのボスもとい雇い主の下へ向かう。

シートベルトを着用してちゃんと安全運転で。

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