3-6 休日、代行する遊び相手


「大丈夫?」

「はい、落ち着きました」

「よかった」


 水筒のお茶を貰い、すっかり詰まりの解消された俺は二人に並ぶようにベンチに座っていた。


「ちゃんと噛まないと」

「そうだね」


 小学生にたしなめられた。

 まあ、よく噛んではいたんですよ。

 ただ思ったより口の中が乾いていたみたいで、そんな状態でマドレーヌなんて食べようものならああもなろうと。


「中身、まだありますか?」


 俺は加賀美先輩の持つ水筒を指差す。

 間接キスがどうとか言ってはいたが、正直気にならない程度には慌てていた。

 ゆえに結構中身を貰ってしまった気がする。先輩の分が残っているか怪しい。残っていてもあまりないだろう。


「ん? まあ……ないことはないかな」


 水筒を振って残量を確認する先輩。

 小さくぴちゃぴちゃという音がした。あまりなさそうだ。


「すみません、買ってきます。麦茶がいいですか?」


 ベンチから立ち上がり、先輩の方を振り返る。

 先輩は首を振った。


「いいよそんなの、自分で行くし」

「でもコンビニまで歩きだとちょっとかかりますよ。俺なら自転車がありますし、それに往復の間は悠君の相手ができないですよ」


 コンビニまで歩くと往復10分と少しくらいだろうか。

 小学生一人を川の近くで放置はできないし、連れて行くとしてもその間は遊びに来た子供にとっては退屈な時間になりそうだ。もっとも、悠君が姉に似てシスコンの気質があるとその限りではないだろうけど。


「行ってきていいよ、お姉ちゃん」


 なかったわ気質。


「そうだな~……じゃあ伊達君、悠の相手お願いしててもいい?」

「え」


 まさかの提案をされた。

 俺が初対面の人の相手? いやまあ相手は小学生だけど。


「俺がですか?」

「ダメかな?」

「ダメではないですけど……」


 まあ予定なんてないし、さっきの汚名返上のためにもお願いを聞くことはやぶさかではないが。

 それはそれとして問題がないわけでもない。


「悠君はそれでいいんですかね」


 俺の問題より重視すべきはこっちだろう。

 悠君が嫌なら無理やりするべきではない。


「悠、いい?」

「やろ、キャッチボール」


 即答だった。

 マドレーヌで好感度が上がったのだろうか。

 もしくは小学生のコミュ力が俺の想像よりも高いのか。俺にはできないな。また小学生に負けてるんですけどこの人。


「はいこれ」


 先輩がさっき使っていたグローブを俺に渡してくる。

 おもちゃのグローブではなくちゃんとしたものだ。


「右利きだよね。前右で投げてたし」


 前……ネット越しにボールを投げたときか。よく見ているな。

 俺なら投げる姿なんていちいち気に留めないだろう。

 ましてや左利きでもなければ印象に残らないだろうし。


「そうですけど、よく覚えてましたね」


 いや、印象にないから左利き、と判断しか可能性もあるか。


「記憶力はいいんだ」


 得意げな先輩。

 可愛いからなんでもいいや。


「グローブ、大きさとか大丈夫?」


 言われて受け取ったグローブをはめてパクパクと少し動かす。

 大きさも可動域も問題なさそうだ。


「特に問題ないです。弘法筆を選ばずとも言いますしね」

「弘法にも筆の誤りはあるよ。それならよかった。じゃあお願いしていい?」

「はい。あ、自転車使います?」


 ポケットから自転車のカギを取り出して差し出す。

 ちなみに当の愛車は駐輪スペースに止めてある。


「え、いいの? じゃあ借りようかな。」

「どうぞ。サドルは好きに高さ変えてください」

「ありがと」


 そう言うと、先輩が手を差し出したのでその上に鍵を乗せる。


「じゃあ行ってくるね。悠、伊達君を困らせちゃだめだよ」

「うん。いってらっしゃい」

「お気を付けて」

「行ってきます」


 先輩が駐輪スペースに向かう後ろ姿を見送る。

 ぴょこぴょこと、キャップから出たポニーテールが揺れていた。

 ……冷静になると、なんか棚ぼた的にすごい休日になったな。


「どうしたの?」


 棒立ちしてたので悠君が不思議そうに俺を見る。


「傍から見たら夫婦っぽい、ってあるかなって」

「?」

「ごめん、なんでもないよ。キャッチボールしよっか」

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