2.5-3 閑話、少しのシリアスと大盛+α
「それで?」
お冷のコップをカラカラとしながら蕎麦を待っている里久が、視線を丼に落としたまま言った。
「それで、とは?」
「元気ないだろ。なんかあったのか?」
「元気ない奴は肉天丼食べない」
「俺は元気なくても肉天丼いけるぞ。大盛で」
「そりゃお前が規格外なだけだ」
「じゃなくて」
里久がコップを置き、氷がカシャンと音を立てる。
元気……ないように見えるだろうか。
「なあ――」
里久の目線が俺に戻される。
こういうときのこいつは、なかなかに鋭い。
「――腹いっぱいなら俺がもらおうか?」
そうでもなかった。
というか蕎麦待ちの癖にまだ食べるのか。
「蕎麦わい」
「あんなもん飲み物だ」
「カレーみたいに言うな。一応固形物なんだからしっかり噛みなさい」
この店の蕎麦はしっかり歯ごたえあるぞ。ざるなら尚更。
「大丈夫だよ、全然いける」
「ならいいけど」
ため息をついて答える。
それ以降は里久は何も言わなかった。
つまり、言いたかったら聞く、言いたくないなら聞かない、だ。
「……大したことじゃない。ただ……経験者なら一緒にやらないかって」
丼の中身はもう四分の一もない。腹にもまだ入る。
が、箸を持つ手が止まる。
「……話は?」
「してない。別に人に言うことでもないし。大げさなことでもないし」
「そうか。あんまり気になるなら俺から遠回しに言っておくぞ?」
「ありがとう、でもとりあえずは大丈夫だ。根掘り葉掘り聞いてくるタイプじゃなさそうだし」
さっき教室で話したときも、無理に踏み込んではこなかった。
加賀美先輩はきっと、そういう人だ。
「加賀美先輩と話す機会なくなるのも困るもんな」
ニヤニヤと里久が見てくる。
「そういう話はしてない。……まあ話せたら嬉しいけど」
「ひゅー」
「いつの時代のからかい方だよ……」
止めていた箸を再び丼の中に突っ込む。
「それに、男ならみんなそうだろ」
「俺は違う。なんせ俺は――」
「野球以外興味ないから」
「おい決め台詞をとるな」
「その程度が決め台詞になる時代はもう終わった」
そして豪快に肉天にかぶりついた。
美味い飯の前で、暗い話はなしだ。
「お待たせしました、ざるそばです」
丁度よく、店員さんがざるそばを運んでくる。
「ありがとうございます。丼お願いします」
里久がざるそばのお盆を受け取り、丼の乗ったお盆と入れ替える。
「おっほ~、来た来た蕎麦。……あっ」
目の前に置かれた蕎麦に手を叩いて喜んだ里久だったが、急に真顔になる。
なんだ?
「どうかしたか?」
「天ぷら……蕎麦いくなら残しておけば、よかった……っ」
里久は心底悔しそうに、心底くだらないことにうなだれた。
「頼めば?」
「いや、お前の財布にこれ以上負担はかけられない」
「奢んねーよ。もし奢る約束だったとしても大盛にした上に蕎麦いくの自体おかしいだろうが」
「冗談だ。まあ流石に俺の財布へのダメージもでかいからな、我慢する」
端のほうから蕎麦を持ち上げ、半分だけつゆにつけて啜る。
ズゾゾという音がなんとも美味そうに聞こえる。……いや流石に俺はもういらないけど。
「うんまい」
「よかったな」
「天ぷらがあればもっとな」
「まだ言ってる」
俺は自分の丼に目を落とす。
ほほぼ一口分のご飯と、大事にしていた肉天が二枚。
俺のこだわりの比率では、少し肉天が多い。
……まあ、いいか。
「……いるか?一枚。肉天」
「え? ……まじ?」
「まじ」
「腹いっぱいか?」
「まあ……そんなとこ」
「じゃあ遠慮なく」
一度肉天に向かて手を合わせ、一枚の肉天を持って行った。
そして肉天を一口かじる。
「うんっま」
恍惚の表情だった。
そして残りの半分を口に放り込み、急いで蕎麦を啜った。
「うん、うんうん」
もぐもぐしながら頷いている。
「お気に召したようで」
俺がそう言うと、ごくんと喉を鳴らして飲み込んだ。
「あれだな、美味いけど蕎麦と食べるなら海老か野菜天だよな」
「もう二度とお前には肉天やらん」
☆☆☆
会計を終え、少し賑やかになった店内を後にする。
仕事終わりのサラリーマンが増えてくる時間だ。
「んじゃまた明日」
「ああ、じゃあな」
里久とは言えの方向が違うので店の前で解散だ。
「にしても、意外と量あったな」
「そりゃ天丼大盛に蕎麦一人前はそうだろ」
「じゃなくて、尺」
「あん?」
「閑話なのに、結構あったなって」
「……」
たしかに2.5-3まで行くとは思わなかったよね。
……いや、お前が蕎麦いかなきゃよかったんだぞ。
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