第16話 電車を降りたあと
「とりあえずアウトレットモールでも行ってみるか?」
時間帯的にあまりノープランでぶらぶらしてられないだろうし、あそこなら駅から近いしな。
「……」
「もしもーし、氷高さーん。恥ずかしがってるところ悪いんですが、返答してもらえると助かるんですけどー?」
よほど寝てしまったことと寝顔を見られたのが恥ずかしかったらしく、電車を降りてから凪はずっとこの調子だ。
「だ、だって寝顔なんて余程のことがない限り見られないプライベート過ぎる部分じゃないですか」
「そういや寝顔を見るのはさすがに初めてだったか」
部屋には頻繁に来るけど、俺の部屋で寝たことは無かったし。
「その、寝言言ってたり涎垂らしてたり……変なところとか、ありませんでしたか?」
「至って普通の美少女の寝顔って感じで可愛いものだったぞ」
「か、かわっ……そ、そうですか……」
凪は口をもにょっとさせたかと思えば、今度は不服そうな目を向けてくる。
「どうした?」
「……いえ。なんかそこまで平然とされてるのがどうにも釈然としないというか」
「なんだ? お金でも払えばいいのか?」
「そういうことではなくて……っ! 起きた時もあそこまで至近距離で見つめ合うことになったのに……恥ずかしがってるのが私だけなのがなんとも言えない気持ちと言いますか……」
確かに、凪が起きた時、過去一で至近距離で目が合ったが。
そんなこと気にしてたのか。
俺は嘆息しつつ、
「俺が過剰に反応してたらそれこそ気まずくなるだろうが」
「それはそうかもしれませんが……」
「というか、別に何も思わなかったとは言ってないだろ?」
「え?」
「ほら、時間無いんだしもう行くぞー」
こんな話をする為にわざわざ隣県まで来たわけじゃない。
話を切って、アウトレットモールがある方向に歩き出すと、凪も慌てて付いてくる。
「……やっぱり海斗君って女の子慣れし過ぎじゃないですか?」
「そりゃお前、俺は昔から咲希の距離感に付き合って振り回されて生きてきたんだぞ? 女子に対する術くらい自然と身に付くに決まってるだろ」
あいつ、俺のことを家族の1人くらいに見てるから普段からめちゃくちゃ距離が近いし。
そのせいで俺はすっかり絆されちまったしどれだけ勘違いしそうになったことか。
いや、その距離感だったからこそ、自分が1番近しい異性だと思って油断かましてたんだけども。
……これ以上はやめておこう。虚しくなるだけだ。
「……それもそうですか」
「目が納得してねえんだよ。お前俺がその内女たらしになりそうとか思ってるだろ」
「……思ってませんし」
「嘘付け」
顔が全て語ってんだよ。
そもそも俺が女をたらすような人間なら真っ先にお前が距離置いてるだろうに。
「心配しなくても俺がこういう対応するのはお前と咲希くらいのもんだよ。失礼な」
わざとらしく怒った風な態度を取ると、凪がくすくすと笑い出す。
「すみません、冗談です。分かってますよ。ちょっとした意趣返しです」
「自分が恥ずかしい思いしたからってそういうことするのは性格悪いと思いまーす」
このくらいの小競り合いはいつものことで、お互いに冗談だと分かっている。
ラインが分かっている相手との空気感は、やっぱり心地良くて、寒さを忘れられた。
*
それから間も無くして、俺たちはアウトレットモールに辿り着いた。
規模だけなら俺たちの街のショッピングモールより大きい上、今日がクリスマスイブということもあって、夕方の時間帯でも人がかなり多い。
「ひとまず先に飯でも食うか?」
「私、まだお腹あまり空いてないです」
「なら、とりあえず見て周るか」
マップを見てどこを周るのか決めるわけでもなく、ノープラン。
俺はそこまでお洒落に敏感でもきっちり気を遣うタイプでもなく、特に欲しい物があるわけじゃないし、欲しい物が入って見つかれば買えばいい。
「それならクリスマスセール中ですし、ちょっと服を見たいです」
「了解」
反対に、凪は俺とは違って、お洒落とかしっかり気を遣うタイプなので、立ち並ぶ店を見る目がどこか輝いて見えた。
「人が多いからはぐれないようにな」
「はい。なんなら手でも繋ぎますか?」
「そういう男を勘違いさせるような冗談を言わないでもらっても? 意識しちゃいそうだから」
「めちゃくちゃ真顔じゃないですか」
そりゃからかうつもりなのが見え見えだからな。
分かってたら表情を取り繕うくらいは出来る。
「というか、私が何を言っても海斗君は絶対に勘違いしないって分かってるから海斗君にはこういう冗談を言うんですよ」
「信頼してもらっているようで恐悦至極の至りでございます」
恭しく頭を下げると、凪が肩を揺らして笑う。
こいつ意外と結構笑うんだよな。
まあ、こいつが楽しそうにしてくれるからこそ、こうして会話が弾むんだけど。
人によっては俺の態度って煽ってるように聞こえるだろうし。
「あ、そこのショップ気になるので寄ってもいいですか?」
「ああ、いいよ」
会話もそこそこに、俺たちは凪が指を差した店に足を向けた。
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