4日目 帝都ペアレス クエスト実行中 2
「まいったなぁ。図書館でも見つからなかったらどうしよう。」
ダカーは後にした史文館の入口で手帳を片手に鉛筆の背で頭を引っ掻く。
遠くに見える時計塔の指す時刻は14と15の丁度中間辺りであった。
「だいぶ時間食っちゃったよ。急ごう!」
「あのっ!」
歩を進めようとしたダカーを、顔を強張らせたイラが呼び止める。
「手分けして探すっていうのは大丈夫ですか?ちょっと、この街の知り合いに話を聞いて来ようかと思うんですけど。」
イラは気まずそうに頬を掻き、目を泳がせながら言葉を紡ぐ。
「それも一つの手かもしれないね。でも時間も限られてるから、急がないと。」
ダカーは、言葉を濁しながらゆっくりと答える。
「そんなに、時間はかからないと思います。ボク、ちょっと詳しそうなお爺ちゃんを知っていて、居場所もわかっているので聞いてくるだけですので。図書館で聞き込みしている間に済ませて、何処かで落ち合えるかと。」
イラの提案にダカーは悩みながら、ビーエの顔を見る。
ビーエはにっこり笑って、一度だけ言葉無しに深く頷いた。
「16の鐘が鳴る頃に、あの、低い方の時計塔の前で合流しましょう。古い方のです。」
イラは腕を上げると、その建物を指差した。
ダカーが周囲を見回すと、その指された反対側に、それよりもやや背が高い塔が立っている他、もう一本、それらとは離れた場所に、街中に高い塔が建っているのを目にする。
「あの塔ね。わかった。16の頃だね?」
ダカーが指差し確認をした先をイラも視認して、黙して頷く。
「ちょっと急いでいってきます。」
イラはダカーに背を向けて走り出す。
肩口の背負いカバンの紐をしっかりと掴んで固定して、走って中身が揺れるのを抑えながら勢いをつける。
「僕らも行こう。図書館はあっちだから。」
ダカーが視認できない距離まで、走って離れたイラは、ゆっくりと歩調を緩めていく。
あまり慣れていない
ふと、街道に並ぶ露天に並べられたそれに気づいて、駆け寄って足を止める。
「あの、この
「
露天の主の大柄の婦人が、紙袋を一枚取り上げ、広げる。
「甘くてそれでいて、酸っぱそうな所を、四つ、いや、五つかな。これと、これと、後、これとこれ。」
袋に指示通り詰め込まれていくのを確認すると、ポシェットから銀貨を一枚取り出すし、イラは店主にそれを差し出す。
「美味しい所を知ってるね、お嬢さん。旅の人っぽいけど、
「この時期に、この街にいると、よく食べるんです。知り合いに持っていって、残りは旅仲間と食べようかと。」
イラの顔をじっと見て、店主は銀貨を受け取ると、紙袋を広げて手近にあったそれをヒョイと持ち上げ紙袋に追加する。
「少し多いから、二つおまけだよ。またこの時期にここに買いに来ておくれ。」
ニッコリと笑って、口を畳んだ紙袋がイラに差し出される。
「ありがと、お姉さん。きっとまた買いに来るよ。」
その建物の前に立つと、イラはドアノッカーをつまみ、三度打ち鳴らす。しばらく待って、もう一度、反応を確かめるようにドアノッカーを三度打ち鳴らす。
ドアの向こうをガラスの小さな覗き窓から見ようと、イラが背伸びをした時、内鍵が開けられる音がする。
「イラちゃんだろ。何年ぶりかね。大きくなったなぁ。」
帽子を被り、モノクルをかけた白髭の好々爺が、ドアを開いて顔を見せる。
「久しぶり、おじいちゃん。あっ、これお土産。上がっても大丈夫?」
紙袋から
「待ってたんだよ。久しぶりに会えるってね。絵を見に来たんだろう?」
その言葉を聞いて、イラは大きく深い溜め息を漏らす。
「やっぱり、ここの絵の事だったんだね。」
イラがそれに確信が持てたのは、史文館で戴冠集合図のサウザンド帝の絵姿を見た時であった。
「来年の中頃には、ワシもここを出る事になってな。最後にイラちゃんに会えるかどうか、寂しさを感じていた所だった。そんな時に、この話が持ち上がっての。さっき知らせが来て、楽しみに待っておったのじゃよ。」
中は広く作られており、それでいて人が佇む事のできる空間は限られていた。
奥に上へと続く石造りの階段と手すりが見える。
「おじいちゃん、何処か具合が悪いの?」
誘われるままに階段を登り始めたイラが問う。
「どこもかしこも悪いが、それ以上にコレがそろそろ寿命でな。三本目が建っているのはもう見たろう?お役目はアレと孫に引き継ぎじゃよ。」
そういって、彼が笑う姿をイラは寂しげに見つめる。
「もうすぐ、15を鳴らす時間じゃからな。絵の前で座って少し待っていておくれ。お連れさんはもう先に来ているよ。」
階段を登りきった最上階には階下同様、大きな歯車がひしめき動いている。
そんな奥に、窓ガラスから差し込む光に照らされ、巨大な壁画がイラの目に飛び込んでくる。
その前に置かれたテーブルの上には、籠いっぱいの
その直ぐ側に、ラサワが直立不動に静かに佇んで、絵を眺めている。
丁度その時、耳を劈くような激しい鐘の音が、その空間に響き渡り、抱えた紙袋を床に降ろして身構えていたイラは奥歯を噛み締め両手で耳を塞いだ。
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