2.カディみたいに
「申し訳ございませんが、お連れの方は……」
カディがルルカに目をやると「そんな……」という声が聞こえてきた。
「こいつらは俺の部下だ。問題ないだろ?」
ルルカがえ?と顔を上げる。口裏を合わせればなんとかなるだろうと思ってカディは言ったが、直後にこんな言葉が聞こえてきた。
「あ、僕はいいよ。会議ってなんかつまんなそうだし。二人で行ってきなよ」
「お前はよ……」「部下……ですか?」
隊員の質問に答える気がなくなるくらい、スレッドの言葉はあんまりなものだった。
「僕は遊んでくるから、終わったらここに集まろう。それじゃあね。お水持って帰ってくるから」
「いらねぇよ。俺はシラフだ」
スレッドはその言葉を背に受けながら、人混みの中へ消えていった。
「えっ……とですね……その、お連れの方を会議に出席させるのはやはり……」
困った隊員は無自覚ながらも、部下ではなくお連れの方と口にした。カディの言葉を信用していないのだ。
「あいつはともかく、こいつは俺の護衛だ」
少しだけ意地になったカディは、より無理のある設定を口にした。
「護衛……ですか?」
「適合者は俺だ」
その嘘はルルカでさえ、せめて逆では?と思った。
言ってしまった手前黙っていたカディが、ほんんお少しだけ無茶だったか?と思い始めた瞬間……隊員の声が聞こえた。
「あの人の逆……そう考えれば」
今度は鼻で笑うと思いきや、隊員は一人で納得し「ご案内いたします」と背を向けた。
うっかり「いいの?」と言いそうになるのをこらえるルルカに、カディが「行くぞ」と促す。
「あの……ありがとう」
カディをどう判断していいかわからないルルカだったが、気持ちを汲んでくれたのは嬉しかった。
「お前は下を見た。次は上を見てみろ」
ルルカは頷き、一歩踏み出す。別々の動機でここに来た二人だが、今は同じ思いを抱いていた。
――ようやくSOのトップに会えると。
一人になったスレッドは、気ままに祭りを楽しんでいた。滅多に見られないカラフルな風景に、多くの店。初めて見るはずなのに、どこか懐かしさを感じている。普段以上に食べ、歩き、遊び回った。一通り堪能したところで、スレッドはベンチに腰を降ろす。
「うん。うまい。飴って感じだ」
口に運んだのは射的で当てたロリポップキャンディ。白とピンクの渦巻き状のデザインで、昔ながらの味なのだそうだ。
スレッドはもちろん、それを渡した店主でさえ何がどう昔なのかはわかっていない。しかしスレッドは、そのキャンディに惹かれた。
「会議はどうなってるかな……」
迎賓館のある方向へ目をやる。堅苦しい会議よりも祭りを選んだスレッドだったが、相棒が居ないのは少し物足りなかった。
「早く渡したいな。気に入ってくれるといいんだけど」
今度は射的で手に入れた景品に目をやる。そこには一本の水と、アヒルのおもちゃが入った袋があった。
「……一人って、意外とつまらないな」
スレッドが本音を漏らす。自分だけ「楽しい」を選んでも、意味はなかったのだ。
「待てやゴルァガキボケェ!!」
キャンディを噛み砕いていると、そんな声が聞こえてきた。見ると、食料を持った少年が店主に追いかけられていた。
「この腐れ盗人がぁ!! 鞭でボコたたきにして両手足の指の骨バッキバキに砕いて、毛という毛を燃やしてやるぁあ!!」
激怒している店員の声が、少年の足をより速くさせる。諦めて正直に謝ろうと最初は思っていたが、きっと許さないと悟ったのだ。
盗人という単語を聞いて、スレッドもようやく状況を察する。こっちに向かってきた少年を見て、スレッドは片手を上げた。
「ごくろう。おつかいは終わったみたいだな」
昔見たカディの姿を思い出しながら、スレッドは口にする。
「あぁあん!? なんだぁてめぇは!?」
その言葉に足を止めたのは、少年ではなく店主の方だった。
「俺は……スレッド。そいつの兄だ」
カディの再現になっていたことに気付き、スレッドは自分の名前を口にする。
「てめぇ! 弟に盗み働かせてんのかおい!」
「上等だ。かかってこい」
「あぁ!?」
雑にその時を再現した結果、微妙に会話が噛み合わなくなってしまった。「ごめん間違えた」と口にしたスレッドは、自分の言葉で続ける。
「おつかいだよ。でもお金が足りなかったみたいだ。その子は兄?である僕がめちゃくちゃ怖いからね。盗んででもおつかいをしたかったんだろうね」
「本当かてめぇ! だったら今すぐ代金を払いやがれぇ!!」
「もちろん。いくら?」「7860シェルだ」
スレッドは一万シェル紙幣を取り出すと、お釣りはいらないと口にした。店主もスレッドがあっさりお金を出したことで、一気に熱が冷めた。
「迷惑かけたね。弟にはキツく言っておくよ」
「お、おう」と返した店主は、怪訝そうな顔のまま去っていった。
「カディみたいにはいかないなぁ」
スレッドが振り向くと、さっきの少年がじっと見ていた。
「あれ? まだ居たの?」
「ど……どうして俺を?」
「目が合ったから?」
「喧嘩を売ってたの?」
少年は恐る恐る聞いたが、返ってきたのは割と辛辣な言葉と、良くわからない答えだった。
敗れた服に、カーテンか衣類か判別のつかない布を巻いている少年の名は『トーマ』アユリムの奥の方に住んでいる、身寄りのない子供だ。
「君はどうして盗みを? 一人で食べきれる量じゃないよね?」
少年を隣に座らせ、飴を渡すスレッドだったが、首を横に振られてしまった。
「チビ達に食わせてやるためだ。俺達は家族がいなくて、どこも雇ってくれないから」
「SOに頼ったら?」
「あいつらは駄目だ。俺達を目立たない場所に押し込むだけで、何もしてくれない。あいつらが守るのは、明るいところに居て、金のある奴らだけだ」
少年はりんごを掴むと、力強くかじった。明るく、治安が良く、SOの膝下であっても、格差は生まれる。
「ルルカが聞いたら落ち込むだろうなぁ」
「誰? その人」
「君は盗むのが好きなの?」
「好きなもんか! そうしなきゃ生きられないから俺は!」
「なるほど。君にとっては命がけのことなんだね」
声を荒らげる少年など意に介さず、スレッドは続ける。
「ならきっと、失敗しないための特訓や作戦などもしっかり立てて、捕まらないように最大限努力しているわけだ」
窃盗の善悪ではなく、ズレたところにこだわるスレッド。少年はよく分かっていなかったが、「お、おう」とだけ返した。
「その割には捕まりかけてたみたいだけど」
何が言いたいんだという言葉を飲み込みながら、トーマはりんごをかじる。「変わった人に助けられた」という状況は、「変な人に絡まれた」に変わっていた。
「行けると思ったんだ。俺の足がありゃ作戦なんか………」
「考えなしは駄目だよ。生きるのに必要なことなら、しっかり考えて、運の要素をなるべく減らしてやらなくちゃ」
盗みなんてよくないと言われたことはあったが、暗にそのやり方が甘いと言われたのは初めてだった。
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