光の雨
(行くぞ…!)
『Gyuaaaaaa!!』
「ハァァァァ!!」
急速に接近する富嶽へ向けて、咆える。
双方共に一歩も引かず数瞬後、俺のビームソードと富嶽のビームブレードが交わり強力な閃光が辺りを照らしだした。
「チッ!!」
だが鍔迫り合いになると紫電改二と富嶽ではパワーの差は歴然。俺は振るわれた腕に弾かれ後退を強いられてしまう。
距離を取った富嶽は続けざまに口腔部、肩部、胸部、オールレンジビットを同時に展開し、無数の光条を撃ち放ってきた。
数百の光条は光の雨となって俺を呑み込まんと迫り来るが…
「同時射撃なんかもう俺には通用しねぇぞ!」
GRSオフからの急速降下、さらにシールドを元居た場所に放置し爆発で機体の位置を誤魔化すと、下方からビットを狙い撃っていく。
「よし躱せた…全方位から射撃されなければ回避はそこまで難しくないな」
前回の俺の敗因はビットによって足を止められ、完全に射撃の嵐の中に取り残されたことだ。だが最初から火線に囲まれないよう動けば数百の同時射撃でも怖くない。
『Guaaaaaaaa!!!』
再びの同時射撃。それでもビットの数が少ない分余裕を持って回避し、お返しに粒子砲を富嶽本体へ叩き込む。
「…やっぱ一筋縄ではいかないよな」
しかし着弾した粒子は富嶽の装甲に弾かれ宙に霧散してしまい、有効打とはならなかった。
(となるとやはり、狙うべきは集積センサー群)
頭部に配置されたそれは、もちろん防護カバーで覆われてはいるだろうがこの機体のビームソードの出力なら貫ける。
……問題はあの光の雨を掻い潜り、富嶽に肉薄しなければならない事だ。
それに肉薄したとて射撃に加えてビームブレードとクローの攻撃にも晒され、最終的には距離を取られることが目に見えている。
だったら、距離を取らせないようにするのが先決だ。
《目標解析完了》
まず最初に飛行能力の破壊…背部ウイングの付け根を狙う。
「…行くか」
スラスター全開。一度すれ違えば誘導粒子砲は追ってこない上、ビットも残り3機なら後ろを気にする必要は殆ど無い。直線に向かえば一瞬で撃墜されるだろうが、俺は各部に取り付けられた小型スラスターを駆使し複雑な軌道で富嶽に急接近。
『Gyruaaaaaaaaa!!!!』
ビームブレードの間合いに入ると両側から挟み込むように富嶽の長い腕が振るわれる。それを冷静に見極め上方に回避、赤熱したクローによる追撃を粒子砲を犠牲に凌ぎ、俺は富嶽の上方へ。
HFが立てる程広い背中に存在する液体金属装甲に守られた巨大なウイングバインダーの付け根を、落下の勢いのままに斬りつけた。
俺のビームソードは液体金属もろともメインフレームを切断し、巨大な翼が富嶽から切り離される。
(よし、これで…!)
片翼を失った富嶽はスラスターで必死にバランスを取ろうとするが、すでに片側のGRSユニットは失われており、巨鳥は地に墜ちる。
『Gyuaaaaaa!!!』
巨鳥が墜ちた先、高さ数百mの教育棟が轟音と共に崩壊し、粉塵を巻き上がらせながら瓦礫の山と化した。その様子を遠目に眺め、俺は1人呟く。
「ひでぇ有様だな…」
だがこの程度では富嶽は行動不能にはならない。ビルの崩壊に巻き込まれたくらいで斃れる程奴は…
《高エネルギー反応あり》
「うおッ!?」
瞬間、紅い光条が巻き上がった粉塵を切り裂き、俺を掠めて空へと昇っていった。さらにディスプレイに映るのは、粉塵の中で煌々と輝く紅い単眼。やがて粉塵が晴れ姿が顕になると、片翼を失った巨鳥がこちらを睨み据えていた。
血の通わない機械のはずの富嶽、だが放たれる威圧感はNamedのそれに負けずとも劣らない、どこまでも冷たく、紅い威圧。
「ッ…」
俺は思わず息を呑み、ビームソードを構えて攻撃に備える。
状況はこちらが有利だ。しかし俺の心中にある不安感は消えず、一瞬部下達がここに居てくれたらと思ってしまった。
『…ハァ…隊長、ヒビキから飯山基地に向かうとは聞いていましたが、なぜ富嶽と一騎打ちなんかしてるんです?』
『教官、教官は部隊長なのに自分1人で強大な相手に挑むのはどうかと思います』
通信機から響くのは、レイ、そしてシノノメの声。
「…グッドタイミングだ、2人とも」
言われた内容から目を逸らしつつ、俺は2人へそう応えた。
************
『ぐあッ!?!?なんの…!!』
「おい、良い加減諦めろよ。降伏すりゃ命までは取らねぇって言ってるだろうが」
『ハッ、誰が貴様らなんかに降伏するかよ、戦争屋共が』
「民間人虐殺を働いた連中に言われたくはねぇな」
灰緑の敵機と交戦を開始して十数分、周囲の敵機はヒビキが引き受けてくれてるお陰で俺はコイツとの一騎打ちに専念している。
また通信から聞こえてくる情報では各戦場でこちら側が優位に立ち始めており、降伏する敵部隊も目立ち始めているらしい。早く隊長と合流したかった俺もコイツに降伏を促したんだが…まぁ断られた。
で、仕方なく戦闘を継続しているって訳だ。ヒビキも頑張ってる手前、さっさと終わらるか。
『リド隊長!どうすれば!がッ!』
『コイツ…なんでこんな…!グッ』
『これで7…後2機』
…ヒビキ、なんかめっちゃ強くなってねぇか?あれだけいた敵機が気付いたら残り2機まで減ってやがる。
動きを少し眺めていると、以前より思い切りが良くなり動きがかなり機敏になっているのが見て取れた。
(課題だった思い切りの悪さが改善されてる…なんかあったな)
『余所見してんじゃねぇぞ!!』
「おっと、人の成長を喜んでる時に来んじゃねぇよ」
切り掛かって来た敵機のビームソードを受け止め、空いた右手で高速衝撃砲を敵機に指向、左脚部を破壊した。
『なんの…!』
「もう良いっての、ボロボロじゃねぇか」
目の前で浮遊する敵機はそこら中の装甲に傷がつき、頭部は半壊、バックパックも損傷している。むしろよくここまで持ち堪えてると言うべきだろう。
『がはッ』
『これで9。レイ、終わったわよ』
ヒビキの方が先に終わったらしい。なら手伝ってもらうとするか。
「よしヒビキ、コイツさっさと片付けて隊長んとこ行くぞ」
『言われなくてもそのつもりよ』
ここからは、ハッキリ言って一方的な戦いだった。
俺とヒビキの連携攻撃でリドと名乗った灰緑の敵機は一瞬で達磨にされ、胴体だけになり地表へ落下していく。
『…ハァ…ハァ…あの方々の話は正しかったか…まさか本当に……』
気になる一言を残して、敵機は空中で爆発。踵を返し俺とヒビキは飯山基地へ向かうのだった。
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