恋と愛の色を見つける。
第13話 アディショナルタイムの中を生きる。
青山四葉と話した翌日。
白井一馬はいなかった。
学校でも見かけない。
気になって[今日は放課後くる?]と聞くと、[行けません。すみません]と帰ってきた。
休んでる?
私がまだ休んでいるのかと聞いたら、[はい。風邪を引きました]と来たので[お大事に]と返す。
悶々としたモノが自分の中にある。
青山四葉のせいで、この休みは命に関わるものなのではないかと気になる。
だが、無用な詮索はしたくない。
白井一馬も迷惑だろう。
それなのに心配が止まらない。
なんだこれ?
[彼女やご家族の人に甘えて早く治してね]
どうしても我慢できずに、放課後にこの一文を送る。
既読からの返信の遅さに最悪を考えてしまうが、暫くして[彼女って…、四葉ですか?いとこですよ。彼女じゃないです。家族とは離れて暮らしているので、1人で平気です]と入ってきた。
「はい?」
思わず声が出た。
待て、青山四葉が嘘をついていなければ、死の危険がある白井一馬は一人暮らしをしていて、風邪でも家族がいない。
[どこ住んでるの?]
[え?]
[お見舞い。行くよ。片付けとかお買い物をやってあげるよ]
既読からの停止。
どうしようもなく気になってしまい、[行っちゃダメならいいけど、一人暮らしなら甘えていいんだよ]と送り、しばらくすると住所が届いた。
最寄駅は志村坂上駅だった。
聞き出しておいて尻込みをした。
でも、青山四葉の言葉が本当なら、今も苦しんでいて、誤魔化している可能性もある。
しかも今日は金曜日。
住所も聞いておいて、今日を逃して月曜日を迎えたら、迎えてしまったら、白井一馬が通学してきてしまったら目も当てられない。
住所を送ってくれた白井一馬の為にも、私は意を決して志村坂上駅を目指した。
初めて降りた駅。
しかも無理矢理聞き出して降りたので、どこか後ろ暗いというか、堂々とするのが幅かれるような気がしてしまう。
コソコソと地上に上がり、駅近のドラッグストアでスポーツドリンクとお茶とゼリーなんかを買って、駅から10分もしない、ものすごく綺麗なマンションに到着した。
白井一馬はお金持ちなのか?
専門学生にはオシャレすぎて目が眩んでしまう。
私はそんな事を思いながら[着いたよ?開けてくれる?]と聞くと、ごく普通の、風邪の感じもない白井一馬が下まで迎えに来てくれた。
「こんにちは六木先輩。ありがとうございます」
「え?ううん。私こそ無理矢理聞いてごめん。でも…、風邪…」
白井一馬は少し儚げな顔のまま自嘲気味に笑うと、「上がってください」と言って私を部屋に入れてくれた。
・・・
ものすごく綺麗なマンション。
姉達が住んでいる部屋は築15年とか言っていた。アレと同じイメージでいたから、ピカピカの部屋には驚いた。
そして男の子の部屋は二葉に連れられて、高寺武史の家に上がった事もある。
だから余裕をかましていたし、散らかってるイメージもしていた。
だが、真逆だった。
何もなかった。
不動産サイトで見る部屋の写真にベッドと机があるだけのような…、ホテルのような部屋になっていた。
そして引っ越してきたてのように綺麗で、私の掃除は必要なかった。
「…掃除…必要ないね?」
「すみません」
謝る白井一馬に申し訳なさを感じて、「そんな事ないよ。お土産、食べて飲んでね」と言ってお茶とゼリーなんかを渡す。
「ありがとうございます」
「ううん。風邪じゃないのは驚いたけど、辛そうじゃなくて安心したよ」
私の言葉の後でシンとしてしまう。
外を走るバイクの音なんかが聞こえてきてしまう。
「コップ、出しますからお茶を一緒に飲んでください。夏だから六木先輩の買ってきてくれたものにしましょう」
白井一馬は言うなり回れ右をして、小さな棚からコップを出す。
普通のコップではなかった。
ひとつのコップには【一馬】と明朝体のステッカーが貼られていて、もうひとつのコップには【四葉】と貼られていた。
いとこにしては距離が近くないか?
白井一馬が部屋の隅から白いローテーブルを出してきてコップを置いてお茶を注ぐ。
四葉コップを受け取った私は、聞いてはいたが、それでも「彼女さん、キレない?」と聞きながら白井一馬の顔を見た。
「さっきも言いましたけど、四葉は彼女じゃないですよ」
呆れながら呟く白井一馬。
その顔は本当に迷惑そうな顔をしている。
なんかごめん。
そう思っているとため息をついてくる白井一馬。
「知ってるんですよね?さっきも言った通り、僕と四葉はいとこ同士ですよ」
驚いてお茶を吹きそうになりながら白井一馬を見る。
「一昨日、会ってたんですよね。あの電話の後ですよね?急に僕の体調を気にする。聞いたんですね」
悲しげな白井一馬の顔。
何も言えない中、白井一馬は「四葉の奴。俺は普通に学校に行きたいんだ。邪魔するな」と小さく漏らす。
そして次の瞬間、白い部屋、白い家具、名前の書かれたコップに注がれた茶色いお茶。
外から聞こえてくるバイクの音の中、白井一馬が真っ直ぐ私を見て口を開く。
「そうですよ。僕はもういつ死ぬかわからない。アディショナルタイムの中を生きています」
音が聞こえた気がした。
景色が歪む気がした。
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