現代知識無双を完全サポート!事前学習で異世界を変える!東京I.S.E.K.A.I.転生専門学院
明丸 丹一
序章 その日も『異世界』は彼を待っていた
東京I.S.E.K.A.I.転生専門学院・埼玉校舎は、一見すると古風な西洋の学び舎のように見える。
重厚なレンガ造りの外観は、遠くから眺めればまるで中世ヨーロッパの大学か修道院のようだ。赤茶けたレンガが幾重にも積み重ねられ、経年変化のような風合いがどこかノスタルジックな趣を漂わせている。その合間を縫うように、蔦がゆるやかに絡まり、ところどころに小さな花を咲かせている。屋根は尖塔のある洋風デザインで、瓦は深い青銅色に輝く。教室の窓はアーチ型になっており、ステンドグラスのような装飾は施されていないが、光を柔らかく取り入れるよう工夫されている。
だが、よく見るとその伝統的な建築スタイルの合間に、近未来的な要素が所々に顔を覗かせていた。校舎の外壁には最新のセンサーが埋め込まれ、窓枠には高性能ガラス――一見普通の窓に見えるが、外部の光量や温度を自動調整する仕組みが施されている。
そして学内にはまるで近未来SFのようなVR施設である異世界シミュレータの実習室がある。
大学受験に失敗したばかりで、将来が見えない。親には申し訳ないが、自分自身もどこか投げやりな気分だった。
そんなときに届いたこの招待状――「特待生として、異世界転生を目指しませんか?」
ハルトは――最初、悪質なジョークか詐欺だと思った。
(でも、実際にここまで来てしまった)
「異世界とは何も神話や空想の中にだけ存在するものではない。シミュレータ技術によって、限りなく現実に近い“仮想世界”を構築することは可能。そして、君たちはその中で実践的な経験を積み、未来を切り開く存在になるの」
仮想世界――AIの発達、VR技術、脳波コントロール。これらは既に高度に発展し、リアルに近い体験が可能だという。そしてこの学院では、「異世界ミッション」と称してその仮想世界で問題解決や革新を導く実習を行うのだ。
その日、ハルトに与えられたミッションはこうだ。
「突如現れた魔王が魔族や魔物を狂暴化させ、大戦争が巻き起こっている世界。その“魔王”の生態を調査し、戦争を終結へ導け」
〇
扉を開けると、そこには整然と並んだシミュレータブースが一面に広がっている。部屋の中央には通路が縦横に走り、その両脇にブースが整然と配置されている。ブースは一つ一つがシャワー室ほどの大きさで、半透明のパネルと金属フレームで構築されており、室内の光がわずかに漏れ出して近未来的な雰囲気を醸し出している。
(異世界が本当にあるのかどうか、それは分からない)
ブースの扉には細かいセンサーやロック機構が取り付けられ、生徒が入る際に自動で状態確認が行われる。外部からはブース内が見えない仕様になっており、扉の小さなディスプレイには「実習中」「待機中」などの状態が淡く光って表示される。
内部はもっと精密で、床一面には可動式の微細な銀色の玉が敷き詰められている。全方向対応のトレッドミルで、これによって生徒はVR内で自由に移動しても、現実の体はその場に留まることができる仕組みだ。足を踏み入れると、わずかな揺れと機械音が響くが、それもすぐに無音に変わる。
(それに俺に『特待生』としてのどんな才能があるのかも学院は教えてくれない)
中央にはサイバースーツを固定するためのアームが備え付けられており、VRの全身フィードバックシステムに繋がるコードが天井から垂れ下がっている。スーツに触れると、金属の冷たい感触と柔軟性が不思議な対比を生み、機械的でありながら人の動きを自然に追従するのが感じられる。
ブース内に入って視界が覆われると、暗闇の中にメインディスプレイが浮かび上がり、青白い光とともにシステム音声が流れる。
「異世界シミュレータ、起動準備完了。生徒ID確認中」
(でも今は仲間とともに、ミッションをやりとげること自体が楽しくなってきている。それでいいんじゃないか?)
画面には自分の名前とミッション内容が表示され、いよいよ別世界への没入感が高まっていく。
天井にはわずかに光るラインが走り、シミュレータの稼働状況に応じて色が変わる仕組みになっている。全ブースが稼働すると、天井のラインは淡い青や緑の光を帯び、実習室全体が仄かな光に包まれる。
さらに、教官用のモニタリングエリアが室内後方に設けられており、ここから教官は各生徒の進行状況やパフォーマンスを監視できる。壁面に設置された大型スクリーンには、VR内の生徒の行動がデータと共にリアルタイムで映し出され、遠隔操作によるフィードバックが可能だ。
教室全体に漂うのは、機械の稼働音と冷ややかな空気。生徒たちは皆、ブースに入り込み、異世界の『リアル』を体験する準備を進める。それは学びであり、同時に冒険の入り口でもある――この実習室は、生徒たちを現実から異世界へと送り出す、『次元の境界線』と言えるだろう。
「選ばれた理由なんて分からなくてもいい。仲間がいて、俺にできることがあるなら――それでいい」
そう思うハルトの胸には、確かな高揚感が広がっていた。
新たな異世界ミッションが、今、始まる――!
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