第7話 事実
「おー似合ってんじゃねーか!」
「全く勝手に連れ出すとは…」
とても嬉しそうにしてるケルトさんとは裏腹に勝手に連れ出した事に怒っているバク。だが、イリウスの新しい姿と嬉しそうにしているイリウスを見ると自然と微笑みが溢れてくる。
「随分綺麗にしたものだな」
「だろ?俺は世話くらいちゃんと出来んだよてめーと違ってな」
ケルトさんは勝ち誇りながらそう言う。
「だが、分かっているのか?イリウスも帰すと言うことを」
「…………」
ケルトさんは苦い顔で下を向く。イリウスは何の話をしているか分からないが、また不穏な流れになるのは嫌だったので喧嘩を止めようと2人の間に入る。それを見たケルトさんはイリウスの頭を撫でて微笑む。
「んなこと……分かってる」
時間が経つのも早くあっという間に夕食の時間。イリウスは相変わらず美味しそうにご飯を食べる。それを嬉しそうに眺めるケルトさんも相変わらずだ。
「さっきトラも言っていたがな、あんまり愛着を沸かせすぎない方が良い。別れが辛くなるぞ」
ケルトさんは黙る。少し考えた後口を開く。
「分かってますよ。でも、少しの間だけでも俺はこいつに色々してあげたいんですよ」
ケルトさんはやはり苦い顔をして言う。
(やはりケルトに任せたのは失敗だったか?だがまぁ、ケルトなら平気だろう)
夕食の時間も終わり、皿洗いやお風呂、洗濯を終わらせたケルトさんとトラさん。2人は家事を分担してやっているみたいだ。そのため、寝る時間も必然的に遅くなる。22時、ケルトさんはイリウスは寝ているかとイリウスの部屋の扉を開ける。
「ん?」
イリウスは椅子に座って本を読んでいた。机いっぱいに本を広げて文字の勉強をしていたみたいだ。
「こんな時間まで起きてちゃダメだろ?勉強は偉い事だがちゃんと寝ろ」
「ん!」
イリウスは少し眠そうに返事をしてベッドに着く。そこでケルトさんは提案する。
「一緒に寝ねーか?」
イリウスは少し驚いたが、すぐ笑顔になって喜ぶ。だがイリウスのベッドでは身体の大きさ的に明らかに入らない。なのでケルトさんは寝っ転がった状態のイリウスを抱っこして自室に連れて行く。ケルトさん用のベッドでも横に並ぶと狭いので必然的にケルトさんの上で寝ることになった。
「なぁ、イリウス」
ケルトさんは優しい声で、元気の無い声で聞く。
「お前はな、人間界から来たんだぜ。この世界とは別の世界だ。そんでよ、人間界の人間はこっちの世界に来ちゃ行けねーんだぜ。だからよぉ、俺よぉ……」
ケルトさんは長々と説明して少しためる。
「お前を帰さなきゃいけねーんだ。お別れしなきゃいけねーんだよ…」
イリウスの眠気は覚めた。自分が人間界に行くことよりケルトさんと離れてしまう事が寂しくて何も言えなかった。何も考えられなかった。でも、悲しそうにしているケルトさんを見て、イリウスは全力の笑顔でケルトさんを元気付ける。
「お前は…寂しくないのか?」
ケルトさんがそう言うとイリウスは首を横に振る。仕方がない事だと自分に言い聞かせる。そうして胸騒ぎが止まらない状態で眠りにつく。
朝が来た。清々しいとは言えない朝だ。昨夜はケルトさんと寝ていたはずだがイリウスが起きた時にはケルトさんは居ない。きっと家事をしに行っているんだろう。
イリウスは1人で起き上がり、1人で洗面台に行き顔を洗う。そして1人で昨日買ってもらった服に着替える。着替えてる途中、突然涙が溢れる。イリウスは苦しかった。少し肌寒い空気に触れながら余計に涙が溢れてくる。ケルトさんの温もりも、優しさも、離れてしまったらもう感じることは出来ない。そう思いながら涙を拭き取りリビングに行く。
「おう!おはよう、イリウ…ス?」
突然抱きついてきたイリウスに驚きつつもケルトさんは察して自分の心を落ち着かせる。そうして何かを思う。
「そろそろ飯だから席に座っててくれ」
そう言われて席に行く。
「おはようイリウス。昨夜はよく寝れたか?」
イリウスは首を縦に振る。
(そろそろかの〜)
「主、今日は会議があるのを忘れてませんよね?」
「もちろん、忘れるわけないであろう?」
バクとトラさんは話し込む。あっという間にケルトさんの朝食が完成し、食べる。美味しいが、やはり心はスッキリしない。温かさより心の冷たさを感じてしまう。そうしてご飯を完食したイリウス。皿洗いも終わってみんなが食卓に居る時、ケルトさんがみんなに言う。
「イリウスって本当に帰さなきゃ行けないんですかね」
「何をアホな事を言っている。人間界の人間は人間界に居るべきなんだ、そっちの方が幸せなんだ」
「でも、イリウスはそうは見えません。こいつはこっちに居た方が…」
バン!
バクは机を叩きケルトさんの意見を跳ね除ける。
「少し…疲れているのではないか?今日の家事は全部トラにやらせよう。お前は休んでおれ」
げ、俺?と言ったような顔をしたトラさんだがバクの言うことには逆らわないようにすぐ平常の顔に戻る。イリウスは殺伐とした空気に身を震わせるが、早めに部屋に戻る。
(仕方…ないもんね。だって、そうだもんね…)
イリウスはケルトさんの気持ちも、バクの気持ちも分かる。故に苦しいんだ。何も出来ない自分が、変えられない自分が。
???「これはまずいことになってきたの〜。それだけは避けんとならんな。どう手を打つか」
昼ご飯も食べ終わりイリウスが部屋で勉強をしている。イリウスがトイレに行こうと部屋を出た時、丁度外に行こうとしてるケルトさんを見つけてイリウスも行きたそうに目を輝かせる。
「ダメだぞ、今日は連れて行けねー。ちょっとした買い物だ。すぐ戻る」
そう言い残し外に行ってしまった。イリウスは思い出したかのようにトイレに行き、自室に戻る。その後、バクに話に行く。
「どうした?我に何か用か?」
イリウスは自分が帰りたくない旨を頑張って伝える。だがやはり良い答えは帰ってこない。
「それはダメなことなんだ。ルールにそぐわぬ。それに人間にはちと危ない世界だ。妖怪の件もあったであろう?我が教えたサバイバルの知識を人間界で奮った方がまだ安全だ。我が言うんだ、安心せい」
そんなこんなでイリウスが考え事をしていると、気付いた時にはケルトさんが帰ってきていて、気付いた時には日が沈んでいて、気付いた時には寝る時間だった。いつも一瞬に感じていた1日だが、今日は異様に長く感じた。もう寝ようとベッドに着いた時、ドアが開く。
「明日、ちょっと朝早くに出かけようぜ!起こしに来るからちゃんと起きろよ?」
それだけ言い残して自室に行ってしまった。
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