試練の果てに
遺跡の奥へと続く通路は、先へ進むほど狭くなり、足場は不安定になっていった。壁や天井に刻まれた古代の模様は複雑で、ところどころ崩れかけている。湿った空気が漂い、時折、天井から滴る水が音を立てて床に落ちた。
「足元に気をつけろ。滑るぞ」
アルドが警戒を促しながら、剣を手に慎重に進む。その後ろで、フルカが念動力を使って瓦礫を浮かせ、通路を整えていた。
「これ、結構楽しいかも!」
フルカは楽しそうに瓦礫を宙に浮かせたり回転させたりして遊び始めるが、アルドがすぐにたしなめる。
「遊ぶな!その瓦礫が落ちてきたらどうする!」
「大丈夫だって!ほら、見てて!」
フルカが笑顔で瓦礫を一箇所にまとめると、仲間たちは呆れつつも彼女の能力に感心した。
「ここ、罠がありそうね」
ミーナが足元を見つめながら呟いた。壁には古代文字が彫られており、何かを警告するように見える。
「これは……『選ばれし者のみが進むべし』って書いてあるわ」
リリアンナが壁の文字を読み上げると、ガロンが不機嫌そうにぼやいた。
「選ばれし者って誰のことだよ。俺たちはいつだって無理やり進んでる気がするぜ」
その直後、床が軽く震えた。一行が立ち止まり警戒する中、壁から小さな石が落ちてきた。
「何だ?地震か?」
アルドが剣を構え、辺りを見回す。しかし、振動は次第に大きくなり、通路の先から轟音が響いた。
「来るぞ!」
叫び声と共に、通路の奥から巨大な岩が転がってきた。一行は慌てて避けようとするが、岩の速度は思った以上に速い。
「任せて!」
フルカが念動力を駆使し、転がる岩を宙に浮かせた。だが、岩の重さに彼女は顔をしかめ、額に汗を浮かべながら力を込める。
「もうちょっと……よし!」
フルカが岩を横に押しのけると、それは壁にぶつかり、大きな音を立てて停止した。
「ふぅ、これで一件落着!」
フルカが胸を張ると、ガロンが苦笑しながら肩をすくめた。
「毎回お前がいなかったらどうなってたか考えたくもねえな」
ミーナが再び壁の文字を調べながら言った。
「どうやら、この先にはもっと危険な仕掛けが待っているみたい。慎重に進まないと……」
「慎重ねぇ……」
ガロンがぼやくと、アルドが振り返りながら一行を鼓舞した。
「だからこそ、ここを抜ければ俺たちの冒険は一段と価値のあるものになる。進むぞ!」
湿った通路の先に、わずかな光が見える。それが深部への道であることを確信した一行は、緊張感を抱えながらも歩みを止めなかった。
遺跡の深部に到達した一行の前に広がるのは、これまでの暗い通路とは一線を画する壮麗な光景だった。巨大なドーム状の部屋の中央に、不気味に輝く円形の装置が鎮座している。それは金属と石で構成されており、表面には複雑な紋様が刻まれていた。青白い光が脈打つように発せられ、部屋全体を照らしている。
「これが……メインコアか?」
アルドが剣を握り直しながら警戒の眼差しを向ける。装置の周囲には多数の古代文字が刻まれており、まるで封印が施されているようだった。
リリアンナがその場に跪き、文字を読み取ろうと集中する。「これは……『制御装置』と書かれているわ。どうやら、遺跡全体を管理しているもののようね」
「すごいじゃん!これ、動かせたら何か面白いことが起きそう!」
フルカが目を輝かせてコアに近づこうとするが、ミーナが素早く腕を掴んで止めた。
「フルカ!不用意に触らないで。何が起きるかわからないわ」
「でも、見てよこれ!」
フルカは念動力で宙に浮かんだ瓦礫を使ってコアに触れようと試みる。しかし、その瞬間、装置が強く輝き出し、低い振動音が室内に響き渡った。
「動いたぞ!おい、何をした!?」
ガロンが身構える中、コアの表面から光の柱が立ち上がり、部屋全体を包み込む。直後、空間にひび割れのようなものが現れ、そこから数体の機械的な魔法生物が姿を現した。
「これは……守護者?」
リリアンナが驚愕の表情を浮かべるが、アルドはすぐに剣を構えた。「どうやら交渉の余地はなさそうだな。戦うぞ!」
魔法生物は人型をしており、それぞれが鋭い刃のような腕を持っている。金属の体は青白く輝き、機械音を響かせながら一行に向かって突進してきた。
「私に任せて!」
フルカが翼を広げ、念動力で複数の瓦礫を飛ばして魔法生物を攻撃する。しかし、敵は敏捷で、瓦礫を軽々と避けながら反撃してきた。
「こいつら、動きが早い!」
アルドが剣を振るい、かろうじて敵の一体を弾き飛ばす。ミーナは呪文を詠唱し、火球を発生させて周囲を攻撃するが、相手の硬い外殻には大きなダメージを与えられない。
「全然効いてないじゃない!」
ミーナが焦りの声を上げる中、ガロンが盾で敵の一撃を受け止めながら叫んだ。「こいつら、どこかに弱点があるはずだ!探せ!」
フルカが空中を舞いながら観察し、コアと魔法生物の間にわずかな光の線が繋がっていることに気づく。「ねえ、あの光!あれが弱点かも!」
「よし、その線を断て!」
アルドが叫ぶと、フルカが念動力で鋭い瓦礫を浮かべ、光の線を狙い撃つ。一発で命中し、魔法生物の一体が動きを止め、地面に崩れ落ちた。
「いけるぞ!他の線も狙え!」
一行は連携を強め、次々と光の線を断ち切っていった。最後の一体が崩れ落ちると、メインコアは再び静寂を取り戻し、淡い光だけが部屋を照らし続けた。
「はぁ……何とか勝ったな」
ガロンが盾を下ろして息をつくと、ミーナも呪文を解いて深く息を吐いた。「でも、このコア……何かおかしいわ。まだ何か隠されている気がする」
フルカが興奮した様子でコアを指差した。「じゃあ、もっと調べよう!絶対すごい発見があるよ!」
アルドは慎重な声で告げる。「だが、この遺跡全体が俺たちを試しているようにも思える。次に進むかどうかは、慎重に考えないといけないな」
コアが意味するものは何か――一行は答えを求め、さらに深く考え始めた。
静寂を取り戻したはずの部屋に、突如として低い振動音が響き渡った。メインコアが青白い光を強め、中心部から再び何かが現れ始める。一行は緊張感を漂わせながら身構えた。
「まだ終わっていないのか……?」
アルドが剣を握り直し、警戒の目を向ける。光の中から現れたのは、先ほどの魔法生物とは明らかに異なる存在だった。巨大な体躯を持ち、四本の腕には鋭い刃や槍のような武器が備えられている。動くたびに金属が擦れる音を響かせ、その姿は圧倒的な威圧感を放っていた。
「なんだこいつ……!」
ガロンが盾を構えながら呟く。敵はまるで遺跡そのものを守る番人のようだった。
「この光……あのコアと繋がってる!」
ミーナが敵の足元を指差すと、確かにメインコアから光の線が伸びているのが見えた。敵の動きはゆっくりだが、その一歩一歩が大地を揺るがすように重い。
「つまり、あれを倒すにはコアも無力化しないといけないってことか!」
アルドが剣を掲げて叫ぶと、フルカが翼を広げて空中へと飛び上がった。
「じゃあ、私がコアを狙うね!みんな、敵を引きつけて!」
彼女の無邪気な声に仲間たちは一瞬顔を見合わせたが、すぐに頷いた。
「任せろ!」
ガロンが敵の真正面に立ち、盾を構えて挑発する。「ほら来いよ!その大きな体でどれだけ動けるか試してやる!」
巨大な番人はガロンに狙いを定め、四本の腕を大きく振り下ろした。その力強い一撃を、ガロンは盾で受け止める。凄まじい衝撃が走り、足元の床が砕け散るが、彼は一歩も退かなかった。
「思ったよりタフじゃねえか……!」
ガロンが歯を食いしばりながら耐えると、ミーナがその隙を突いて呪文を唱えた。
「火炎の嵐よ、目の前の敵を焼き尽くせ!」
火球が敵の背後に命中し、爆発音とともに炎が舞い上がる。しかし、敵の金属の外殻はわずかに焦げただけで、ほとんどダメージを受けていないようだった。
「こんなものじゃ効かないのか……!」
ミーナが驚きの声を上げる中、アルドが横から駆け寄り、剣を敵の関節部分に叩き込んだ。
「硬いが、関節は少し柔らかいぞ!狙いどころを絞れ!」
アルドの声に、ミーナとガロンも次々に攻撃を集中させる。
一方、フルカは空中からメインコアを睨みつけていた。「よし、ここだ!」
念動力で瓦礫を浮かせ、勢いよくコアに叩きつける。しかし、コアを覆う光の膜がそれを弾き返した。
「くぅ、簡単にはいかないね!」
フルカが次々と攻撃を繰り出すが、コアはびくともしない。ふと彼女の目に入ったのは、コアに直接繋がる光の線だった。
「これだ!」
フルカは翼を大きく羽ばたかせ、空中で急旋回しながらその光を狙う。念動力で浮かべた鋭い瓦礫を使い、一気に切り裂いた。光の線が途切れた瞬間、敵の動きがわずかに鈍くなった。
「効いてるぞ!もっと光の線を切れ!」
アルドが叫び、フルカはさらに集中して攻撃を続ける。敵は必死に動こうとするが、徐々に力を失い始めた。
最後の光の線を断ち切ると、巨大な番人は激しい振動とともに崩れ落ち、完全に動きを止めた。
「やった……!」
ミーナがほっとしたように呟く。ガロンも盾を地面に下ろし、重い息をついた。
「これで終わりだな……いや、そうであってくれ」
アルドが剣を収めると、フルカが空中で一回転して着地した。「ねえ、私、結構頑張ったでしょ?」
「確かにな……でも、次は少しおとなしくしてくれ」
アルドが苦笑しながら言うと、フルカは満面の笑みを浮かべた。
メインコアは再び静寂を取り戻し、青白い光が弱々しく点滅しているだけだった。一行は疲れた体を引きずりながら、次の行動を考え始めた。遺跡の深部での戦いは終わったが、この先に待つものが何か――それはまだ誰にもわからなかった。
静寂が訪れた遺跡の深部。一行はその場に腰を下ろし、互いの顔を見渡した。緊張が解けた瞬間、ガロンが大きくため息をつく。
「はぁ……やっと終わったな。正直、命がいくつあっても足りねえぞ」
盾を膝に置きながら、苦笑いを浮かべる。
「でも、これで遺跡も静かになるはずよ」
ミーナが呟きながら魔法書を閉じた。その目には疲れが残るものの、達成感が滲んでいる。
「みんなのおかげで勝てたね!」
フルカが笑顔で言いながら、翼を軽く羽ばたかせる。彼女の無邪気な声に、アルドが苦笑いを浮かべる。
「お前がもう少し無茶しなければ、もっと楽だったかもしれないがな」
それでも、彼の表情には仲間への信頼が見え隠れしていた。
フルカは悪びれた様子もなく、空を指差して言った。
「でもほら!私たちが協力したから、勝てたんだよね!これって、すごくない?」
「まあ、否定はしないさ」
アルドが微かに微笑み、肩をすくめる。
「しかし……」
ミーナが目を閉じ、ふっと息を吐く。「これが私たちの限界だったら、次はもっと大きな危険が待っているかもしれないわ」
その言葉に、一瞬の静寂が漂う。しかし、フルカがすぐに声を上げた。
「それならまた頑張ればいいんじゃない?だって、私たち、すごく強いじゃん!」
その無邪気な自信に、全員が吹き出した。
「まあ、お前がそう言うなら、そうなのかもな」
ガロンが大きな手でフルカの頭を軽く撫でた。
全員が笑い合う中、遺跡の静寂は確かに戻っていた。危機は終わり、一行の絆はさらに強まった。彼らの目には、次なる冒険への期待とともに、わずかな安堵が浮かんでいた。
遺跡の外に出ると、夜空が広がり、星々が鮮やかに輝いていた。澄み切った空気を吸い込みながら、一行は深い達成感に包まれる。
「星がこんなに綺麗に見えるなんて、ちょっと得した気分だね!」
フルカが翼を広げて軽く宙に浮きながら、無邪気な笑顔を見せた。
「お前は本当に何があっても元気だな」
アルドが苦笑しつつも、どこか満足げに呟く。
「でも、この星空を見たら、また次も頑張れそうな気がするわね」
ミーナが柔らかな微笑みを浮かべて言うと、ガロンが大きく伸びをしながら応じた。
「次はもう少し楽な冒険だといいけどな」
フルカは振り返り、勢いよく拳を握りしめた。
「楽しいかどうかが大事でしょ!さあ、次の冒険も最高のものにしようよ!」
その言葉に全員が笑い、ギルドへの帰還を決意する。輝く星空の下、一行の影は新たな冒険への期待を映し出しながら進んでいった――。
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