lana

第1話

かわいいね。頭いいね。髪綺麗だね。


 聞き飽きたって。


運動神経いいね。大人しいね。成績優秀だね。


 誰だよそいつ。


「ありがとう...。」

私の本心とは裏腹に勝手に動く私の唇。


 虚しいな。


中学生の思い出なんて何もない。

休み時間は背筋を伸ばし本を開く。必要以上に人と関わらない。ただそれだけ。

体育の時間ではそれなりに活躍し、体育祭ではリレーも務めた。委員会だって副委員長だったし、成績だって4と5の数字しか見たことないし、何回か表彰されたりもする。誰とでも笑顔で平等に接して、悪口なんて言わない。最低限の清潔感だってあるし、そこそこ顔も整ってるほうだし...。ルッキズムの風潮が深化しつつある今の世の中でもまあまあモテるほうで、クラスでも評判がよく憧れられる。


でも、なんでだろう。何でこんなに虚しいのかな。


将来の夢も、希望もない。普通に大学まで行って、普通に就職して、普通に生きられるなら何でもいい。

大人たちは口をそろえて「あなたならきっとどこででもうまくやれる。」

とかいうけど、そんなの私が一番よくわかってる。

別にいじめられてるわけでもないし、特に大きいトラブルや問題があるわけでもない。ただただ虚しいのだ。

大して仲良くもない人に悩み事を打ち明けられて、笑顔で話を聞く。

きっとあなたの目に映る私は清楚で美人で優しくて何でもできる「私」。

それを理解して生きるのがこんなにも虚しいことなんだ。

当たり障りのない回答でも相手は満足する。

これが人生イージーゲームってやつ?こんな私が本当に羨ましがられるべき人間?

今この教室で急に私がクラスメイトを罵り、世の中への不満を叫んだら、少しは私の人生も中身のあるものになるのかな。馬鹿みたいにくだらないことで笑いあえる友人が手に入るのかな。もっと子供っぽく後先考えずに行動したら私の人生はどんな風に変わるのかな。

周りから褒められ度に思い知らされる表面の私。内側にいる私はいつも拒否反応を起こしていることは誰も知らない。


家に帰ってきて、鞄を置いて、制服を脱ぐ。ここからが本当の私。クラスメイト達が知ることもない本当の私。勢いよくソファに転がって、流れるようにテレビをつけ、同時にスマホも開く。玄関のほうを見る。散らかった靴と脱ぎ捨てられた服。物で溢れ散乱した机からメイク落としを探り、顔にこすりつける。そして鏡に目を向ける。


「誰だよ(笑)」


自分でも笑えてくるほどの別人。もはやクラスメイト達に見せてやりたいとまで思

う。


「そんなに自分を偽って疲れないの?」

SNSで流れてきたどっかの誰かがなんか言ってる。


じゃあ何。明日みんなの前でみんなに羨ましがられる人気者は実はこんなに自堕落で性格も悪いんです。そんなことにも気づかないで慕ってくるとか滑稽だわ。友達だと思てんのはお前だけだよ。私生活が気になるって?教えてやろうか全部。どうせみんな離れていくのが落ちだけど(笑)。って言えばいいの?そしたらこの虚しさも何とかなる?


たまたま流れてきただけの、どこの誰かもわかんない奴の言葉にこんなに動揺している自分に嫌気がさす。


全部わかってるから何も言わないんじゃん...。


溢れ出る言葉たち。私は一体何と戦っているのだろうか。


もう考えるのさえ億劫になってきた。気づいたころには卒業式。何の思い出もない。

本当の私を知っている人もいない。周りにいる子たちが次々と流す涙に気持ち悪ささえ覚える。私の目からは何も出てこない。

卒業しても仲良くしてね。

やはり私の唇はよくできている。どうせもう二度と会わない。内側の私はそんなことを思ってるのに。


何人かの男子が私に近づいてくる。なんとなく察しはつく。顔を真っ赤にした数人の男子たちはうんざりするようなお決まりの言葉を私に放つ。

ずっと前から好きでした。一目惚れでした。君の優しさが...etc

中でも一番腹が立ったのは「君のすべてが好きだ。」


お前は私の何を知ってんだ?そんな黒くて禍々しい感情が沸々と内側で渦を巻いている。全てをさらけ出さなかった私が悪い。でも自分の悪いところをアピールする奴がどこにいるんだよ。誰だって少しは自分を繕うだろ。


私だってみんなのように普通に恋をしたい。でもこんな私とうまくいくわけもないから全員断った。そんな私の態度をよく思わない奴は少なからずいただろう。今も周りの視線が痛い。だからこそ余計に、本当の自分を出すわけにはいかない。ばれてしまったら、奴らの餌食になる未来が容易に想像できる。


高校ではもっとうまくやれるはず。


きっと大丈夫。

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