桜屋橋アートクラブの青春グラフィティ 学年一の美少女に誘われて同人誌をつくることになりました
白鷺雨月
第1話 山崎綾香は隠さない
僕の名は田城翔太という。大阪府立友之浦高校に通う二年生だ。
身長は百七十センチメートルちょうだ。体重は六十五キログラムで、視力はいいほうで眼鏡はかけていない。
同級生の眼鏡女子藤井智尋にはうらやましいといつも言われる。
得意科目は世界史と日本史、それと古典だ。苦手なのは数学と物理で自分では文系だと思っている。進路希望も私立文系と提出してある。
趣味はアニメを見たり、ゲームをしたり、ライトノベルや漫画を読んだりすること。いわゆるオタクである。
この年、ノストラダムスの大予言から生き延びた2000年に僕は山崎綾香に出会った。出会ったというのはあまりに一方的か。
四月はじめのホームルームの自己紹介で、僕は初めて山崎綾香という女子生徒を認識した。
教壇の横で腰に手をあて、山崎綾香は教室中を見渡す。
それまでの生徒はあきらかにおざなりな自己紹介を繰り広げた。かくいう僕も文芸部所属の田城翔太ですと名乗っただけで終わらせた。他のクラスメイトも似たりよったりであった。
ただ最後の山崎綾香だけが違った。
彼女だけが特異であり、異質であった。
一通り教室をみわたすと山崎綾香はその端正な顔に不敵な笑みを浮かべる。
その姿はまるで舞台女優だ。どこかの歌劇団の女優を連想させられる。
山崎綾香は背が高い。僕の目測では百七十五センチメートルはあると思われる。手足が長く、すらりとしたスタイルだ。明るめの黒髪を山崎綾香はかきあげる。
そのしぐさも様になっている。
白くて長い足を肩幅まで広げる。形のいい顎をくっとひく。
「私は山崎綾香だ。身長は百七十五センチメートル。スリーサイズはバスト八十九、ウエスト六十六、ヒップ八十八だ。生粋のオタクで将来の夢は漫画家だ。それ以外は考えていない。考えるつもりもない。二年C組の諸君、これから一年よろしく頼む」
軽く会釈し、再び教室の皆を見渡す。
教室にいる生徒一人一人の反応を山崎綾香は楽しんでいるように僕には見えた。
満足したようににこりと微笑む。
そのきれいな笑みに僕はおもわず意識を奪われた。
これが僕が最初に知った山崎綾香伝説の一つであった。
彼女のスリーサイズを聞いた男子生徒は分かりやすくざわついた。僕も山崎って見た目以上に胸があるんだなと思った。脳内が勝手に自動的にエッチな妄想をつくりあげてしまう。
女子生徒からは奇異と嫉妬、それに驚嘆が入り混じったざわつきが聞こえる。
かつかつかつとローファーの足音をたて、山崎綾香は席にもどる。
それにしても山崎綾香はたいした勇気の持ち主だ。
当時まだまだオタクであるということは隠さなくてはいけないことであった。
僕も文芸部に所属しているが好きな作家はときかれたら筒井康隆と答えるようにしていた。本当は水野良や神坂一が大好きなのだが、それは本当に気がしれた人にだけ言っていた。
オタクであるということを公言するのはデメリットでしかなかった。世間はオタクを犯罪者予備軍として認識していたからだ。
エヴァンゲリオンやマジックナイトレイアースが社会現象になるほどヒットしてもオタクが市民権を得るにはいたらなかった。
オタクばれは出来うることなら避けるべき事案であったのは間違いない。
それをあっさりとしかも軽々と山崎綾香はその壁を越えてみせた。
今もどや顔で彼女は席に腰かけている。
いわゆる碇ゲンドウのポーズで山崎綾香は真正面を向いていた。
山崎綾香こそは勇者であると僕は確信した。
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