第294話 ロスティアはアルフを気にかけている
「ムゥ先生、少し話したいことがあるのですが、良いですか?」
いつもの校庭での授業後、私はロスティアに呼び止められた。
何やら話したいことがあるらしく、しかもクラスメイトの方をチラチラと見ている。
あまり聞かれたくない話かと思い、校舎の方に備え付けられたベンチを指差した。
「あっち、聞く」
「っ! はいっ! ありがとうございます!」
最初の方こそ、かつての学友……いや、嫌がらせをしてきた相手であるクローディアを思い出してしまい、やや苦手意識のあったロスティア。
高笑いや縦ロールなど、いかにも名家のお嬢様という感じで、しかも気の強いところもあった。
しかし、その心の内がとても仲間思いなことを、私は知っている。
ひょっとしたらクローディアもそうだったのかな? なんて思ったけど、そんな筈はないと小さく笑った。
二人でベンチに移動して、そこに腰掛ける。
私のクラスの生徒が校舎へと戻っていくのを見届けてから、私は問いかけた。
「それで、話?」
「はい……アルフさんの件なのですが……」
そこまで話してから、ロスティアは言いにくそうに言葉を詰まらせた。
私の方をチラチラと見て、そして伺うように続ける。
「ムゥ先生はその……アルフさんについては詳しくご存知なのですよね? 彼女が実力を隠していることも」
「…………」
無言だったけれど、内心では感心していた。
アルフとロスティアはどちらも同じクラスだけど、きっとロスティア以外にアルフの真の実力に気づいている子は居ない筈。
なかなかの観察眼だ、と思いつつ、聞き返した。
「どうして、そう思う?」
「なんとなくです……クラスメイトの皆さんのことはよく知っておきたいというのもあり、アルフさんを観察していたのですが……」
「なるほど」
ロスティアは集団の長に向いていて、各々のメンバーをよく見ている。
その延長線上でアルフのことも観察していて気づいたということか。
いや、というよりも。
「アタクシは……アルフさんも皆と仲良くして欲しいのです。ですがアルフさんはそれを望んでいませんし、今のままでも大きな問題が起こっているわけではありません」
クラスの和を重視するロスティアにとって、アルフは気にかけるべき存在ということだろう。
けれどその一方で、ロスティアはアルフのことも考えている。
強要するのは良くないと感じているし、彼女の言う通り、今のままでも大きな問題はない。
「ん。強要、良くない。ロスティア、アルフ、気持ち、考える」
「やっぱりそうですわよね。モヤモヤしますが……きっとアルフさんが実力を隠しているのにも何か理由があるのでしょうし……教えては……いえ、アルフさんの居ないところでこっそり聞くのはよくありませんわね」
「ん。そう」
まだ若いのに、ロスティアはよく考えている。
人を思いやる心もあり、かつてのクローディアに見習わせたいくらいだ。
いや、そもそもクローディアと比べること自体がロスティアに失礼だろう。
悩める少女であるロスティアの気持ちを、良い先生である私は汲み取る。
そして何度か頷いて、助言を与えることにした。
「基本、今のまま、良いと思う。その上、何かしたい……アルフ、気にかける」
「アタクシが……?」
「うん、ロスティア、だけ」
まだアルフがクラスで打ち解けるには早いと思える。
けれど同じクラスにロスティアという生徒が居ることは、アルフにとっては良いことだと私は考えた。
ロスティアが気にかけるだけでも、アルフの中の何かが変わるかもしれない。
今はまだ難しいかもしれないけれど、そのうちマリアとエイヤのような……あそこまでは仲良くならないと思うけど、それなりの友人になれるのではないだろうか。
それを伝えると、ロスティアは拳を自分の胸に持ってきて、小さく何かを呟いた。
「アタクシが気にかけるのは間違ってなかったのですね。……分かりました。やり過ぎないように意識しつつ、今後も取り組んでみますわ」
「ん、それがいい」
魔法の実力を伸ばすことよりも、人の心に寄り添ったり理解するのは難しいと私は思う。
なんたって、あのエンデーですら苦戦しているのを何度も見ているからだ。
まあそれでも、エンデーは最終的になんとかしちゃうのだが。
「あの、ムゥ先生」
「ん?」
エンデーのことを考えていると、ロスティアに名前を呼ばれた。
そちらに意識を移すと、彼女はまっすぐとした目で私を見ていて。
「あたくしと本気のアルフさん、どちらが強いですか? 遠慮せず、正直にお答えになってください」
「アルフ」
言われた通りに正直に答えるとロスティアは一瞬目を見開いたが、すぐに『ああ、やっぱり』という顔をした。
その表情は、憑き物が落ちて清々しさを感じているようにも見えた。
「あたくしの思った通りですわね、やはりアルフさんは……ありがとうございました、ムゥ先生。話を聞いて頂き、少し肩の荷が降りましたわ」
「ん。このくらいなら、いつでも」
「ふふっ、ではアタクシはこれで」
ベンチから立ち上がったロスティアは校舎に向かって優雅に歩き去っていく。
小さくなっていく銀髪の後ろ姿を見つめながら、頭の中に緑髪の少女も思い浮かべた。
「エンデー、同じ、できない」
彼と同じように、アルフの抱えている問題をカッコよくは解決できないだろう。
でも、ロスティアという友人を得て、アルフの孤独を少しでも和らげることはできる。
それだけでも、アルフはスカイグラス学園に来て良かった、と思ってくれるだろうか。
「生徒、背中、押す。それも、教師、役目」
校舎を見上げて、3階の、校長室の方を見る。
だよね? と問いかけたものの、当然そこにはエンデーは居ないし、返事も返ってくる筈もない。
けれど『分かってんじゃねえか』という彼の声が、聞こえた気がした。
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