第280話 そして、また新たな生徒が学園を訪れる
シエラが旅立った翌日、俺とイヴは応接室でティルファを待っていた。
手元の資料を見るに、特に大きな問題点はない。
あのリースが推薦するくらいだから大丈夫だろう、というのは俺とイヴの共通認識だ。
「失礼します」
ノックの音が響き、扉が開く。
声と共に入ってきたのは、以前一度だけ会った少女。
その時よりも少し成長しているようだが、凛々しい表情や雰囲気は相変わらずだ。
名を、ティルファ・アルメジア。
聖騎士に属しつつ、準聖女でもある、つまりは剣と聖魔法を使いこなす逸材だ。
椅子の横に立ったティルファに座るように伝えれば、優雅に腰掛ける。
相変わらず、女性から黄色い声援が飛びそうだなと、空色の髪の少女を見ながら思った。
「久しぶりだな。聖騎士としての活躍も、準聖女としての活躍も聞いてるぞ」
「お久しぶりですエンディ様、イヴ様……ありがとうございます」
どうやらリースの影響で「様」呼びらしい。
そういえばアーセラス出身の生徒は結構かしこまった奴らが多いな、なんて思い出した。
「話はリースから聞いているし、まあ合格なんだが……配属はイヴの教室でいいよな?」
「はい、イヴ様は剣も魔法も超人の領域にいらっしゃる方、そんなイヴ様の教えを賜われること、とても嬉しく思います。よろしくお願いします、イヴ様」
「ええ、よろしくねティルファ。リースが目をかけるだけあって優秀ね。それに真面目で穏やか。これから授業が楽しみだわ」
「……ありがとうございます」
やや返答がぎこちないものの、緊張しているだけだろう。
その緊張を少しでも和らげようと、会話を広げることにした。
「聖魔法と剣が得意とのことだが、授業ではどっちを伸ばしたい? イヴはどっちもできるが……」
「……やはり剣でしょうか」
「だよなぁ。ただティルファのような剣と大杖を持つ戦い方は流石にイヴも初めてなんだ。互いに何度も言葉を交わして、情報交換してくれ」
俺の言葉に、イヴもティルファも背筋を伸ばした。
「はい」
「はい、分かりました!」
どっちもめちゃくちゃ真面目じゃん、と思ったものの、この二人に関しては問題なさそうだと結論づける。
ティルファはどこまで強くなるか、これからが楽しみだった。
「よし、最後の質問だ。ティルファ・アルメジア、お前はなんのために強くなる?」
お決まりの最後の質問をティルファに投げかける。
すぐに答えが返ってくるかと思いきや、ティルファは唾を飲み込んで、少し溜めた後に答えた。
「魔物を倒し、人々を守るために。私は幸運にも剣技と聖魔法に恵まれました。これらを用いてアーセラスの人々のみならず、少しでも多くの人の力になれればと」
言葉を聞いて、思った通りのタイプだと判断。
あのリースが推薦するんだから、崇高な理念の持ち主だとは思っていた。
「ああ、お前が力をつけてアーセラスで活躍した話を聞く日を、楽しみにしている」
「ありがとうございます!」
元気の良い返事を聞いて微笑んだ俺は、手元の紙に視線を落とした。
『ティルファさんは、何かに悩んでいるように思えます。しかしわたしでは分かりませんでした。学園で、何かきっかけに巡り会えることを祈ります』
リースの手紙から引っ張ってきた文言の答えは、当然この段階で分かるはずもなかった。
ティルファの面接から時間を少し空けて夕暮れ時。
同じ応接室で人を待つが、今回はムゥも参加している。
この後も生徒の面接は続くが、大物、という意味では次で最後。
「いよいよですね……」
「ああ」
イヴの声に返すと同時、玄関口が開く音が聞こえた。
少し待ってみれば、応接室の扉を叩く音が響く。
それに答えれば、扉が開いて面接を受ける生徒が入ってきた。
「失礼します」
入ってきたのはマルク・マギカでは一般的な魔導服に身を包んだ深緑の髪の少女。
背中までの髪で、ふわふわと波打っている。瞳の色は琥珀色で、やや冷たい印象を受けた。
いや、冷たい印象を受けたのは変化の少ない表情のせいもあるだろう。
印象としては図書室で大人しくしている文学少女、という感じか。
「ああ、座ってくれ」
椅子の横に立った少女に声をかけると、彼女は小さく一礼して席に着く。
それを見届けて、手元の紙に視線を落とした。
「アルフ・パーロットだな? 今日はよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
受け答えは問題ない。
それに書類に目を通せば書いてあることも、彼女自身の事は問題がない。
「紫娘……ウェンディから手紙のやり取りで話は聞いている。事前に教えられた情報からお前は合格だし、学園として、お前に関することを他の生徒に決して口外はしない。そこは安心してくれ」
「……はい」
アルフは椅子に座って膝の腕で握りしめていた拳の力を弱めた。
少し難しい生徒だ。他の生徒よりも慎重に扱う必要がある。
それを再び自分に言い聞かせて、俺はムゥを一瞥した。
「事前にウェンディから聞いているかもしれないが、こっちのムゥの教室に配属する予定だ。いいよな?」
「はい、ムゥ先生についてはよく聞かされています。マルク・マギカ出身であり、スカイグラス学園最強の魔法使い、魔塔の元教授でもある。そんな方に教えて頂けて、光栄です」
「ん、一緒に、頑張る」
ムゥの言葉に、アルフは小さく頭を下げた。
ウェンディやレヴィさんのことだし、学園のことを詳しく説明してくれているだろう。
他の生徒に比べて、他者の推薦で来てくれる生徒は説明の手間が省けて楽だから良い。
「念のため本人にも聞くんだが、得意魔法の属性は?」
「……闇と……火です」
「間違いはないな。その二つはムゥも得意なやつだ。なんでも遠慮なく聞け」
「なんでも、聞いて」
「……ありがとうございます」
ムゥとアルフの話を聞いて、俺は頷く。
「よし、かなり早いが、面接は以上だ。詳細は後日宿に発送するから、少し待っていてくれ」
「ありがとう、ございました」
ぺこりと頭を下げ、立ち上がり、もう一度一礼。
そうしてアルフは応接室を後にした。
静かになった応接室で、俺は一人深く息を吐く。
面接前は緊張したが、そういう時ほど何事もなく早く終わるものだな、と思ったりした。
「先生、最後の質問ですが……良かったのですか?」
イヴが静かに尋ねてくる。
これまで生徒に面接をするとき、俺は生徒に「どうして強くなりたいのか」を聞いていた。
けれどアルフには尋ねなかったので、イヴは聞いてきたんだろう。
「ああ……聞いても答えは返ってこないだろうしな」
きっとエリューの時のように、強い思いがあるわけじゃない。
いや、エリューはそれでも強くなりたいという思いはあった。
けれどアルフは、きっとそれもない。
彼女はただ、生きたいだけだ。普通の人と、同じように。
「……アルフは、アルフ。私に、任せて」
「心強いこって……頼むぜ、ムゥ」
俺の言葉にムゥはしっかりと頷く。
いつもはふざけてばかりいるのに、今はその真剣な表情と眼差しが、やけに頼もしく思えた。
こうしてスカイグラス学園の生徒面接は終わりを迎えることになる。
何人かの気になる生徒を迎え入れて、学園は新しい学期を迎えた。
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【あとがき】
以上でサナの続章は終了です!
他のキャラの続章もひょっとしたらそのうちあるかも?
ですがそれは一旦置いておいて、次からちょっと趣が変わり、イヴ達教師が他の生徒をどのように教え導いていくのかを描写していく予定です。
既に対応する四人の生徒は出てきていまして、以下のようになります。
イヴ:ティルファ・アルメジア
ムゥ:アルフ・パーロット
ルイ:ラディウス・リンドヴル
サナ:シュウヤ・キタハラ
教師は、学園が誇るエンディの第一から第四の生徒全員です。
そしてそんな彼ら彼女らが教えるのはいずれも一癖も二癖もある少年少女達。
彼らの問題をどのようにイヴ達は捉えて解決へと導くのか……楽しみにしていただければと思います。
それに伴いエンディくんの教育は次の章では少しお休みとなりますが、もちろん登場はしますし、彼の教えがイヴ達の中にどのように残っているのかも感じ取れるようになっていますので。楽しみにしてもらえれば!
というわけでちょっと長丁場になる予定ですが、次章『それぞれの指導の道』をお楽しみに!
紗沙
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