第270話 教えは、広がっていく

 スカイグラス学園の校庭で、木刀と木剣が踊る。

 それぞれが絶え間なく行き交い、ぶつかり、甲高い音を立てる。


 一人は、勇者最強シエラ・エンフィールド。

 そしてもう一人は、セイラン最強の剣士レン・イザナギ。


「まだまだっ!」

「っ!? 本当、剣の腕は私以上……ねっ!」


 レンが繰り出したのはCランクの刀の戦技『氷柱墜ひょうちゅうらく』。

 跳びあがり、全体重をかけて振り下ろす技だが、レン用に再現されている。

 その一撃を、シエラは『玉剣ぎょくけん』を用いて正確に防いだ。


「Cランクまでしか再現に成功してないのに、あそこまで戦えるか」

「やや荒削りではありますが、そもそも戦いの直感が優れているんだと思います。体の軸が自在というか、読まれにくい太刀筋でもありますし」


 素直に感想を述べると、隣に立つイヴも同意してくれる。

 学園で一番の剣士からしても、レンの刀の腕はずば抜けているらしい。


「もし、どっちか、B以上使ったら……即、停止」

「あの様子なら大丈夫だろ。大技放って、校舎を壊すこともねえって」


 結界魔法をいつものように張ってくれたムゥが戦々恐々とした様子で二人の戦いを眺めている。

 二人の戦いが恐ろしいのではなく、その余波で校舎が傷ついた場合に出てくるイッテツさんが恐ろしいのは言うまでもない。

 とはいえシエラとレンはちゃんと手合わせというのが分かっているようで、Bランク以上の攻撃技を使う様子はなかった。

 おそらくレンとしても、再現した戦技を試したいのだろうし。


 声をかけたイヴの奥では、サナとシュウヤが戦いの感想を語っていた。


「手に汗握る戦いですね」

「はい……すごい戦いですが、これでも二人とも本気じゃないなんて……勇者という称号がいかに遠く、そして遥かなる高みにあるのかがよく分かります」


 とは言うものの、今この場にはその勇者クラスの奴らが大勢いるわけだが。

 やっぱり俺の学園なんかおかしくない?

 まあレンはこの後セイランに帰るし、シエラも冒険者稼業に一時戻るから本当に今だけ多いって感じではあるんだが。


「最後っ! 行きますっ!」

「見せてみて!」


 そんなことを思っていると、レンが最後の技を放つ。

 Cランクの戦技『豪雨一閃ごうういっせん』。無数の斬撃と共に強烈な突きを繰り出す戦技だ。

 刀の戦技の中では動きがかなり複雑で、俺も再現の習得に少し苦労した。


 そんな難易度の高い戦技だが、少し粗さが目立つものの、レンは再現して放った。

 迫り来る斬撃をシエラは木剣一本で防ぎ、続くレンの一突きに合わせるように体を回転させる。


 通常はそのまま剣を横薙ぎに振るう『風薙かざなぎ』を使用し、体の回転の勢いと合わせて、突きを相殺した。


「……上手いですね。シエラながら」

「いや、普通に上手いと思うが」

「ええ、上手いです。シエラながら」


 何回シエラながら、って言うねん。

 と内心でイヴにツッコミつつ、戦いが終わったシエラとレンの二人に近づく。

 二人は早速先ほどの戦いの感想を言い合っているようだった。


「Cランクまででここまで戦えるなら、それ以上を習得した時は恐ろしいわね」

「うーん、でもCでも『豪雨一閃ごうういっせん』は苦戦しましたし、B以上には複雑な動きが多いので難しくなりますよね……あ、エンディ先生」


 俺に気づいたレンに手をあげる。


「おう、すごかったぜ。流石は最強の勇者と最強の剣士だ。Cランクの戦技をあそこまで使いこなせるなら、コツは完全に掴んだだろ。セイランに戻った後も自分の力で進められるはずだ」

「はい、記録水晶を用いた方法も実際に指導して頂きましたし、それらを用いて取り組んでみます」


 優秀で才能があり、かつ真面目なレンのことだ。

 きっと問題なく高ランクの戦技の再現も成功させてしまうだろう。

 セイランの未来は明るいな、と思っていると、シエラがふと声を上げた。


「にしてもエンディは本当にすごいわよね。魔塔では魔法式改良が流行だし、きっとシエルエイラの軍でもシルヴィさんとエリューが広めるわよ。戦技の再現も広がってるらしいし、そしてこれでセイランにも広がると」

「先生の戦技と魔法の教えが、世界中に広まっていくのを感じますね。アーセラスでもリースを始めとして広めているらしく、聖騎士達も戦技の再現に着手しているとか。ようやく世界が先生に追いつきましたね」


 続くイヴの発言も相まって、答えにくくなってしまう。

 俺が考案した方法が広まっていくのは嬉しいことではあるのだが、同時にちょっとスケールがデカいというか。

 まだ実感が湧いていない、という感じだ。


「ん、このまま、世界全員、エンデー、生徒」

「いや、そりゃ拡大解釈が過ぎるだろ」

「……確かに、エンデー、生徒、私たち、だけ」

「んあ? ああ、まあ、そりゃ……」


 ムゥの言う通りではあるのだが、なんでこいつこんなドヤ顔なんだろうか。

 誇るところ、どっかあった?


「僕の方でも、ある程度形にしたら兵達にも共有するつもりです。軍全体の強化にもつながると思いますし」

「あー、そりゃあ嬉しいんだが、動きを最適化するだけで、急激に強くなったりとかはないから、あんまり過信しないようにな」


 もちろん多少は強くなるが、劇的には強くならない。

 それを伝えると、レンははっきりと頷いた。


「もちろんです。日々の訓練が大事、ですからね……ところでエンディ先生、このまま刀の戦技を記録水晶に収めるようにしますか?」


 どうやら早速俺の要望に答えてくれるらしい。

 それは嬉しいのだが、気になることがあるので尋ねることにした。


「ありがたいが……疲れてないか? それに『白夜刃びゃくやじん』をどうするかって問題もあると思うんだが……」


 Sランクの戦技もぜひ記録水晶に収めたい。

 だが、聞いた話では、体への負荷がかなりかかると聞いている。


「ああ、そうだと思って考えておきました。『白夜刃びゃくやじん』ですが、少し力を抜いて発動するようにします。全力で打つと動けなくなるんですが、ちょっと……いえ、かなり抑えれば腕が痺れるくらいで済むと思うので」

「そうか……負担をかけて悪いな」

「いえ、教えて頂いたことや、キタハラを救って頂けたことに報いたいので」


 レンは笑顔でそう答えてくれる。

 おぉ、なんて良いやつなんだ。マジで助かる。


「じゃあしばらく休憩して、そしたら広場の方に移動して見せてもらうか」

「はい、分かりました」

「よし、じゃあほら、皆解散だ。授業がある奴もいるだろうから、戻れー」


 手を2回叩いてそう言えば、イヴを始めとする教師陣は校舎へと戻っていく。

 そんな彼女達の背中を見つつ、ポツリと呟く。


「……俺の教えたことが、世界に広がっていく、か」


 口にしてみてもやはり実感は湧かないけれど、素直に嬉しいとは思う。

 昔思い描いた英雄にはなれなかったけど、別の方法で世界に影響を与えられたんだな、と少し、しみじみとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る