第263話 間章:次期女王ライアス・ミストルティン

 右手を前に。魔法式を唱え、発言。


「『アイスランス』」


 手のひらに青の魔法陣が展開し、氷の槍が射出される。

 巨大な氷槍は一直線に飛び、特殊な加工が施された的に命中した。

 当たった場所は中央。威力としても申し分なさそうだと、そう思えた。


「……ど、どうかな?」


 恐る恐る尋ねてみると、私の横に立ってじっと的を見つめていた紫髪の女性、ウェンディ先生は頷いた。


「良いと思います。以前よりも威力が上がっていますし、詠唱も澱みない。Cランクの魔法もしっかりと勉強なさっているようですね」

「うん……でも、改善すべき点はあるよね?」

「それはもちろん。ですがこの威力なら、仮に魔法軍に入ったとしても優秀な人材とみなされるくらいの実力だと思いますよ。もちろん氷魔法のみならず他もある程度使いこなす必要はありますが」


 軍属のウェンディ先生の言葉を聞いて、私は思ったことを尋ねてみた。


「その……レスター先生はかなり褒めてくれたけど……」

「……ちなみに、どのように褒められましたか?」

「……『1000年に一度の天才』と」


 小さくそう言うと、ウェンディさんは遠くを見る。

 それを見て、慌てて手を横に振った。


「ち、違うよ? 私はそこまでは思ってないよ? でもやっぱり持ち上げすぎ……だよね?」

「……恐れながら、ライアス様のおっしゃる通りかと」

「……お祖母様が何度か頭を抱えるのを見ていたし、やっぱりそうだよね」


 城に来るようになってから、私には二人の先生ができた。

 一人は、宮廷魔導士長であり準勇者であるレスター・フロムハート先生。

 ただこのレスターさん、お祖母様に心酔しているらしく、私のことも手放しで褒めてくる。


 最初はちょっと大袈裟なのかな? と思ってたけど、最近はそれに拍車がかかっていて、怪しんでいた。

 流石に1000年に一度は……それこそムゥさんが当てはまると思うし。


 そしてもう一人は、私の希望で先生になってもらった魔法軍所属のウェンディ・パーロット先生だ。

 私が彼女を指定したのには、理由がある。もちろん魔法の実力もだけど、もう一つ。


「……それにしても、エンディの考えた魔法式はすごいですね。こんなの、普通思いつきませんよ。それにライアス様への教え方といい、意外と面倒見良かったんですね、あの人」


 彼女が、かつてのエンディを知る人だからだ。


「ウェンディ先生は、エンディから何かを教わったことはないの?」

「特には……あの頃エンディは自分の実力を伸ばすことしか考えてなかったので……ああでも、一度雷の魔法について相談に乗ってもらったことがありました。確かに今思い出してみると、丁寧に教えてもらいましたね」

「じゃあその時からエンディは教師の才能があったんだ」

「かもしれませんね……私からすると、あのエンディが教師なのは不思議な感じですが」


 苦笑いをするウェンディに、首を傾げた。


「そうなの? ぴったりだと思うけど」

「今はそうですね。ですが昔はなんというか……近寄りがたいと言いますか、自分自身と競っていて他の人なんて眼中にない、みたいな感じでしたので……たまに何かを思い出して不気味に笑ってましたし」

「へ、へぇ……そうなんだ……」


 今のエンディはどちらかというと結構適当で、がさつな感じだ。

 もちろん時にすごく真面目でかっこいい顔を見せることはあるけど、それは私たち生徒相手の時だけ。

 自分のことを考えて、自分自身と競って、っていうのはなかなか思い浮かべられなかった。


「ですが、そちらの道を選んでくれて良かったとは思います。おかげでライアス様はこのように外の世界を過ごせるのですから」

「うん、そうだね」


 エンディには今でも感謝しているし、私の中で一番の先生だ。

 お祖母様のように、「我が師」とか呼ぼうかな。でも私っぽくないか。


「そういえばライアス様は、今回はスカイグラス学園に入学なさらないのですよね?」


 不意にウェンディ先生にそう尋ねられて、頷いて返す。


「うん、今回はちょっとね。次回、忙しくなかったら、かな。でもいつか、スカイグラス学園でムゥ先生の授業は受けたいと思ってるよ」


 私にとって一番はエンディだけど、ムゥ先生は憧れの人だ。

 あの人の元で学びたいという気持ちは結構強い。

 ……やっぱりスカイグラス学園いいなぁ。ムゥ先生の授業も受けられて、エンディにも会えるんだもん。


「やはり今回は……」

「え? あー……まあ、ね?」


 難しそうな顔をしているウェンディ先生の言葉に、意味ありげに返した。


「アルフちゃんが行くなら、流石に私は行かないほうが良いと思うし。ずらせるならそれで良いかなって感じ。でも別に私がそうしたかっただけだから」

「本当に……他者を優先なさる辺り、ライアス様は女王の器です」

「そ、そんなに褒めても何も出ないよ。というか、褒めるのはレスター先生だけで十分だから……」


 少しだけ顔の熱さを感じてウェンディ先生から顔を逸らす。

 すぐに熱は引いて、続いて一人の少女の名前が頭に思い浮かんだ。

 アルフちゃん。私よりも年上の、女の子。


「アルフちゃんはムゥ先生の教室に配属になるよね。それにエンディにも伝えたし、二人に任せておけば、きっと大丈夫」

「……う、うーん……ムゥ様についてはスカイグラス学園の魔法教師長でもあり、魔塔の名誉教授でもあるので信頼していますが……エンディがライアス様にここまで信頼されるとは……彼、結構適当でしたよ?」

「……あー、まあ、ね」


 ウェンディはそう言うけれど、私はそれを否定しなかった。

 エンディの凄さは、私が知っていればそれで良いから。


「変わりましたからねぇ。考え方が雑になりましたし、飲みの席の料金も押し付けてくるし、私の奢りだと知るや否や追加で酒を頼むし、お金大好きになってましたし」

「あー、エンディはお金大好きだね……別に良いと思うし、私も将来、多少は支払えるかな、なんて思うけど……ん? ちょっと待ってウェンディ先生、エンディとお酒を飲んだの?」

「え? あ、はい」

「誰と?」

「誰? え、いや、エンディとですが……」

「二人っきり? なんで?」

「なんでって……マルク・マギカで再会したからですが」

「ふーん……へえー」

「……ライアス様?」


 なるほどなるほど……女性と二人っきりでお酒かぁ。

 これは使えるかもしれない。

 私がお酒を飲めるようになった時にエンディを誘って、もし断られたらウェンディ先生の件をムゥ先生やシエラに言っちゃおうかな〜、って言ってみよう。


「うんうん、そうしよう! よし、いい感じ! ウェンディ先生、魔法の授業、再開しよう!」

「? はい、やりましょうか」


 まだ先だけど、未来で一つ楽しみなことが増えた。

 空を見上げて、雲一つない青空を視界に入れる。

 その先にミリアの姿を幻視したけど、彼女の笑みはどこか苦笑いに見えた。



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【あとがき】

何やら集まりつつある次の生徒達……。

なのですが、彼ら彼女らの登場はもう少し後になります。

その前にとある人物について動きがあるようで……?


ということで次章『続・第4生徒 サナ・スカイグラス』をお楽しみに!


紗沙

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