第259話 エリューはロードについて知る
とある授業の日、今日は室内の訓練室が使えないということで、ロード様と一緒に校庭に出ていました。
やることはいつも通り、魔法式の改良とその実践。
白線の上に立って、魔法式を詠唱。我ながら正確に唱えられたと思ったところで、小さな声で魔法名を告げました。
「『エレキネット』」
Dランクの雷魔法が私の手のひらから射出されます。
四角形の、雷の網。それはまっすぐに的に飛び、その全体を捉えました。
真っ黒に染まる魔法の的。しかし焦げたのではなく、そういう性質のようです。
かなり耐久力があるらしく、作った人はすごい大工様なのだとか。
大工さんではなく大工様とはどういうことなのだろう、と思いましたが、エンディ校長先生も頷いていたので、事実なのでしょう。
「おぉ、いい感じじゃなぁ! 流石はエリューなのじゃ!」
うんうん、と満足して頷いてくれるのはロード様。
彼女は振る首を止めると、疲れた息を吐いた。
「のうエリュー? 休憩せんか?」
「もう疲れたんですか? ロード様」
「うむ、我、疲れたのじゃー」
あーあ、という態度で校庭に備えられたベンチへと向かってしまうロード様。
やれやれと思いつつ、私もそちらに向かいます。
こうしていると本当にどっちが生徒なのか分からなくなりますね。
……それがロード様の良いところでもあるのですが。
ロード様についていって、ベンチに腰掛けます。
ふぅ、と息を吐く彼女を横目に、どうせなら、と話を振ってみることに。
「……ロード様って、どこ出身なんですか? やっぱりマルク・マギカですか?」
なんとなくで聞いてみると、ロード様は気色悪い笑みを浮かべて私を見てきました。
「おぉ? エリューは我のことが気になるのか? うん?」
「早く答えてください。次は撃ちます」
「手を下ろすのじゃ、生意気な生徒め」
手のひらをロード様に向ければ、えぇ……? という表情でそう返されました。
全く、ロード様はいつもいつもおふざけばかりなんですから。
「我は魔界という場所出身じゃ」
「……いや、設定じゃなくて本当の出身を聞いてるんですけど」
というか、いつまでその設定を引きずるんでしょうか?
そう思っていると、ロード様はきょとんとした顔をした後に、ああ、と呟きました。
「じゃから設定じゃないと言っておろうに。ほれ」
「え?」
目の前のロード様の姿が、急に薄くなります。
突然の出来事に、私は慌ててしまいました。
「ロ、ロード様? 姿が薄く……」
「普段は濃くしておるのじゃよ。それにほれ、翼もあるぞい」
「ええ……」
バサァッ、と展開される黒い翼。
それを見て、まさかと思い、翼をまじまじと見つめます。
作り物にしてはかなりリアル。そもそも半透明なのですが……。
「そういった魔法ではなく?」
「違うのじゃ。普段から言っているではないか。我は魔界貴族だと」
「……ほ、本当だったんですね」
まさかのロード様の正体に、今もびっくりしています。
いや、本当にそんな訳の分からない人物だなんて思わないじゃないですか。
「ああ、でも他の者には秘密じゃぞ? 驚かれてしまうからの。今だって他の生徒が見当たらないからやっただけじゃし」
そう言って、ロード様は翼を消し、姿を濃くします。
「……なら、普段は浮かない方が良いのでは?」
「いやじゃ。あれ楽なのじゃよ。それにあれくらいなら、ありうる範囲じゃろ?」
「まあ、確かに」
事実、ロード様のことを人間じゃないのではと疑っている生徒は居ない。
いや、それ以上のフヨフヨ浮いているロード様が当たり前になりつつあるからなのですが。
「この学園、どうなってるんですか」
「それは我が聞きたいのじゃ。我よりも強いのが何人もおるのじゃぞ? 地獄なのかえ?」
「いや、知りませんけど……」
でもロード様の言っていたことが本当だと分かった今、あの自信にも納得がいきます。
彼女はいなくならないような気がしました。
とはいえ、さっき姿を薄くした時はそのまま消えてしまいそうで、本当に焦ったのですが。
……ロード様の正体を知っているのは私だけ、と考えるとちょっとだけ気分が良いです。
そうだ。良い機会ですし、もう少しロード様について聞いてみましょう。
「ロード様は、どこまで魔法が使えるんですか?」
「最盛期はA+まで使えたのじゃが……今だとB+くらいまでしか使えないのじゃ」
「え、どういうことですか?」
「弱体化したのじゃ……酷いのじゃー」
「あー、そうなんですね」
よく分からないけれど、そういうことなんでしょう。
ロード様に関して、あまり真剣に考えてはいけないんだと、私は学びました。
うぅ、と項垂れるロード様の頭を見て、思わず手が伸びそうになりました。
それをグッと堪えて、言葉をかけます。
「でも、B+でもすごいですよ。私の属している軍でも、そこまで使える人は一握りしかいませんから。……最盛期のA+になるとシルヴィさんくらいすごいと思いますけど」
「そうなのじゃ。我すごいのじゃ!」
改めて、すごい人に教わっているということを認識します。
今私が使える最高ランクの魔法はCですが、そこから二つ上がるB+でも世界で上位者でしょう。
ランクの差って、上がれば上がるほど一つの差が高く大きな壁になるんですよね。
とまあ、魔法の話はここらへんにして。
「ロード様は、学園がお休みの日はなにをしているんですか?」
「うむ? 我はエリューのことを考えておるよ。どのように授業しようか、次はなにを教えようかな、みたいな感じじゃな」
「…………」
この人は、全く。
いつもはおふざけ全開なのに、時々こうして威力の高い一撃をしてくるんですから。
「……では、私に出会う前の休日は?」
内心が外に出ないように注意しながら尋ねると、ロード様は空を見上げて考え始めます。
「うーむ……人間を観察しておった」
「人間を観察……?」
え、なんですかそれ? とロード様を見ますが、彼女の表情は真剣そのものです。
「我、魔族じゃから人間のことをよく知らんのじゃよ。だから人間をじーっと観察したり、契約者様達の授業を見学して、やり方を学んだのじゃ」
「……はぁ。それ、楽しいんですか?」
「楽しいのじゃ! 人間というのは一体なにを考えて、どんなものが好きなのか、などが分かるからの。我からすれば人間は弱い存在……ああいや、この学園の教師は違うがの……にも関わらず、色々と面白いことをしたり、考えたりする。興味深いのじゃ」
「……それって、私もですか?」
楽しそうに話すロード様を見て、思わず尋ねる。
すると彼女は、満面の笑みで頷いた。
「うむ! エリューは面白いのじゃ! 他に居ない感じじゃからの!」
「……人間観察するのは良いですけど、世の中には悪い人もいるんだから、気をつけてくださいね」
「ふむ、それもよく分かっておる。じゃが大丈夫なのじゃ。我、そもそも決定権ないからの。何か言われても、全部家に持って帰って、契約者様達と相談なのじゃ……あれ、我、惨めなのでは?」
「……なら良かったです」
「いや、良くはないのじゃが……」
私でもロード様が子供っぽく感じるので、エンディ校長先生達も同じなのでしょう。
悪い人には引っ掛からなそうで安心しました。
「ん? おぉ、契約者様が来たのじゃ!」
ロード様の言葉に校舎の方を見てみると、そこには歩いてくるエンディ校長先生。
入学希望者の面接で今日は不在でしたが、終わったので来てくれたようです。
「ふむ、ではエリューよ、引き続き魔法式改良取り組むぞい!」
「はい、分かりましたロード様」
私はロード様に頷いて、ベンチから立ち上がります。
そしてまた彼女と共に、強くなるために頑張るんです。
「もうひと頑張り……ですね」
そう呟いて、私はベンチのある木陰から、日の光が射し込む校庭に足を踏み出しました。
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