第49話 苦戦する指導

「はぁ!!」


 ルイが木刀を一心不乱に振り、打ち込んでくる。

 それを鞘に納めた刀で受け流しながら、ひたすらに動きを観察していた。


(筋が……いや、時間をかけてきたことが分かる剣筋だ。悪くはない……ないんだが……)


 五級冒険者として考えるとやはり不足を感じる。


「そこっ!」


 戦技『強斬ごうざん』。

 上段から振り下ろされた強力な一撃を、しっかりと受けて弾く。

 がら空きの胴体に打ち込むこともできたが、もう少し実力を見たいがために見逃す。


「くっ!」


 ルイとこうして剣を合わせることで、彼の実力を余すことなく知ることができる。

 剣の太刀筋、体の使い方、目の良さや察知の力、そして戦技の強さ。

 それら全てを考慮してなお、五級冒険者として不足。


(こいつ……やっぱり……)


 そんなルイを見て、心の中で奥歯を噛みしめた。

 今まで記憶水晶を使って最も長い時間をかけて見てきた一人の男。

 そいつと、ルイの姿がどうしても被る。


「そこまでだ。もういいぞ」


 確認できる実力は全て確認し終えたので、ルイに言って模擬戦を止めさせる。

 ルイは剣を振るのをやめ、これまでの疲れからか肩で息をしていた。

 膝に手を置いて、荒い呼吸を繰り返している。


 その姿を見て、再び考える。

 嫌な予感がする一方で、それが確定かと言われると怪しい。

 たまたま昔の俺と重なって見えるだけで、同じく成長限界を迎えていると決めつけてしまっている可能性だってある。


 いや、むしろそっちの方が可能性的には高いか。


(なら、俺がまずやるべきはその可能性の排除か)

「あの、エンディさん?」


 声をかけられたところで、ルイが呼吸を整え終わっていることに気づき、「ああ」と返事をした。


「いかがだったでしょうか? 僕としてはまだまだだと思うので、もっともっと剣の腕を磨きたいのですが……」

「そうなるとまずは戦闘を通じて実力を伸ばすぞ。俺との模擬戦や魔物狩りを一人で行うことを通じて、戦いそのものに慣れていくのがいいな」

「魔物狩り……ですか?」

「ああ、ここら辺一帯は俺が所有していてな。土地周囲も含めて魔物の討伐は毎日の課題だ。今は俺やイヴがやっているが、お前にもやってもらう」


 イヴやムゥも経験してきた、お墨付きの魔物狩り。

 それについて共有すると、ルイは不安そうな表情を見せた。


「ひ、一人で……ですか……少し怖いです」

「大丈夫だ。最初の内は俺がついていてやる。戦闘には参加しないが、危なくなったら助けてやるよ」

「そ、それは心強いです! ありがとうございます、エンディさん!」


 ころころ変わる表情を見て、ルイも次第に慣れてきたようだと感じた。

 俺は頷き、鞘に納めた刀を肩でトントンと遊ばせる。


「じゃあ、模擬戦の続きだ。気になる部分に関しては戦いの中で矯正できるように伝える。それを意識して、動きを良くしていくぞ」

「はい、お願いします!」


 元気よく返事をするルイを見て、刀を構えた。

 まだ感じていた嫌な予感については、勘違いだと思うようにした。




 ◆◆◆




「アンナに教えるのは、戦技の再現について」


 目の前で真剣な表情で、一言一句聞き逃さないように集中するアンナに指導するのは戦技の再現。

 先生が私に一番に教えてくれたことを、今度は私がアンナに教えます。


「例えば『強斬ごうざん』。戦技を使用すると意識してから放つのが普通だけど、これを逆にするの。つまり、こう」


『強斬』の動きを再現することで、『強斬』を発動。

 淡く光る直剣は鋭く振り下ろされ、斬った空気が強い風となって放射状に吹きました。


 私が放った『強斬』を見て、アンナは目を輝かせます。


「す、すごいですイヴさん! イヴさんともなると、『強斬』の威力も桁違いなんですね!」

「いや、見て欲しいのは威力ではなくて発動の流れなんだけど……。アンナの剣の熟練度はDで、それなりに高い。これから先、冒険者活動をしていく中で自ずと上がっていくと思うわ。だからこれまで習得した戦技を改良することで安定した実力を育てる」


 今後の育成計画について伝えていると、アンナは途中までは目を輝かせて聞いていたものの、次第に困ったような顔になってついには頬を掻き始めました。


「えっと……イヴさんがやった『強斬』と私が普段発動する『強斬』って、なにが違うんでしょうか?」

「あ……そ、そうよね。その違いが先だったわ。えっとね……」


 私は自分のミスに恥ずかしくなりながらも、なんとかアンナに理解してもらおうと戦技の再現について説明します。


「普段使う戦技よりも、再現した戦技の方が強いのよ」

「えっと……そう……なんですか?」

「そう……えっと……あの……そう、再現した戦技はアンナの戦技なの。だから普段使う戦技よりも優れているものなの」

「ま、まあイヴさんがそう言うなら……」


 どうしましょう。私の説明が下手なために、アンナが困っています。

 途中で先生が教えてくれた内容を思い出しながら伝えましたが、それでもしっくり来ていない様子。


「も、もう少し詳しく説明するわ。えっと……普段使う戦技は……そう、誰が使ってもその動きになるでしょ? つまりその戦技は誰かの動きをあなたが再現しているに過ぎないの」

「は、はあ……」

「だから、それをあなたの動きで発動できるようにする。あなたが『強斬』の動きをすることで、あなただけの『強斬』にするの」

「うー、うーん? ……えっとつまり、戦技を自分の力で出来るようになると、良いことがある……と」

「そ、そう。そういうこと」


 しかもアンナにフォローされる始末です。

 何とか理解したものの、あまりしっくり来ていないアンナは、少し理解したけれど、完璧には分かっていないという印象を受けました。


「で、でね? そのために使うのがこれ」

「これ……確か記憶水晶でしたっけ? 風景を保存できる魔法具でしたよね?」

「そう、よく知っているわね。これを使ってアンナの動きを記録するわ。それで、私の方でもどうすればいいのか考えてみる」

「え……っと?」

「えっとね……その……どの角度で打ち込むか、とか、どのくらいの力で打ち込むか、とかを考えて、アンナに合った『強斬』を私の方でも考えるわ。も、もちろん他の戦技もね」


 結局説明下手なせいで、前に先生がしてくれた説明を殆ど借りてしまう形になってしまいました。


「え!? い、イヴさんにそこまでしていただけるんですか!? とってもありがたいです、ありがとうございます!」

「気にしなくていいのよ。……あと、今すぐではないけれど近いうちに魔物狩りも行ってもらうわ。ここら辺一帯は先生の土地で、魔物狩りも私達がやっているの。半分は先生とルイが同じように魔物狩りに使うと思うから、残り半分を使わせてもらうように伝えておく」

「わ、分かりました。……緊張しますね」

「といっても、ミルキーやユウリィも交代交代でやってもらうし、私も側にいるから大丈夫よ」


 説明をし終えたところで、私は記憶水晶を設置。


「じゃあ残りの時間で『強斬』の再現に取り組んでみて」

「はい、分かりました!」


 アンナの元気な声を聞いて、記憶水晶を起動します。

 彼女の『強斬』を見て、先生がやったのと同じように微修正をしようと、そう考えていました。


「あ、あれ? えい! ……あれ?」


 しかし、アンナは剣を振りますが『強斬』は再現できません。

 何度も何度も必死に剣を振るいますが、『強斬』はまったく発動しませんでした。

 鋭い一撃が出ることはおろか、剣が淡く光ることすらなし。


 その様子を見て、私の動きは固まってしまいます。


「あ……えっと……その……」


 どうしましょう。私は最初から『強斬』が発動できたので、今のアンナに対してなにを言えばいいのかが分かりません。

 内心で冷や汗をだらだらとかいていると、アンナが縋るような眼で私を見ました。


「イ、イヴさん……できません。なにかコツとかないですか?」

「えっと……その……えーっと、ですねえ」


 まずいです。本当にどうすればいいのか分かりません。

 私の時は何を考えて発動したでしょうか。でもやろうと思えばできましたし。

 あー、えっと、その……うー。


「さ、再現は中々に難しいですからね。最初は上手くいかないものです。な、何度も取り組んでみて、発動できるように頑張りましょう!」

「はいっ! ……あの、イヴさん? どうして敬語なんですか?」

「はっ!?」


 いけいないいけない。つい取り乱して口調がおかしくなってしまいました。

 こほんっ、と咳払いをして、「じゃあ、頑張って」と取り繕います。

 アンナは首を少しだけ傾げたものの、すぐに元気に返事をして『強斬』の再現に戻ってくれました。


 剣が風を切る音を聞きながら、私は人知れずため息をつきます。


(……全然ダメだった。先生……本当にすごい)


 さっきの私と違い、先生の説明は簡潔で分かりやすく、すっと入ってきました。

 疑問はほとんどありませんでしたし、あってもあっさりと解決して頂いて。

 対して私は全然ダメでした。


 改めて先生の偉大さを思い知らされます。

 特級冒険者になるような実力なんて、なんの意味もないのです。

 だってそんな私よりも、先生の方がずっと凄いのですから。


「イヴ様! 魔法についてそろそろ教えてください! アンナばかりズルいです!」

「イヴさん、私もお願いします」

「うん、今行くね」


 ミルキーとユウリィに呼ばれ、そちらへと向かいます。

 アンナには戦技の再現を、二人には初歩的な魔法の改良を指導する予定でした。

 どちらも先生が私に教えてくれたこと。


 しかしこの後も私は二人に上手に説明はできず、苦戦することになります。

 必死に伝えて魔法式の改良についても説明し、アンナの戦技の再現の進捗についても確認し、それらで忙しくなり、気が付けば時間はあっという間に過ぎて日も暮れていました。

 その頃には私は精神的に疲れ果て、三人もの生徒を受け持つのは多すぎるのではないか、とさえ思い始めて。


 一方で私一人とはいえ、なんの苦も無く指導してくれた先生は、やはり偉大なのだと再確認しました。



----------

【あとがき】

今回で評価していただいた方が1200人を越えました!

なんという増加スピード……実は今回で、これまでの作品の中で当作品が最も評価して頂いた作品になりました。


多くの方に読んで頂き、そして楽しんで頂き、本当にありがとうございます。

特に返せるものもないのですが、なるべく毎日更新していきますので、この先も楽しんで頂けますと幸いです!


紗沙

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