第52話



 船の上にいると、空が近くに感じられた。


 先の見えない水平線の向こうには、不確かな未来だけが横たわっていた。


 不思議と不安はなかった。


 水面の上には無数の光の粒がゆらめいていて、穏やかな波が、覚束ない足元を運ぶように動いていた。


 想像の中でしかなかった。


 日本という国のこと。


 “社会”のこと。


 自分が日本人であること自体に興味はなかった。


 でも、「日本」という場所になにか繋がりみたいなものがないかは、想像してた。


 血の繋がり。


 人の繋がり。


 それ以外に“自分”と繋がりのあるもの。


 それが具体的に何かはわからなかった。


 だけど、探してた。


 憧れてた。


 普通の生活に。


 学校に通ったり、普通の人たちと一緒に過ごすことに。



 森山学院高校。


 太田区にある私立の学校で、羽田空港が見える場所にある。


 見えるって言っても、屋上からだけど。


 4階の教室の窓からは、東京スカイツリーも見える。


 都心5区に比べれば少し田舎で、海沿いの工場からはもくもくと煙が上がっていた。


 閑静な住宅街、賑やかな商業エリア、色んな表情が、大田区にはあった。


 あんまりゴミゴミしたところは好きじゃなかった。


 だから、ピッタリだったんだ。


 初めての学校生活を送るには。

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