16:自己啓発の女王たち
私たちは、互いの「パーソナル・マニフェステーション・フィールド」が干渉することを許されない講師たちだった。影響力の強い者たちの間には常に最適なマーケット区分が存在する――その区分は、私たちがトップ講師である以上、この円形建築の構造そのものによって厳密に定められていた。
「マインド・シンフォニー・センター」。その名を冠した建物は、直径五十メートルの完璧な円を描いていた。中央には「セレニティ・ラウンジ」と呼ばれる円形の開放空間があり、そこから放射状に八本の廊下が伸び、その先端には私たち八人の講師がそれぞれの教室を持っている。扇形をした教室は、外側に行くほど広くなる設計で、まるで私たちの教えが外の世界へと広がっていくかのようだった。
「あなたの中にある無限の可能性が、時として他者の無限の可能性と干渉することがあります」。これは、センター長からの婉曲な警告だった。確かに、防音設計は完璧だったが、それでも時折、隣室からの「波動」が感じられることがあった。
私は「引き寄せのメソッド」を北側の教室で教えている。時計回りに、「アバンダンス・マインドセット」「インナーチャイルド・ヒーリング」「クオンタム・ジャンプ」「シャドウワーク」「マインドフルネス」「アンカーリング」「スピリチュアル・アウェイクニング」と続く。それぞれが、決して交わることのない異なる「波動」を持っているはずだった。
だが最近、私は気づき始めていた。中央のセレニティ・ラウンジに集まる受講者たちの「エネルギー」が、予期せぬ形で共鳴し始めていることに。休憩時間になると、彼らは自然と中央に集まり、異なる教室の受講者同士で話し込む。その様子は、まるで私たちの築き上げた境界線を笑うかのようだった。
「これは意図された設計です」と、「クオンタム・ジャンプ」の講師は主張する。彼女によれば、この円形の構造には「高次の知性」が働いているという。だが、「アンカーリング」担当は密かに不満を漏らしていた。建物の曲線が生む反響のせいで、時として他者の声が予期せぬ形で教室に届くと。
気づけば、私たちは『最適な瞬間』を求めて、絶えず重要な教えのタイミングを調整していた。隣室での歓声が予想される時は敢えて沈黙し、静寂が訪れる時を待って核心を語る。この緻密な計算の中で、誰もが自然な流れを装いながら、実は中央のラウンジに目を凝らしていた。
「シンクロニシティとは、実は距離を取ることの別名なのかもしれません」。これは、「マインドフルネス」講師の言葉だった。確かに、八本の廊下は私たちを等距離に保っている。だがその正確な配置こそが、時として私たちの心の歪みを際立たせた。
「最も調和の取れた状態とは、結局のところ、最も遠く離れる方法に過ぎないのではないでしょうか」。これは、「シャドウワーク」担当の静かな問いかけだった。その声は、建物の曲面を伝って、私たちの間に張り巡らされた無数のルールを揺るがした。
センターの外には、もう一つの真実が存在するという噂があった。「真の成長は、時として他者との『不調和』の中にこそある」。だがそれは、私たち講師には決して口にすることを許されない言葉だった。なぜなら、その瞬間、私たちは「完璧な講師」ではなくなってしまうのだから。
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