第55話 閑話~ケイラ・ヴァリアント視点1

《ケイラ・ヴァリアント》

 その日、真実だという話を聞いた。


          *


 王城での断罪の後、私はいったん家に帰らされた。

 いったん部屋に案内されると、メイドから、

「奥様より、『旦那様が戻られるまで部屋から出るな』とのことです」

 と聞かされた。


「……お母様、怒ってるの?」

「…………はい」


 そうよね。

 お母様は自分の娘よりリリスがかわいいんだもの。

 そりゃ、怒るわよね。


 投げやりに考えて部屋に閉じこもっていたら、お父様が帰ってきたようだ。

 メイドに呼ばれ、ダイニングルームへ行く。

 お父様もお母様も深刻な顔をして私を見ている。


「この際だから話しておきたいことがある」

 お父様が言った。


「……まず、これは伝えておく。俺にとってはお前もリリスも大事な娘だ。それは大前提だ」

 お父様が真剣な顔をして私を見て、そして頭を下げた。

「ただ……すまない。接し方が分からず、結果遠ざけていた。――お前は知らないだろうが、俺は貴族ではあったが男爵家の五男坊で学園にも通ってないから、貴族としての下地は一切ない。平民の荒くれ冒険者として生きてきた。貴族の育て方なんてサッパリ分からないんで、育児や教育はコンスタンスに任せっきりだった」


 お母様もうなずいた。

「育児に関しては旦那様を頼るつもりはありませんでしたし、結婚した当初からそう言っていました。私があなたを育て、そして……失敗しました」

 お母様が悲しそうに顔を伏せた。


 え、失敗したって、私のこと?

 私が、失敗してるってこと?


 愕然としてお母様を見た。

「……いや、俺も父親としての自覚がなかった。リリスに叱られてようやく目が醒めたんだ。俺も悪い。だから、夢見がちで被害妄想の激しい娘になっちまった」

「夢じゃないわ! 現実に起きるのよ!」

 私は怒鳴った。


 そんな、頭のおかしな子、みたいに言わないでよ!

 この知識があったから、決定的な不幸にはならなかったんだから!

 お母様だって死ななかったんだからね!


 ……だけど、お父様もお母様も深刻なため息をつくだけ。


「本当よ! 私には前世の記憶があるの! 前世で読んだ小説がこの世界にソックリなのよ! リリスは妾の子で、お母様が死んだらお父様は妾とその子を家に入れ、私を虐げるのよ! リリスは私から全てを奪うの! 婚約者まで奪って、最終的に私を追い出すのよ! 本来なら、私が聖属性の魔法使いで、聖獣を従えていたの!」


 私が叫ぶと、お父様とお母様が視線を交わした。

 お母様が軽くうなずくと、私を見る。

「……その小説に、私とあなたの生い立ちは書いてあった?」


 生い立ち? どういうこと?


 私が戸惑うと、お母様がさらに尋ねる。

「旦那様がなぜ男爵家当主なのかは書いてあった? ……先ほど旦那様が話したとおり、旦那様は男爵家の五男。よっぽどの事がない限り、男爵家は継げないわね。そこはなんて書いてあったの?」


 私はお母様から視線を外した。

「……よく覚えてないわ。そもそもそんなつまらないこと、小説に書いてあるわけないじゃない」


 ……ふと、違和感を覚えた。

 私、確かに読書が好きだった記憶があるわ。

 でも……なんかおかしい。

 タイトルが思い出せない。

 その小説、いつ、どこで読んだっけ……。

 その前世の私って、どんなだっけ……。


「婚約者は、レイヴン・シルバーウインドという名前で合っているのね? その方の家の爵位は? 幼い頃に婚約したのだから、親同士が仲良くしているはずよね? どちらの領なの?」

 お母様が畳みかけると、私はさらに戸惑う。


 爵位?

 わからないわ。

 爵位なんて書いてあったかしら。

「……し、子爵か男爵じゃないですか。魔法クラスは爵位が低いし……」


 お母様が私をジッと見つける。

「……本当に、小説にそう書いてあったの? その小説のタイトルと作者は?」

「そんなこと、どうでもいいじゃない!!」

 私は叫んだ。

「実際! 妾と子がいて! その子が家に入って! 私を虐げて! 合ってるでしょ!?」

「合ってませんよ。……それは、あなたが知っている事実から妄想を膨らませて湾曲して作りあげた話です」

 お母様が冷酷に告げた。

「では、小説にないお話をしましょうか。あなたが知らなかったから、あなたの小説には出てこないお話を」


 ……どういうこと?

 私は追いつめられた気分でお母様を見る。


「ケイラ。あなたはお父様と血がつながっておりません」


 私は息を呑んだ。


「……成人してから言うつもりでした。でも、あなたのその妄想癖はひどくなる一方で、これでは男爵家を継がせられません。――だから話すことにします」

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