第52話 当主にはなりたくないのである

 最後の一人は、顔色が土色だ。

 聞かれたくないと全身で表現し縮こまっていたが、司会進行役は冷酷に尋ねた。


「さて。オーレン・レグナード、我が息子よ。侯爵家子息であり宰相の息子でもあるお前は、嘘などつかず、言い逃れはせず、答えてくれるな? ――リリス・ヴァリアントの自作自演うんぬんを書いた貼り紙を貼ったのは、お前だな?」


 うわぁ、息子だったのかー。


 オーレン・レグナードはビクリと体を揺らしたが、諦めたように口を開いた。

「――はい。私が筆跡を変えて書き、貼り出しました」

「文面は、お前が考えたのか?」

「……いいえ」

「文面は、横にいるアドリアン・ソル・ユニウス第一王子が考えたのか?」

「…………私ではない、とだけお答えします」

「文面の前に――それをやろうと言いだしたのは、お前か?」

「……いいえ」

「第一王子か?」

「…………いいえ」


 だんだんと歯切れが悪くなっていく。

 でも、黒幕は違うそうだ。


 その時、ケイラお嬢様が叫んだ。

「私もそうです! 私も――手紙をもらったんです!」


 すると、第一王子とオーレン・レグナードが血相を変えた。

「黙れ!」

 第一王子は怒鳴る。

 だけどケイラお嬢様は止まらない。


「家に手紙が届きました! 宛名はメデリア・ドラマティカ公爵令嬢で……私に同情していると書いてあったんです! 私、うれしくて……それで、文通を始めたんです! それで、私の夢の話をしたら、彼女も夢を見るって……。彼女は、予知夢だって言ってました! それを防ぐためにいろいろと手を打っていて、予知夢よりはだいぶマシになっているから、もう少し耐えてほしいって……。メデリア様の予知夢では、魔法大会でみんなが危険な目に遭うかもしれないって……それは、そこにいるリリス・ヴァリアントのせいだって! そして、誰かが告発してくれれば……って書いてあったんです! だから! 私が告発したんです! そう書いてあったから! 公爵令嬢が、やれって暗に書いたから!」


 途中、何度も第一王子がわめいて遮ろうとしたけれど、ケイラお嬢様は思いっきり叫んでいた。

 私と当主様は顔を見合わせ、そっくりに頭をかいた。


「……また夢ですって」

「……また夢かよ」

 もう、いい加減にして。


 第一王子はあまりにうるさく、最終的にはケイラお嬢様を物理で止めようとしたため、騎士様に取り押さえられた。


「離せ! 私を誰だと思っている!?」

「静まれ!」


 とうとう陛下が怒鳴った。

 第一王子はハッとして陛下を見ると、陛下は第一王子の醜態に眉根を寄せていた。


「お前はそれでも王族か!? そのように、ようやく真実を話す決意をした令嬢を怒鳴りつけ、さらには暴力で黙らせようとする……それがお前の王族としての姿勢なのか!? 恥を知れ!」


 第一王子は、一気に血の気を引かせた。

 いや、マジでこんなんが王様になるの?

 私、そうなったら絶対にこの国に近づかないと思うわー。


 私がため息をつくと、第一王子が睨んできた。

「……いい気になっているのも今のうちだ。私が王になった暁には、お前を特別扱いなどにはせず、庶子の男爵令嬢としての扱いに戻してやるからな!」

「その前に、私がこの国にいないと思うよ? 特に、アンタが王様になったら絶対に近寄らないね!」

 手をヒラヒラ振っておいた。


「そんときゃ俺も、この国にはいねぇだろうな……。ま、次にドラゴンに襲われたときはお前が頑張れよ!」

 父も明るく言った。

 第一王子は私と父に怒鳴り散らす。

「たかが男爵が、勝手に出来ると思うのか!? いい気になるなよ!」


 ハァ、と父は大げさにため息をついた。

「それは俺のセリフだと思うがな……。いい気になってんのはお前だろ? ……ま、いいか。俺にはカンケーねーよ。リリス、行くぞ。もうここにいる必要はねーよ」

 促されてどうしようかと思ったら、陛下が直接私に尋ねてきた。

「今回の件、リリス・ヴァリアント嬢は、こやつらにどんな刑罰を望む?」


 は?

 なんで私が?


 ポカンとしたけど、尋ねられたので答えなければならない。

「いえ別に? 私、退学になりたいので、むしろ協力してくれてましたね。退学して、冒険者としてあちこち旅をしたいんです。退学になったらその子たちの望みどおり、この国を出ますよ。レイヴンもそのうち追いかけてくるでしょうし、魔法クラスの他の子も、もしかしたら追いかけてくるカモですね」


「「…………」」

 全員が黙った。


「特に、ケイラお嬢様に罰は必要ありません。ヴァリアント男爵家を継ぐ人ですから。それより、その夢見がちなところを頑張って矯正してくださいな。『夢で見たから』って何もしていないのに『被害に遭った』って訴えて回るの、私もだけど領民も被害に遭いそうですから」


 ケイラお嬢様にいなくなられると私が困るのよ!


 当主様も黙って考え込んでいる。

 ……が、急に顔をこちらに向けた。

「まだ早い。たいした実力のないお前じゃ、野獣どもの餌食になる可能性がある。お前がこの国を出なきゃなんねーときは、俺も一緒についていく」


 えええ……。


「ママンが泣きますよ?」

「許してくれるさ。でなけりゃ、娘が危険に陥るんだ」


 そこまでかなぁ?


「当主様、私にはセラフがいるんですよ。あの子なら野獣なんか一掃ですよ」

「大事な娘を子猫に預けられるか」

 ってことらしい……。

 過保護すぎやしませんかい?

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