第15話 さっそく恩を返したのである

「もしかして当主様って、ケイラお嬢様のこと苦手です?」

 ズバンと訊いたら、うろたえた。

「いや、そういうんじゃねぇ。ただ……気難しいから、どう接していいのかわからん……って前に言っただろ。俺が言って変にこじらせるよか、母親に分かりやすく説明してもらうほうがいいだろ」

 めっちゃ言い訳してきたな。

「そうなんですか。私は又聞きじゃなくて本人から聞きたいですけど、そこは人それぞれですしね。気になるなら本人に問いただせばいい話ですし」

 あんまり触れちゃいかんかもしれんので、それで終わりにした。


 当主様が話を変える。

「よし、説教は終わりだ。次は頼みがあるんだよ。……お前の『聖水』とやらを持っておきたいんで、瓶に詰めてくれ」

「お安いご用ですけど……なぜゆえに?」

「お前の聖水は、教会で売ってる聖水とは違うのかもしれないが、効能としては非常に似ている。浄化と治癒が付いてる。どのくらいの効能かはまだ実験してねぇからわからんが、いざというときに持っておきたい」

「効能が分かったら教えてください。私も分かったら手紙を書きます。……それで、瓶でいいです? 樽もいけますけど」

「じゃあ、樽で」

 これは、安請け合いに入るのだろうかと考えつつ、了承した。

 でも身内だし……って、その前に恩を売りつけられてたわ。冒険者グッズをわんさか買ってもらってたわ。

 というわけで、恩返しをせねばならない。

「じゃあ、今日冒険に連れて行ってくれるお礼に、聖火もプレゼントしますよ。ランタンに入れると便利ですよ~」

 当主様がちょっと呆れ顔になって否定してきた。

「いや、普通の火でいいだろ」

 チッチッチ、と人差し指を振る。

「消そうと思わない限り消えない火ですよ。オイルいらずで経済的です。あと、延焼しません」

「は?」

 当主様が目を見開いて聞き直してきたので、説明する。

「聖属性の火は、燃やしたい対象のみ燃やすのですが、新たな火を作りませんの。ハムを炙りたい、と思ったらハムが炙られますが、一緒に目玉焼きを焼こうとしても生卵は焼けません。ちゃんと指定しないとダメなんですよ~。ランタンに入れておけば、倒そうが水をかけようが消えません。倒してオイルに引火もしません。便利でしょ~?」

 当主様が頭を抱えた。


「……お前、そういうのはもっと早く言えよ……」

 って言われたんですけど。

 早く言ったら何かが変わったのかな?


 顔を上げた当主様が、

「屋敷の光源を全部お前の聖火にしれもらえば良かったな」

 って言ったので、首を横に振る。

「お嬢様が嫌がりますね」

 見かけしだい、躍起になって消そうとして、なんなら屋敷に火を点けて延焼したとか言いだしそう。

「……その問題があったか」

 当主様がぼやく。

 はぁ~と当主様が深いため息をついた。

「……なんでそんなにお前を毛嫌いしてるんだかなぁ。言ってることはサッパリ分からねぇし……。男だったらぶっ飛ばして稽古をしごいて性根を叩き直す、って出来たが、女じゃそんなこと出来ねーし……。かたくなにお前を陰湿でワガママな女だって思い込んでるんだが、まるっきり違うってのはちょっと話せばすぐわかるじゃねーかよ……」


「だから、被害妄想の激しいお嬢様だって言ってるんじゃないですか。『夢で見た』とか『盗むはずだからあらかじめ訴えた』とか、マジでよくわからんですわ。そのくせ、私が逆パターンをやったら『それは嘘だ』ってなるんでしょ? もう、どうやったって分かり合えません!」

 私がキッパリと言うと、当主様もとうとう同意した。

「だろうなぁ……。俺だってそんなん言われたら無理だわ。ソッコー家を飛び出すわ」

 当主様と一緒に肩を落とした。


 ――とはいえ、当主様と奥様は大変だろうなーとは思いますが、ぶっちゃけ私はそこまで気にしてないというか、次にやったら問答無用でしばき倒して冒険者として旅に出る予定なので、どうでもいいのです。


 むしろ、それをきっかけに出ていきたいので「かかってこいやぁ!」くらいに思っていて、そしてその内心を当主様も奥様も知っているので、より大変だなーと思ったりします。


          *


 朝食を食べ終わり、いよいよ冒険!

 私が昨日買ってもらった衣装に着替えて現れると、当主様も着替えてやってきた!

 籠手と肘当て膝当てにブーツ。

 あとはシャツにワークパンツと軽装で、腰に私のより大きめのボディバッグ、背中に大剣を背負っている。


「わぁ! 格好いいです当主様~」

「お? そうか? 惚れ直すか?」

「全ッ然、ミリも惚れてないのでそれはないですけど、誰かを連れ込む心配が高まった気はします~」


 当主様、褒められてご機嫌になったと思ったら地獄に突き落とされた、みたいな顔になった。

「い、いや、しねぇって。さすがにお前の話を聞いて、いろいろ反省したからよ。せいぜい商売女の相手くらいだ」


 ……うーむ。商売女は商売をしているので、そこは売買が成立したならいいでしょう。

 うむ、とうなずくと、当主様がホッとする。

 それを周りの店子さんたちが見て笑っている。

「娘の尻に敷かれてんな」

「〝破壊神〟も、こうなると形無しだな」

 ん?

「破壊神……って、もしかして当主様の二つ名ですか?」

「おう。昔はそう呼ばれていたよ」

 へー! 格好いい!

「私も何かつけられたいなー」

「俺が〝猪突猛進〟って付けてやろうか」

「遠慮します」

 そこまで暴れん坊じゃありませんから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る