屑どもと逃げる、森での逃走劇

コヒゲ

第1話「こいつら全員、キチガイ」

 殺し屋、滝軒 和也(タキノキ カズヤ)は、先日の仕事で殺したターゲットの死体を埋めるためにとある山に近い森に来ていた。


 「はぁ...コイツ、余計なことしやがって...」


 滝軒は先日ターゲットが行った警察への自分の個人情報の暴露についてイラついていた。


 元々はこの森とは違う場所によく埋めに行っていたのだが、そのようなことをすべて警察に暴露されたため、今回はいたしがたなくあまり来たことのないこの森に来たためだ。


 「...だから同業者を殺るのは反対だったんだ...」


 滝軒は右手に持った大きなビニール製の大きな鞄のジッパーを引っ張り、開けようとする。


 ガサツ


 その時、近くで草を踏みしめるような音がじた。


 「...」


 滝軒は拳銃を構える。


 「あのぉ...」


 滝軒の真後ろで甲高い女の声がする。


 「!!」


 滝軒はその声に驚いてしまい、急いで後ろを振り返り銃を構える。


 「あんた誰だ」


 滝軒が後ろを振り返ると、そこには全裸の女が立っていた。


 黒の前髪に、手に握った包丁以外何も身に着けていない、20代半ばであろう女が立っていた。


 足は血塗れで、身体も傷だらけのその女は滝軒のビニール製の鞄を見て笑みを浮かべていた。


 「その鞄の中身って、もしかして”人”ですかぁ?」


 女はなぜか興奮気味で、顔を血と興奮で真っ赤にしながら滝軒に聞いてくる。


 「あんたには関係な...くはなくなったな。たった今...」


 滝軒は混乱する頭を何とか落ち着け、引き金に指をかける。


 「なんだかよく分らんがここに来たのがあんたの運の尽きだな」


 滝軒はそう言うと引き金を引こうと...


 「俺はこの国の国民なんだよおぉぉぉぉっ!!」


 突如右から謎の男が滝軒に突っ込んできた。


 「うおぉっ」


 滝軒はギリギリその攻撃を避ける。


 避けたときに男が滝軒の持っていた鞄を蹴飛ばす。


 「あぁっ」


 すると女は嬉しそうに蹴飛ばされた鞄に向かって飛びついた。


 「俺は...この国の国民だ...だ...だって...この国で生きているんだぞ!」


 滝軒に突如ぶつかってきた男は、ボロボロで汚れた灰色のパーカーと元々は長ズボンであっただろう足の部分がズタズタに破れた黒の短パン?を履いていた。


 「次から次に何なんだよ!ぶち殺すぞ!!」


 滝軒はイライラが爆発し、今度こそ銃の引き...


 「あぁぁぁぁぁああんんっ」


 「うるせぇっつってんだろ!」


 滝軒は喘ぎ声のした方を向く。


 そこには鞄に詰めておいたはずのバラバラに解体した死体の腕を自分の局部に突っ込んでいる全裸の女がいた。


 「マジかよ...」


 滝軒は啞然とした。


 滝軒が今まで人生で体験した中で最も狂っている30秒間だった。


 「あんっ」


 「おい、そこのクソ女!喘いでんじゃねぇよっ」


 パーカー男が全裸女に蹴りかかる。


 「はぁ...はぁ...ああぁんっあっあっんっ」


 「聞いてんのかこのボケェッ」


 パーカー男が全裸女に蹴りかかるが女は微塵も気にせず1人で行為にふけっている。


「何が...じゃなくて...」


 滝軒は今度こそ引き金を引こうと...


 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ」


 「黙れつってんだろぉぉぉっ」


 滝軒は叫び声のした方に振り向く。


 するとそちらには本来右腕があるであろう場所に何もない、またまた血まみれの白Tシャツの男が滝軒の方に全速力で走って来ていた。


 「悪魔がぁぁぁぁっ、僕の右腕が悪魔にいぃぃぃぃっ」


 Tシャツ男はそう叫びながら滝軒達を気にすることなく森の奥に走り去って行く。


 ガサツ


 Tシャツ男が走ってきた方から音がする。


 「今度は...はぁ...なんだよ...」

 

 叫びすぎて息が切れてきた滝軒は過呼吸になる。


 森の奥から何かが出てきた。


 「はぁ!?」


 そこから出てきたのはハロウィンのカボチャのマスクを着けた大柄な斧を持った男が立っていた。


 「くそったれぇっ、てめえら全員死ねえぇぇぇっ!!」


 滝軒は大柄な男に向けて遂に引き金を引く。


 パァンッ


 滝軒の構えている拳銃から放たれた弾丸が大柄な男の肺があるであろう部分に命中する。


 しかし...


 男の体からは血が出ていない。


 「...」


 大柄な男は自分の撃たれた部分を視線を注ぐ。


 しかし、直ぐに滝軒に視線を戻し、男は持っている斧を滝軒に向けて思い切り振りかぶった。

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