Episode 007 隙間に見る遠い日の夢。


 ――隙間。それはアリスと一緒にいる時間。いじめから解放されている時間。



 いじめが行われる時間は、主に休み時間。……だったけど、アリスといるお陰で、もう神崎かんざき美千留みちるは僕に手出しできない。でも、それは逃避行なだけ? それでも今の僕には精一杯のこと。アリスは特別な子。留学生という名のお嬢様だから。


 底辺の僕とは違う。まるで真逆。


 だったら何故、僕と一緒にいるの?


 優越感? それとも玩具的な存在? 時折そんな思いが込み上げるけど、でも、アリスは「君はトモダチ」と言ってくれた。こんな僕でもトモダチになれているのかな……


 お泊りも、エスカレートした。


 一度だけ、アリスは僕のお家にお泊りしたけど、殆どが僕がアリスの御城にお泊りするような形になっていた。土曜日の夜から日曜日にかけてというパターンが主だったの。


 そしてある日のこと。


千佳ちか、料理できるんだね」


 と、アリスは言った。


 そう。この日は二度目。アリスは僕の家にお泊りで来た。


「うん、できるようになったの。お母さん、お仕事で大変だから」


「偉いね。千佳はやっぱり大人になったら、いいママになってるよ。……でも、まずは彼氏かな? 任せて。ウチが千佳をコーディネートして素敵な女の子にしてあげるから」


 嬉しくも、何故か許せない思いも燻っていた。


 お金持ちには、わからない気持ち。アリスとはやっぱり違うから。


「……アリス、馬鹿にしてるよね? 僕のこと……」


 と、トン……と包丁を俎板に当てた。涙まで込み上げてきたから。


「千佳? どうしたの?」


「解る? 僕がどんな思いしてるのか。お母さんが、どんな思いで僕を養ってるのか」



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