東京を歩く

白神小雪

第1話 東京を歩く 渋谷〜六本木〜永田町

私は、東京の冬が好きだ。雪は積もらず、空は晴れ、寒さも対策次第では何とかなる。まるで、散歩をしろと言っているようなものだ。

そんな天啓に導かれ、電車に乗り、渋谷の地へ降り立った。

行き先は特に決めていなかった。しかし、あまりにも清々しい快晴であった。私は、「東京タワーでも拝んでやろうか」などと考えながら、六本木通りへ歩き出した。


私は、上京してからよく散歩をするようになった。理由は単純で、気分転換のためである。東京の地は狭く、そして広い。同じ道を10回歩けば10回分の発見がある。そして、その発見が、「今度立寄ってみよう」「今度はこの通りを歩いてみよう」と言った形でワクワクに変わり、面倒臭い考え事たちを忘れさせてくれる。散歩もある意味では、命の洗濯なのかもしれない。

そんな事を考えながら歩いていると、目の前に六本木ヒルズが現れた。

「この辺りからなら、東京タワーも見えるだろう」そう思い、エスカレーターへと乗り込んだ。

予想通り、右手にテレビ朝日、左手に東京タワーとなかなか良い眺めを見ることが出来た。この周辺は、イルミネーションの目的でしか来たことがなかったが、案外昼の時間帯も良いのかもしれない。


こうして、散歩の目的は一旦完了したわけであったのだか、体力的にまだ歩けるような気がした。そこで私は、未だに済ませていなかった初詣をしようと永田町方面へ歩き出した。

永田町へ向かう途中、いくつもの定食屋が私の胃袋に対して誘惑をしてきた。しかし、悲しいかな、財布の中にはおよそ1000円。一品料理すら怪しい金額であった。

そんな悲しみを味わいつつ、いつか食べに行けるよう、店名をメモに残しておいた。この発見も散歩の醍醐味なのだ。

しかし、六本木という地名を背負っているのに対して、価格が庶民に優しい価格であった。サラリーマンが昼休憩に何人も入っていったことを見ると、味と量は保証されているだろう。私は、いつか絶対食べに行こうと強く決心を決め、歩みを進めた。


そうして歩いていると、大きな鳥居が現れた。日枝神社、東京五社と数えられる神社の一つである。偶然にもいつか言ってみようと思っていたものの一つであった。私は、何か縁を感じ、鳥居を潜った。

鳥居を潜ると、目前に長い階段が現れた。渋谷から約6キロ、足腰には堪えるものがあった。私は、最後の気力を振り絞り階段を登った。

階段を登り切ると、本殿が見えてきた。流石、東京五社の一つ、平日の昼間とは思えない程の参拝者がいた。私は、参拝者の列に並び、今年の初詣を完了させた。

今年の初詣を政治とビジネスの街でできたことに、何か意味があったと信じたい。なんてことを思いながら、就活生の私は鳥居の外へと向かった。


いよいよ、体力と空腹の限界が訪れた。そろそろ帰路につこう。私は、そう決意を固めた。

今回の散歩は、素晴らしい景色、新しい定食屋の発見、初詣、とたった3時間の中にも、なかなか濃いものがあった。そして、気持ちは、空模様のように晴れ渡ったような気がした。

だがしかし、同じくして足腰の疲れと空腹も私に襲いかかってきた。「ちゃんと運動しよう」「今度はちゃんと財布にお金を入れておこう」そんなことを考えながら、永田町の改札を潜ったのであった。

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