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伊藤乃蒼

・現代陰陽師のお仕事

 陰陽師というと、アニメや漫画では札や霊力などを使った派手な職業だと思われる。しかし、実際はとても地味な仕事だ。


「土で埋もれて住む沼が無くなってしまってのぉ……」


「それはお気の毒に、こちらの方にサインをお願いします」


「ああ……500年住んでいた沼だったというのに……」


 今日は住んでいた沼地を再開発で失った河童からの、転居届を受け取る仕事だった。最近、この辺りでは頻繁に起きているので僕は事務的に作業を進める。


「化け狐や山姥たちは、もうそっちへ移住したのか?」


「はい、3日ほど前に移住されました。あなたが多分最後ですね」


「そうか、そうか。それならもっと早く移っておけば良かったわい」


 河童はそう言うと、自分の荷物を持って姿を消した。僕は書類を確認して河童を見送る。


「河童も、化け狐も、山姥も、随分と住みにくくなったなぁ」


 僕の曽祖父の代では悪さをする妖怪や悪霊と戦うこともあったらしいが、僕の代になると戦うというよりは話す方が多くなっている。


「そろそろ立ち退かないとあなたが危ないですよ」


「ふん、ワシはたとえこの身が滅びようともこの山から動かんぞ」


 子泣き爺は頑として譲らない。森林伐採の職員の背に張り付いて邪魔をしているので、形式的なお祓いを頼まれたのだ。


「ううん……」


 もともとはこの子泣き爺の場所に人間が入り込んで開発しているので、強くは言えない。かと言って、この状況を人間に伝えても信じてはもらえないだろう。結局、2時間説得しても子泣き爺は立ち退きを頷かなかった。


「はあ、また来ます」


「もう来るな!」


 子泣き爺に怒鳴られながらその場を後にする。森林伐採の職員に何て言おうかと考えながら。

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